けんかをやめて 二人を止めて

 東大16年度第一問は内田樹反知性主義者の肖像」。昨日も書いた通り、主義主張や思想に応じて、様々な反応が予想される挑発的なチョイスですね。喝采、激怒、インテリ的冷笑(←大笑い)……。今頃、内田氏のTwitterアカウントは大変なことになっているのでしょう。
 筆者名と出典(2015年、発売直後に読みました)とを知った瞬間の私の感想は「出すべき人が出た。出すべき文章かは疑問だけど」。

 で、3時に目覚めたホテルのベッドの中、ネットで文章と設問とを確認。
 予備校各社解答も面白いですね。問(五)120字なんて、「筆者は自信があるということ」(東進)というフレーズが嫌味にも見えますし、「現代の日本を考えるとき」(駿台)というフレーズが忖度しすぎにも見えますし。とまぁ、そういうのは自分の解答解説を作ってから言え、という話か。
 一読で言えるのは2点だけ。まず、「人物鑑定を誤ったことはない」(傍線部)という言に、「自分が常に正しいと言っている! これは筆者が定義した『反知性主義』そのものだ! ブーメラン! 筆者アホ乙!」と反応した人は、多分ダメなんじゃないかな、ということ。つっても、人間が最も「素直」になるだろう入試レベルの緊張下ではそんな受験生は皆無でしょうが。
 で、もう1点は、この問題は15年の池上哲司『傍らにあること』と表裏一体で読み解くことができて、少なくとも自分が東大現代文を教えるならその方向で解説すべきだと考えているということ。二つ、同じこと言ってますもん。
 詳しくは、オフライン(の授業や雑談)で。って、今後出会う受験生以外でこんなの詳しく聞いて面白がる人は居ないでしょうけど。

 荷物をまとめてホテルをチェックアウト7時過ぎ。池袋→渋谷で駅のコインロッカーに荷物を預け、井の頭線駒場東大前。昨日同様、8時に駅に立ち、やってくる受験生と挨拶をする。昨日に引き続いて、Eくんもお手伝いです。
 昨日の(国語・数学の)出来について話すことは厳禁ですが、取りあえず「国語の文系専用現代文は誰も解けないはず」という魔法を全員にかける。安心して2日目に臨んで下さい。
 現役生某氏が、どこかで出会った時代錯誤社からの予想問題集を「ゲットしました! もらうとき滅茶苦茶恥ずかしかったです!」とわざわざ私に届けてくれました。乱丁本でしたが、同じページが4ページ(要するにB4の紙1枚分が重複して)入っているだけだったので、会社の杜撰に文句を言うのはやめときます。

 時代錯誤社、今回は「東就学」でなく「柬京大学」というタイトルでした。現代文の出典は、小保方晴子『あの日』なのではという私の予想は見事に外れ、実際は佐藤亮子『「灘→東大理Ⅲ」の三兄弟を育てた母の秀才の育て方』、及び元少年A『絶歌』でした。古文は『両成敗物語』、漢文は『春秋邪尼図伝 喜多川八十四年』です。
 『両成敗物語』は、「次の文章は、別鬼という名の邪神と下衆極乙女との逸話である」というリード文つき。「別鬼」は、語注によれば「本名はレベッカ・アイボーン」だそうです。流石のセンスは、寺田心を「寺田邪心」と叩くのと同じレベルでしょうか。
 文系受験生の何人かはこのネタ本を見て、良い意味で脱力してくれたようなので何より。誰かが「書く側にまわりたいわ~」と言ったのについては穏やかに制止しておきました。

 さて、またしても9時には全ての仕事が終わり、私・Eくん・文系担任先生の3人で世間話をしながら駒場から渋谷までぶらり旅。Eくんの「多分こっち」案内は非常に心許ないものではありましたが、途中で場所を知りたいと思っていたアルゼンチン料理屋を見つけさせてくれてお手柄。がっつりしたお肉、今度連れてったげるね。
 渋谷着、で寝不足の文系担任先生とお別れし、「朝ご飯食べる?」「食べる!」とのやりとりで「磯丸水産」。24時間営業の居酒屋で、Eくんはネギトロ丼からの海鮮茶漬け。なんで米をハシゴ出来るんだよ、とツッコミながら私は9時半のビール、からの芋焼酎お湯割り。だって、今日はもうK市に帰るだけなんだからいいんですもん。非日常だもん。
 途中、「早稲田通った!」という我らがA組某氏からのメールにお目出度うポーズのEくんの写メつけて返信したり、まぁ色々ダラダラと過ごして10時半。重い腰を上げて渋谷→品川→博多→K市。といつもなら別パラグラフで詳しい説明を書くところをすっ飛ばしたのは勿論車内爆睡だったから……って嘘、岡山あたりで目覚めて、車内販売のビールを飲んだりしました。

 と言うわけで、帰宅17時の時点で割と(朝から通算するとビール2リットルと、芋焼酎お湯割り4杯とを)飲んでてほろ酔いだった私です。
 とは言え頭は(まだ)クリア。進路指導室からかかってきた電話の応対で明日の仕事の打ち合わせをして、早慶合格の我らがA組出身者(及びそのご家族)とやりとりをして、というのを1時間弱。
 その後、Hさんち経由で「もりき」。私と自衛隊Aくんとからのお土産を私、「もりき」では牡蠣鍋で日本酒。池袋「魚菜家」の日本酒のプレミアムプライスをお教えしたらマスターは目を丸くしておられました。

 旅行中の読了本。葉室麟『天の光』読了、★★★。巧い。でもって、有川浩ほど極端ではないものの、「正しい」という意味で「ライトノベル」なのは同じかな。山本周五郎の複雑さ・深みはない代わりに、解りやすくて面白い。山本周五郎ですら、山本夏彦あたりからは「正しすぎる」と言われていたわけでして。
 でもってその有川浩『倒れるときは前のめり』を読了、★★★★。正しい。でもって巧い。