あるいてくはずだった私は 雪で足跡が見えない

 雪。
 のF高入試。

 ニュースを殆ど見ないので、これほどまでの寒波が襲来するのだ(これほどまで雪が積もるのだ)というのは予想してませんでした。起き出して直ぐカーテンを開いてギョッとしましたもん。西鉄・JRは動いているようですが、西鉄バスは完全にストップ。
 あ~、これ本当に入試に深刻な打撃があるんじゃないの? と革靴でざくざく雪を踏みながら出勤。昨日とは打って変わってノロノロ徐行のタクシーは、本気出して走ったらスピードはどっこいなんじゃないのかってほど(多分、こっちが転ぶでしょうけど)。ホテル宿泊の体育先生はスキーウェアとスキー靴とを準備したと仰ってて「んな大袈裟な」と返したんですけど全然大袈裟じゃなかったんですね(実際、その格好でホテルから40分の徒歩通勤だったそう)。

 結論から言えば、入試は開始を20分遅らせるだけで済みました。しかも、昼休み60分を40分に短縮する措置を取ったために終了の時刻は定刻。定刻にした理由は、新幹線の指定席など時間の都合がある受験生がいるだろうから、っていうより一刻も早く帰らせないと現在進行形で酷くなってる雪で帰ることが不可能になるだろうから、って理由。
 このどか雪で決行かよ鬼かよ、っていうツッコミは事情を知らない人からならあるかも知れませんけれども、受験生はほぼ全員ちゃんと定刻に会場に着いてましたからね。それ込みで準備するのが当たり前な程度には真剣なんです(運休予定だったF校行き臨時バスを一転運行という西鉄の措置のお陰もあります)。欠席者は例年よりも遥かに少ない人数。

 こっから先の業務は企業秘密。採点ガシガシ、お茶ゴクゴク、お菓子ポリポリ。
 今年のF高入試国語の出典は、邯鄲淳『笑林』、森谷明子『春や春』、串田孫一『生きるための思索』でした。古典の問題で数年ぶりに漢文(の書き下し文)が出題された以外は、例年通りの構成です。

 さて、採点が終わって、夜の職員室。「バスが走ってない!」「タクシー会社は電話に出ない!」「車で帰るなんて出来るわけない!」という状態。徒歩以外の方途がない状態で、早くも諦めて学校泊を決めておられる先生もいらっしゃいます(ベッドは、保健室その他にありますから)。
 西鉄かJRに行けば辛うじて電車は運行していますが、その駅までは……。
 国語「八甲田山ですね」
 数学「うえぇ、いややぁ」
 ところへ若手体育先生が。
 体育「池ノ都先生、ハッコウダサン……って何ですか?」
 国語「あら、知らない? 中学レベルの四字熟語だよ?」
 体育「まじっすか!?」
 数学「おいおい」
 国語「社会人としては知っとかなきゃのレベルだよ。全ての天運に見放された人々が、何とか生き残ろうと必死で策を巡らせ行動しようとすること。漢字で書いたら『薄幸打算』ってなる」
 体育「本当っすかぁ?(と、国語の顔を凝視)……いや、なんか顔が嘘ついてるみたい……うん、嘘だ。嘘でしょ? 私が思うにこれは……山だな」
 国語「あらお見事」

 八甲田山でざくざく雪を踏みながら校門を出て、取りあえずダメ元で「もりき」に電話したら店を開けてるというのでじゃあそこで飲んでさっさと帰って寝ましょうか、と思っていたら体育科とも電話が繋がってしまう。
 ベテラン体育先生、私の3つ上の体育先生、同じ歳の体育先生、という体育科3人は全員が(うち2人はホテルを予約して)K市泊、ならどっかで飯食うぞ(=飲むぞ)というお話になっているそうで。全員が雪山用の靴を履いて「今、焼肉屋『M』に歩いて向かってます。予約、3人から4人に変えましょうか?」って。

 八甲田山を走ることになるとは思わなかった。こっちゃ革靴だぜ? とか愚痴りながら、車道のいちばん歩道に近い部分、人の足にもタイヤにも踏まれていない雪がふかふかの部分を選んだジョギング疾走で体育科を追いかける私。文系文化系のもやしっ子だけど飲み会関係なら体育科に変わる!
 店に向かう途中の3人に10分走って追いつき、後は4人でざくざく雪を踏みならしながら。車も殆ど走ってない、走ってる車はチェーン徐行。よく使ってる居酒屋は「H」も「K」も臨時休業、ってそらそうだそっちが正しいよく開けてたな焼肉「M」! そしてお前ら4人、スリップした車にぶつかられないかとビクビクしながら横断歩道を渡るお前ら4人、そうまでして旨い焼肉だビールだにありつきたいのか? と聞かれたら、はい、ありつきたいのです。

 40分歩いて到着した店で乾杯の大ジョッキが、網焼きのネギタン塩が、「「「「うんめええええぇぇっ!!」」」」
 歓談2時間半で半ば自棄気味に飲み食いして、帰れなくなったらそんときゃそんときだ! ってテンション。実際、席を立つ30分前にお店の人に知ってる限りのタクシー会社に電話して貰ったけれど全部断られましたからね。んでもって、自棄が過ぎたのか会計が一人あたり1万円を超えましたからね。

 家までの距離がいちばん遠いのが私で、八甲田山1時間だな! という覚悟で4人が店を出ましたらその目の前を徐行のタクシーが通り過ぎようとしてまして、追いすがって手を挙げたら快くドアを開けてくれまして。
 「俺らもってるわ~」と上機嫌の4人は、最初にベテラン先生のホテル、次に同じ歳先生のホテル、そして3つ上先生のご自宅、と廻って最後が私の自宅。途中、上り坂で突然タイヤが空転して前に進まなくなり往生しましたが、近くに居た大学生らしき方に手伝っていただいて後ろから坂の上まで押したら何とかなりました。初めての経験。