按ずるに筆は一本也、箸は二本也。

 今年の「男く祭」のTシャツを着て、バッグには今夜お会いする63回生Iくんに差し上げる本を入れる。斉藤緑雨『緑雨警語』はF校の大先輩にして文化功労者中野三敏氏の編・注です。池袋ネカフェで昨日の日記を更新して神保町へ。新刊書店では58回生のTくん・Kくんも出題者に名を連ねる『東大クイズ研 異次元クイズ』を購入。我ながら、F校愛に溢れまくってます。
 ドトールで軽く読書(筒井康隆)をした後、欧風カレー「ボンディ」には開店と同時に入店(さすが人気店の祭日、開店前に10人以上並んでいました)。ビーフカレー1600円。グレイビーボートに溢れんばかりのルー、と噂では聞いておりそこで大盛りを頼んだらどうなるかと思ったのですが普通に深皿で持って来ましたね。店を出る時には列は長蛇。美味でしたが、K市絶品カリー「Sally」には及ぶべくもなく。
 先月、既にF校をご退職なさったある先生から電話があり、「Sally」が閉まるということを聞きました。超がつく常連でマスターとも仲のよかった先生は閉める理由を直接ご本人から聞いたそうで、文字通り店に命を捧げたからこそあれだけの味が出せたのだ、と感じ入ることしきり。母君のこともありますので、残念だとか有難うだとかの一語に集約することが出来ません。

 さて、神保町古書店巡りだと歩き出した直後に、まだ入ったことのない店舗の店前投げ捨て100円ワゴンに押し込まれた戸井田道三『忘れの構造』と目が合う。これはこれは始めまして、一橋大学過去問に使われた文章(本書収録の「アイマイの効用」)を通じて一方的に存じ上げておりました。
 こういう出会いは嬉しいですね、と少しテンションがあがったところで、今度はおされ丸出し「東京堂書店」のショーウィンドウに出てた売れ筋ベストテンの中に、昨日ジュンク堂で買い込んだ本が3冊あって(内1冊はさっき読んでた筒井康隆)、何とはなく恥ずかしくなる。しょぼん。

 本旅行唯一の独り予定なし昼下がり、にやることは一つでそれは散歩。先ずは神保町から水道橋、この道は3月の出張と旅行とで2回通りました。東京ドームシティの横を通って春日通りを本郷三丁目の方へ。前回坂を下って本郷から水道橋へ向かったときには全然気がつきませんでしたが、坂を上がっていくと真正面の方角にスカイツリーが見えるんですね。これほど大きくこの塔を視認したのは初めてかも知れない。本郷三丁目に来たら当然東大に入るわけでして流石連休観光客が多いこと、赤門前で写真撮影をしている人たち多数。3月末も来たキャンパスで、今回は掲示ポスターをじっくり読んだり(五月祭関連がいくつも)、安田講堂前でCDを聴いたり。原由子さんボーカルの「ワイングラスに消えた恋」って、ちあきなおみの「雨に濡れた慕情」にちょっと似てますね。学生時代は自転車で帰った道を今日は徒歩で歩いて白山・巣鴨へ。以前住んでたビルのすぐ近く、毎日のように通ってお酒の飲み方を教えていただいた蕎麦屋(初めて美味しいと思った焼酎は蕎麦焼酎・蕎麦湯割りでした)はずっと以前に店を閉めていて、今日はその店の大将が元店舗(現在は自宅に改築)の前に立っておられたのですが声はかけず。奥様は若しかしたら私のことを覚えておいでかも知れませんが、ずっと厨房に入っておられた大将とは一度も話したことがないのです。通り過ぎざまに顔をしげしげと見てしまったので、不審に思われたかも知れません。以前ミツエお姉さまがお住まいだったビルだとか、時々通ってた酒屋だとか、あったあったと思い出しながら巣鴨駅、通り過ぎてとげぬき地蔵。共倒れないのが不思議なほどたくさんある煎餅屋・飴屋の店先にあった「たん切り飴」に食指、ですが買うまではせず。鼻喉はまだぐずぐずと言っているのです。一休みがてら腰掛けたベンチで、63回生の保護者(先に着信があり)と実家の母君とに公私の電話。
 巣鴨から渋谷、渋谷から市が尾へは電車を乗り継いで。市が尾駅のドトールで読書(谷沢永一)、の後、一時間ほど散歩。かつて2年を過ごした福岡県人寮や通ってたラーメン屋(屋号「たかせ」)等々、15年前と変わっていないものもちらほら。ですが、駅ビルから通り沿いの店舗・住宅まで、変わってしまったものの方が圧倒的に多いですね。あの喫茶店もあのビデオショップもあのコンビニも全部なくなってる。

 市が尾から渋谷へ向かう田園都市線に乗った時点で散歩はおしまい。夜の約束の30分前に渋谷着、タワレコに移動して研ナオコのCD、中島みゆき作品の音源をすべて集めた3枚組を購入。「強がりはよせよ」や「みにくいアヒルの子」なんて提供曲は作詞作曲者の歌唱(セルフカバー)を遥かに超える表現力だと思います。
 だから連休にハチ公待ち合わせというのがどれだけ無謀かというのをいい加減体験から学べよ、という18時15分の約束、の5分前に着いたら相手は既に到着されており流石のお気遣い。63回生の東大理系Iくんと、徒歩で神泉に移動して先ずは喫茶店。

 コーヒーショップで差し向かい(Iくん、流石の目敏さで直ぐに「男く祭」Tシャツに気づかれました)、Iくんの近況報告というよりも、やっぱり聞きたいのは体育先生ご結婚のお話のようでして。Iくん、こないだ大砲ラーメン奢ったEくん(東大文系)と同じく体育先生からダブルダッチを教わったんですね。全然気がつかなかったと驚くことしきりのIくんには、先日ご夫妻(数学・体育)と私とで飲みに行ったバーで、夫がトイレ行ってる間に妻に「夫のどこがいいの?」と訪ねた時の答えを教えたげました。IくんもEくんもD-act(東大のダブルダッチサークル)に入るそうで、明日から新歓合宿があるとのこと。
 さて、Iくんは体育先生のことは知っているけれどもその夫である数学先生のことは知らない。でもって、この後合流する55回生Tくんは担任団だった数学先生のことは知っているけれども卒業後に赴任してきた体育先生のことは知らない。Iくん尋ねて曰く「この後お会いする55回生の方ってどんな人なんですか?」
 東大文Ⅱ→経済学部→大学院→みずほ銀行という流れの先輩なら、勝手な予想で申し訳ないけど多分文転したくてたまんないんじゃないかなという大学1年生理系の話し相手になるんじゃ、と思って。場所は神泉の鶏料理「かしわビストロバンバン」。初入店ですが拘りだという鶏料理(カルパッチョ・鉄板焼き・フリット)は確かにリーゾナブルで美味、ポテトサラダ・オクラのサラダ・リゾット等々サイドのおつまみもワインに合って杯が進む進む(Iくんには私が希望も聞かずに烏龍茶を注文)。55回生Tくんが「数学先生の結婚っていうのは俄かには実感が湧かない」と仰るので「直接聞いてお祝い言えば?」とK市の本人に電話しました(迷惑だろけど、おめでとうと言われて喜ばない人間もいないよね、って)。

 日付は少し遡って「男く祭」学校会場、の時にTくんのお母様が職員室に私をたずねて来られ、実際のところは私が遊んでもらっているんですけれどもどうも私がTくんを可愛がっているという認識でいらっしゃるらしくしきりにお礼を言われました。だもんでつい調子に乗って「今度の連休に東京で飲む時には社会人としてお金を払わせます」って申しましたら「ええ、もう、是非、どんどん払わせて下さい」と。
 「だからね、言質とったの」という私にTくんスッと差し出す諭吉。わぁ、みずほ銀行素敵。

 明日は7時半に大学集合、今住んでいる家にはご両親がいらしており、というIくんとは1軒で(0次会のコーヒーを入れたら2軒ですね)お別れして、Tくんと二人で渋谷まで歩き、白ワインの次は日本酒だ、と「十徳」に入る。さっきのおされワインとは真逆の方向性、冷奴に納豆ぶっかけたのやらなんやら食べながら、私は「くどき上手」と「飛露喜」とだったかな、「だからうちに置いてないやつの味見をして来てよ」ときっとまたもやマスターに怒られる「もりき」っ子です。
 とりあえず2軒で飲んだら、3月上京の時の約束が仕事でドタキャンになった分のリベンジは果たせた、と気分よくお別れ。明日は昼からオツカル様とデートだからゆっくり寝よう、と渋谷駅山手線の改札に向かい、改札まで後10メートルだ(「ニモカ」の入った)財布どこかなと歩きながらバッグに手を突っ込んだくらいのタイミングで呼び止められる。

 「あれ、先生?」

 お前一昨日くらいにK市で大砲ラーメン奢ったよな、っていうかさっきの食事中もD-act関連でお前の話したわ、お前ってどこにでもいるよな、という63回生Eくんが目の前に立つ偶然。
 E「今帰って来たところ~、いや~、偶然ってあるね~。会うね~、あははははは」
 私「……何か食べに行く?(空気読めっ、先生ったらだいぶ酔っ払っておいででしょ? もう先生のライフはゼロよっ!)」
 E「そりゃ~も~これは行かない訳がないでしょ~」
 ……あぁ、折角Tくんに諭吉出させたのに。儲けた儲けたって思ったのに、金は天下を回るのね。っていうか、こいつには多分これから結構長い間いろいろ奢ることになるんだろうね、こういう勘は当たるんだわ大体、と、嬉々としてメニューを眺めるEくんを見ながら。
 でもって、入った店のラストオーダーの時間までお喋り。ライフゼロとか言いながら、先生ったら結構くっちゃべっちゃうんだわ。要はお好きなのね。