レッツゴー! ハイヒール ぬかるみだってざぶざぶと

 01年リービ英雄は、東大現代文の歴史の中でも(少なくとも120字記述が始まった00年以降で考えるなら)最難問なのではないかと思っています。昨年(63回生)の理系東大特講では解かせたのですが、今年(64回生)の理系東大には解かせないことにした、というのは昨日の日記に書いた通り。
 なのですが、個人的に解きたいと申し出てきた学年トップの女子の答案を採点して瞠目。これまで採点した(56・58・63、及び64回生文系を合わせた)どの生徒の答案よりも(採点者の主観に依れば)出来がいいんですね。120字の問(五)に(11点中)5点をつけましたが、2点以上の点数をつけた答案は過去に皆無です。特に、李良枝の日本語を「何かの主義に偏らない」、リービ英雄の書こうとした小説を「(主義を脱して)私がとらえた世界そのもの」と書いて来たのには殆ど驚倒しました。残念ながら二人の作家を「同じ境遇」と書いたミスで減点しましたが(リービは母語母国語とも英語なので、在日韓国人とは言語的境遇がまるで違います)、これが無かったらもっと高い得点をつけた。
 何でこんなことが書けるんだろう、と思っていたら、後で「教科書か過去問か趣味で読んだ本かは忘れましたが、『私が日本語で書く理由』という文章を以前読んだ記憶があります」と仰る。全てが教養として吸収されているのでしょうね。で、要は何が言いたいのかというと、答案に「恋に落ちた」ということです(比喩ですよ←念のため)。

 自分で作った解答例(試作)が正しいという証拠も自信もどこにもない(ましてやそれが流布している予備校・問題集解答と違っている場合)。それが、「この人」という人の答案が同じ内容・方向性のもので「あなたの考えは間違っていませんよ」と教えてくれる(自信を持たせてくれる)ことが偶に、本当に偶にですがあるんですね。これでこの先、生徒の誰一人として「そういう解答」を書いてくれなかったとしてももう大丈夫。

 5時入りの職員室でデスクワーク(授業準備その他)。1限目の教室(中3C)に6時に入って板書の準備。今日の授業は「再読文字」の紹介です(で、これを9月の夏休み明け課題テストで出題)。1~4限の授業は50分喋りっぱなしで、8時半と13時との体重差は丁度1㎏。でもって3・4限(11時~13時)の両方が授業や会議やで埋まってしまったら、もう昼食は摂る気がなくなります。昼休みと5限とは卒業生の答案添削(だいぶ量が多くて、ちょっと遅れ気味です)。6限に本日の中3授業プリントの検印を押して、進路指導室でPC作業。放課後は、高3・中3の生徒一人ずつと面談(というか世間話というか)。

 17時過ぎに学校を出て、タクシーで最近三指に入るお気に入り焼き鳥屋「Y」に(残る2軒は、K市の「O」と、二日市の「G」)。
 カウンターで飲みながら、マスターにちょっと先の大型予約(30人)のコースの相談をする。F高の高3担任団が主催の夏の懇親会(恒例行事)の幹事を依頼されたので、参加者絶対満足の「Y」にて2階座敷を借り切ることにしたのです。でもって、コースの相談については電話よりも店で飲みながら直接お願いした方が感じがいいかな、と。これも仕事の一環なのよ、と訳の分からないことを自らに言い聞かせながら焼き鳥もしゃもしゃビールに日本酒ぐいぐい、仕事楽しい。
 途中で、カウンターの隣にF高3年の女子生徒がお母様と二人でおいでになり、「あら先生!」と話しかけられたのがめちゃめちゃ恥ずかった(何せ教員が真夏の18時前なんて明るい内から飲んでるんですから!)、というハプニングはありましたけれども、何だで幸せな2時間。
 鶏刺し、冷や奴、焼きおにぎりと味噌汁。串はつくね、ベビーコーン丸焼き(これはサービス)、レバー、オクラのバラ巻き、ゴボウのバラ巻き、ウィンナー、万ネギ豚巻き。帰りにコンビニでアイスクリーム。滅茶滅茶食ってるな。
 あ、書いてて思い出した。瓶ビールのキリン(一番搾り)が限定の「福岡づくり」になってたんだ。あれは味が薄くて(コクがなくて)美味しくない(と会に参加する少なくない先生が仰ってた)から、懇親会の当日はキリンが「福岡づくり」なのかどうかを確認しなきゃね(もしそうだったら乾杯の瓶ビールはアサヒになります)。こういうのがあるから、幹事は直前偵察をするに限るんですよねぇ。

 松居大悟『さあハイヒール折れろ』読了。F高出身のこじらせ系映画監督が女性ゲストに恋愛指南を受けるという対談集。
 ジェーン・スーからは「狂ってる……」、大森靖子からは「もう女子じゃん!」、ペヤンヌマキからは「マジですか……風俗でさえもこじらせているとは」、マキヒロチからは「え、ダメじゃん(笑)」、犬山紙子からは「アハハ、ショボい!」「せつね~」、リリー・フランキーからは「監督は次はどんなペラい映画を撮るの?」「愚鈍なMですよ、GMですよ(笑)」 切り取り方は恣意的ですけど、総じてこんな感じ。内容を一語で言えば、リリー・フランキーの言を借りて「不毛」。
 別に困ってる訳じゃないですけれども何が困るって、私にはこの筆者が恋愛をこじらせてる人には全然見えなくて、ごく普通の男性ってこんなもんなんじゃないの? としか思えない点でして(童貞をこじらせてるってのを売りにしてたのに、この対談の連載中にさっさと捨ててその後は突撃しまくってたってのは面白かった)。もしやこれは、F校6年間男子校の生活がもたらす共通症例なんでしょうか。
 さて。リリー・フランキー以外の登場人物については全員この本で初対面。の私が芥川賞風に本の中での(あくまでこの本の中での)面白さ採点。リリー・フランキー○、松居大悟△、ペヤンヌマキ△、大森靖子△、犬山紙子×、マキヒロチ×、ジェーン・スー×。本自体は★★★。