嵐を起こして 全てを壊すの

 何というか、人生初の事件なので、書き方に迷うんですけれども、出来るだけ冷静な筆致を心がけて、事件については起こったことだけ書きますね。
 と言うわけで、山手線の中で鞄持って行かれました。10分寝落ちした間に、見事に。

 鞄の中に入っていたのは、運の悪いことに月末の引っ越しに合わせて(リスク分散の原則を完全に無視して)一ヶ所に集めておいた、要するに全財産。要点をリストアップすると。
 ①現金……7万円
 ②クレジットカード
 ③2種類の銀行のキャッシュカード/通帳
 ④身分証明書(保険証)
 ⑤現在の自宅の鍵(合鍵無し)
 ⑥引っ越し先のマンションの鍵(合鍵もろとも全部)
 ⑦チケット……井上陽水公演・春画
 ⑧帰りの新幹線の切符

 披露宴用の礼服を着て、後は頭髪・髭を理容室で整えて貰ったら完成、の身体一つで(本当に身体一つですよ。身ぐるみ剥がされましたからね)、辛うじて理性を保つ努力をしながら必死に考える。失ったものは返って来ないという最悪の仮定をした上で、私はどう動くべきなのか。
 先ず、ズボンの左ポケットに携帯電話が入っていてこれが盗られなかったことは不幸中の幸い。そして、さてどうしようと拱手した時に右手に当たった感触、左の胸ポケットに披露宴のご祝儀3万円が入っててそれも無事だったことが発覚。35歳、3万円で欣喜雀躍。

 先ずは、駅のホームでクレジットカード会社・銀行2行の盗難紛失係に電話をして、カード・口座をストップして貰う。次に、鍵の110番に電話をして、明日の14時にK市の自宅前に鍵開けに来ていただくことをお願いする。更に、新しく引っ越すマンションの管理会社に電話して、未だ(内覧会以降)入ったことのない自分の部屋の鍵を付け替えて貰うよう申し込む(アホだなぁ……)。
 勿論、本日の披露宴には「参加」することに決定。披露宴に誘われた電話での「TQCからは誰が?」「それは今から連絡を回すんだけど……」「嘘っ、マジっ!? 泣いていい? 僕が最初!? 嬉しい!」「泣いて泣いて」という会話を覚えてる私が、個人的事情で(大切な友人の)おめでたい席のテーブルに穴をあけるというのは論外です。でもってどの道、ご祝儀の3万円を使ってK市に逃げ帰っても祝祭日だから銀行にも役所にも駆け込めない訳ですし。私のすべき(出来る)ことは、披露宴出席以外に何もないっ!(←格好良くない)

 twitterに「退っ引きならない事情で」披露宴に遅れます、の投稿。披露宴に参加のオツカル様に電話をして、他の全員には理由は内緒だけれども、と事情を話し、3万円お借りする約束を取り付ける。
 警察・JRそれぞれに被害届を出しに行き、どちらからもオーテリブルオーテリブルオープアボーイと慰められつつも、盗まれたものが帰ってくる可能性は低いということを言外に伝えられる。アイノーアイノーマイバッグハズゴーンネバーネバーネバートゥーリターン。
 朝から開いてる理容室で頭と髭とをあたってもらい、代金は祝儀袋の中から1万円を抜いて支払う。ゆりかもめにのって披露宴会場最寄り駅に着いたのは、開始から30分ほど経ってから。

 披露宴会場まで走り、到着は開宴40分後。ホール入り口にオツカル様に迎えに来て頂き、その場で3万を借りる。1万円は祝儀袋に戻し、2万円は礼服のポケットにイン!
 会場入りした後、先ずは北白川くんのお母様にご挨拶をしてご祝儀をお渡し。遅れた理由は「飛行機の都合」と言い訳しました。この時受け取った「御車代」が、相場の遙か上を行く3万円だったことが、この後数日間の私の生活を救ってくれたのですがそれは別の話(北白川くんに多謝! っつか先に言わなきゃいけないね、御目出度う!)。

 新郎のど和服の上にパイナップルホストな髪型を「見たことがないぞ誰のチョイスだ!」と大笑いしながら席に着いた私に、TQC同期(まっぴぃだけ1期上)から総ツッコミが入る。
 が「お前なんで前乗りまでしてて遅れんだよ! 退っ引きならない事情って何があるんだ。仕事か? 仕事の鬼か?」
 池「いや~、まぁそんな感じなんだけど。退っ引くかなぁ、と思ったんだよ。でもさ、退っ引くかと思わせといて、退っ引かない。あれ、これ、意外に退っ引かないぞ、みたいな」
 遠「何ですかこんな大事な席に。あなた『卒業』気取りなんじゃないですか、ダスティン=ホフマン気取りなんじゃないですか!?」
 池「なんで入口扉を開けるのが40分ずれたくらいの理由でハリウッドスター呼ばわりされなあかんのだハローダークネスマイオルドフレンド!」
 とまぁ、このノリで着席したなら、後はガンガンに飲むだけですよ。の勢いで早速ボーイさん(ここの会場バイト、どいつもこいつも顔面選考・先行で選ばれとんな)に瓶ビールを持って来て貰う。
 池「でたっ、キリンだっ!」
 が「お前、キリンだったら負けだってtweetしてたな」
 池「もうガンガンに腹見せます!」

 他は4人がけ5人がけのテーブルばかりの中で何でTQCだけ7人も詰め込まれとるんだとか、再度聞くぞあのパイナップルホストな頭は本人の趣味なのかとか、新郎スライドショーの大学入学式の次が職場てTQC全無視やないかとか、デザート庭園ビュッフェで無理からパティシエの衣装を着せられた新郎に鎧塚感が一切ないぞとか、幾ら随分前に結婚式は終わらせているとは言えこれ披露宴だぞお前ホントに二次会はカラオケボックス8人予約て新婦ガン無視で大丈夫なんかとか、全方位的にツッコミを入れつつ和やかに宴は進行する。

 真っ昼間のゆりかもめで二次会会場(新橋のカラオケボックス)に向かいながら、本日めでたく全財産ひんむかれて池ノ都先生ど素寒貧という事情を説明する。「披露宴でそんな辛気くさい理由言えるか?」

 新橋の「カラオケ館」に招待されたTQC7人で入り、本当にフリータイムの中部屋に通される。言ってませんでしたね、参加者は18期がオツカル様、リンリン、がっ様、私、遠ちゃん、アラリン。17期がまっぴぃ。
 新郎主催のクイズイベントをする(っつっても、ピンポンブーを使って流すだけでしょうけど)、その新郎が1時間ほど遅れて来るということ。待ってる間は、先の披露宴に関して、他は4人がけ5人がけのテーブルばかりの中で何でTQCだけ7人も詰め込まれとったんだとか、三度聞くぞあのパイナップルホストな頭は本人の趣味なのかとか、新郎スライドショーの大学入学式の次が職場てTQC全無視やったやないかとか、デザート庭園ビュッフェで無理からパティシエの衣装を着せられてた新郎に鎧塚感が一切なかったぞとか、幾ら随分前に結婚式は終わらせているとは言え披露宴だったんだぞあいつホントに二次会カラオケボックス8人予約て新婦ガン無視で大丈夫なんかとか、全方位的に天丼でツッコミを入れつつ、オツカル様・がっ様・池ノ都を中心にカラオケを歌ったり。がっ様が長渕の「Captain of the ship」、私がみゆきさんの「北の国の習い」、オツカル様がゲスの「私以外私じゃないの」等々。

 新郎到着の後、まっぴぃ・新郎・池ノ都・リンリンの4人が中心となって企画を……うった中で光ってたのは流石(普段から会社のレクレーションでたびたび「顔」クイズを披露しておられる)まっぴぃ。一堂に会した様々な樹木希林がどの(映画・ドラマ・CMに出演した)希林かを当てる、題して「利き希林」。私は「ムー一族」「あん」を正解し、映画「我が母の記」を「花の下」と誤答。センター試験出典、井上靖「花の下」は映画のタイトルではなく原作小説の題名でした。引っ掛けで1枚だけ入っていた「草間彌生」はがっ様が見事に正解。
 まっぴぃの「顔」企画は続いて、新郎新婦の姓に因んだ「中田・野村」縛り。私は「野村道子」「中田ヤスタカ」「野村周平」等を正解。後ろ二人はオツカル様・がっ様もお分かりにならないようでしたが、私も当然顔は知らず、年格好と雰囲気からの完全な類推でした。類推・勘と言えばがっ様が「野村胡堂」を正解したのは直観炸裂で全員爆笑。
 新郎と池ノ都は普通の早押しクイズを流す(まさか、就職以来の70問がこんな所で使われるとは全く思ってもみませんでした)。新聞校閲を職とするリンリンは、誤植を見破れクイズを映像で(これも面白いんですよねぇ)。

 そう言えば、二次会カラオケボックスは私、がっ様の二人だけがず~っとビールを飲んでて、残りは全員ウーロン茶でした。地味文化系とは思えぬ隠れ飲みサー(でしたよね?)のメンバーも、12年経ちゃそうなる、ということか知らん。
 ど素寒貧先生の二次会費用はまっぴぃが立て替えてくださいました。

 自棄ぎみに楽しんだ後は、ホテルに戻って昏々。明日以降のことは、明日の朝考えるんだい!