小豆洗おか、人取って喰おか

 さて、本日は「男く祭」初日@F校会場。外部(F校外)のお客様に構内を開放し、バザー・委員会展示や、中央ステージ・体育館等での様々なイベントを見学していただいたり参加していただいたり、という一日。例年なら(大抵中学所属ではなく高校所属である)私は、体験授業を1時間行う(←断れない性格を知って依頼、というか命令してくる学年が多いのです)意外は校舎内外をぶら~っと歩いて様々なB~C級グルメ商品を買い倒したり(キャべジン必須)、遊びに来る卒業生と歓談したりして遊ぶのですが、今年は全く趣が異なります。

 だって、高1A担任だから。
 高1Aのクラスバザーがありますから。

 就職以来13年間、冷蔵庫食器棚鍋釜薬缶包丁俎茶碗皿箸一切を購入することなく料理自炊を人生から切り捨ててきた人間が、5時入り無人の職員室でひたっっっっすら米を研ぐ! 1升や2升どこの騒ぎじゃない、20kgの生米の9割方を研ぎ倒す! 米を研ごうか人とって喰おうか、とか訳の分からん滑り方をしても誰一人聞く者もない薄暗い洗い場で、自分じゃないクラスの子じゃない誰が食べるのか分からない米を、じょりじょりじょりじょりと。
 準備したジャーは、業者からレンタルした2升炊きが1つ、保健室ベテラン先生からお借りした5合炊きが3つ、そして業者からレンタルした4升の保温専用が1つ、で計5台。今日は9時開店のハヤシライス屋さん(高1A「囃し芋」)の営業を援護射撃するためだけに生きる日なのです。

 ですから、体験授業の板書計画も全く出来ていない午前6時。授業は10時からなのに、下書きをする時間すらない! 教材は15年度(池上哲司)と16年度(内田樹)との東大現代文で、そのプリントは準備してるんですよ。体験授業を担当する高3氏からは「資料は60部くらい準備してください」と言われていたので、あら頼まれたら断れない「弱」の教員だけれどもやるとなったら結構人気は高いのよ、と10時一番手という人の少ない時間なのに資料は100部刷っています(昼からだったらそれに30~50ほど上乗せしていました)。
 じゃりじゃりと米を研ぎながら、何をどんな風に書いて喋ろうかを懸命に考えるのですが、何しろこんなに大量の米を研ぐ経験などついぞ持ち合わせていないので慣れない作業で思考に集中できません。結局、6時半の調理開始可能時刻になり4台の炊飯器の全てのスイッチをオンした時点で、板書下書きは全くの白紙。

 6時半ごろから、寮生や市内在住の生徒を中心に登校可能なお子たちがちらほらと姿を見せ始めました。早朝からの協力を労う一言もかける余裕のない担任は、「(ハヤシライス用の)玉ねぎと(大学芋用の)サツマイモを切って切って切りたくれっ!」と命令。お子たちは、水道水を入れて凍らせたペットボトルを持ってきてくれており、これを氷代わりにしてクーラーボックス内のジュースを冷やし始めます。
 7時を過ぎたあたりで4台の炊飯器が全て炊き上がったので、都合3.5升の白米を全て保温用のジャーに移し、間・髪を入れずに2回目の炊き込みを始めます。教室内の調理場では、これまた業者レンタルのIH調理器・生徒提供のホットプレートを使って、切りたくったサツマイモを油で焼き、昨日メロスが届けてくれた大学芋の素を絡め、出来上がった端から扇いで冷まし、それを一定量ずつカップに移し爪楊枝を刺す、という流れ作業が行われています。
 大学芋が一定量出来上がったら、今度はハヤシライスのルーを作ります。玉ねぎを(「ミスター味っ子」の対堺一馬カレー対決を彷彿とさせる隠し味であるところのインスタントコーヒーと一緒に)炒め、豚コマとスライスマッシュルームを加え、水を入れて煮込みルーを加える、というこれまた流れるような作業を、(特に男子と女子の間じゃ)ぶっちゃけまだ名前もそんなにゃ覚えてないぞ、という生徒同士が手を取り合って。うんうん良い姿だ、とか感に入る暇もなく、担任は米を研ぎたくっているだけなんですが。
 米研ぐ合間に出席を取ったり配り物(パンフレット)をしたりする担任業務をやってたらそら板書準備の暇もないわ、という話。外部向けの講義の準備がここまで出来ていないのは初めてなのでか~な~り~焦ってちょっとイラついてたんですが、お生徒さんたちが一所懸命に作業してくれたり、あいつとかあいつとかもう朝の段階からサボって売り場教室に来ないんじゃないかなぁと想像してた人たちが一応全員姿を見せてくれたりと、お子たちが担任の先生を刺激しないでいてくれたのは有難かった。

 あ、そうそう。後日担任団に打ち明けたら「何やってんの!」と怒られたんですけれども、携帯をボッシュートしてる最中の某くんに、今日だけ携帯を返したげました(わざわざ職員室で充電までして!)。来校なさるお父様・お母様との連絡用、及び「男く祭」の写真を撮るため(だけ)に使う、という口約束を全面的に信用して(全面的に信用して、なので実際のところの確認もしてません。私を欺くのなんてチョロいですよ)。放課後には再び回収(ボッシュート)しています。嫌でしたけど(←しつこい)。

 9時になったら徐々にお客様がおいでになり、入り口が1箇所しかなく見つけにくい・入りづらい角部屋だというハンデがあるのですが、そこは外部中から来た生徒たちの人脈や、校内で唯一米を売っているバザーだということを武器に、時間帯別のシフトを担当している生徒があらん限りの声でハヤシライス(と大学芋とドリンクと)を売りまくる……って、そんなに大声出して、明日のコーラスは大丈夫なの?
 へぇ、あの人が、あの人が、という意外なお子たちがこういう時のテンションが高かったりとても協力的だったり売り歩きが上手だったり、という意外な姿を見せてくれるのが非日常の面白さ。ってまぁ、それをしみじみ眺める余裕もなく担任は米を研ぎ炊きしてたんですけどね。

 9時30分~45分の15分間で板書計画を走り書き。ここまでの突貫工事は初めてで、外部の方へのお話という配慮が著しく欠けた(要するに高3に対する東大特講の話にかなり近い)ものになりましたがこれはもう仕方ないと諦めて出たとこ勝負だ、と腹を括、ろうとしたらK市の母にして飲み友達のHさんが入り口に並ばれてて腰を抜かしそうになる。「いけのっちゃ~ん、見に来たわよ~。うふふふふふふふ」
 体験授業、板書の内容は覚えている(というか下書きの記録がある)ので何を喋ったのかは大体想像できますが、授業中の記憶はほとんどありません。テンパってるしハヤシライスが気にかかるし。でも多分、クオリティが低すぎると軽蔑される内容ではなかったのではないかと思います(何を言ってるのか分からない、と思われた方はいらっしゃるかも)。聴講者も100人は超えていましたし。卒業生や(特に63回生の)保護者の方々が多く集まって下さいました。多謝。

 大学芋は開店早々に売り切れ。ハヤシライスも、ルーの追加で材料を買い足しに行く程度には売れています。感心したのは、ライスを注ぐのを開店から閉店まで一貫して一人で行い最早100gをよそうのに秤は要らぬわというレベルに到達していた女子と、ジュースだけでなくハヤシライスを歩き売りに行くという作戦に早々に出た(そして勝利した)大勢の生徒。やるなぁ、としみじみ。
 残念だったのは、一浪組の63回生や大学生になったばかりの現役64回生組がたくさん学校に来てくれていたのに、米を研ぐ炊く釜を洗うという仕事に文字通り忙殺されていた私が殆どお相手をする暇がなかったこと。本当に会釈くらいしか出来ませんでした。Hさんへのお礼も、結局米を研ぎながらの携帯でしたし。

 14時に閉店(オーダーストップ)、掃除片付けをクラスの全員で行い、体育館で全校生徒による閉会イベントが行われたら、後は各自昨日同様に備品移動を終わらせて解散するのみ。全ての生徒が帰宅したのは16時を大きく回った時刻。
 私は、レンタルしていた調理器具の返送作業を行ったり、明日(「男く祭」2日目@市民会館)必要な荷物や書類を準備したりと細々した作業を17時過ぎまで。

 全てが終わった後、職員室の体重計に乗ったら被服で63.9㎏まで落ちててゾッとしました。いちばん重かった時代と比べてきっちり10㎏減ってます。走り回ったのもそうですが、やっぱり母君の小脳転移再発という気分的なものも大きいかな。もしも悲観するしかない告知を昨日されていたら、今日の体験授業を母君にお見せすることも考えていました。

 「もりき」のつてでクーラーボックスを貸してくださった方にお礼を持って返却に伺い、一旦家に戻って風呂に入った後、徒歩4分の「もりき」に移動。黄金週間の上京でもお会いすることになっている56回生Yくんと二人で鴨鍋をつつきました。
 Yくんは10年前の文化祭責任者の立場。フォーマット自体は全く変わっていないのですが、何しろ校舎から違うし共学化が完成して生徒の様子も違う、という変化についてお話をしつつ。