あなたに似た人

 地獄の忙しさ!

 4時起床、お風呂にお湯をためながら、本日夕方に母君のリハビリステーションに提出する(膨大な種類の)書類の記入漏れが無いかをチェック。風呂上りの時点で(物音が五月蠅かったかな)和室の母君はお目覚めでしたので、入浴の仕方(ボタン操作の方法)を図示してお伝えする。その手の操作は極端に苦手な方ですが、「追い炊き」ボタン1つを押したら勝手に42度まで湯温を上げ、機械ボイスで知らせてくれるということを伝えたら納得して下さいました。食事は、朝昼兼用でチキンラーメンを召し上がるとのこと(曰く、「他の物は舌が受け付けない」と)。T-falが滅茶苦茶役に立っています。

 母君を自宅に置いて(食事・入浴時以外は布団に横になっておられるはずです)出勤。
 6時に学校入りして、8時までデスクワーク(担任業務・授業準備)、8時から生徒面談。始業後は、SHRの後、1~3限まで授業の後、3限終了5分後の11時50分に事務室前に電話予約で呼んでおいたタクシーに飛び乗ります。

 自宅で母君を拾った後、そのまま西鉄K駅近くのN銀行へ。母君がお使いの口座の、登録印鑑を先日の実家引き払いのゴタゴタで紛失してしまったということで、新しい印鑑を登録しなおす手続きを行うのです。母君は立って歩くのが殆ど困難な状態なので、待合のソファに座って待ってもらい、手続きの殆どは私が代行。どうしても母君直筆が求められた時は私が書類を持ってソファと窓口とを往復する形です。でもって、ここまでやってんのに、外に出て人のいる中でじっとしているのが苦痛らしくてたった15分の手続きでみるみる不機嫌になっていく病人あるある。
 銀行を出る時には不機嫌マックス、ですが疲労が溜っている上に土地勘がないからもうどうしていいか分からない様子の母君に、「死にたくなかったらついてらっしゃい」と西鉄までの徒歩を強要。鬼かお前は、という天の声が聞こえそうですが、「近くでうどんが食べたい!」と仰い遊ばしたのは垂乳根の母君やねん、っつーね。一人で歩くのの5分の1くらいのスピードで西鉄構内に入った時には母君の疲労と不機嫌はマックスで、愚痴る相手が肉親しかいない私の義務はその呪詛を受け止めること、ですが甘いわね。私の誘導で二人は間違いなく西鉄構内のうどん屋に着いてる。「ここで昼食をとったら、あそこに見えるタクシーに乗って私の自宅があるN交差点まで行く! 息子さん(←一人称)が居ると不幸でらっしゃるみたいだから置いていきますよ、一人で食べて一人で帰って下さい。死にたくなかったら、N交差点の名前を忘れないこと! ……息子さん(←一人称)ですか? 食事の暇なく職場に戻って働きます。働かないと餓死します!」

 一人でタクシーに飛び乗り「F校まで急いで下さい!」とお願いし、果たして急いでいただいたおかげで昼休みが始まるチャイムと同時に職員室に滑りこめました。昼休みに面談予定だった女子生徒をお呼び出しして、息切れしそうになりながら面談……からの5・6限だ!
 帰りのSHR・掃除だけは副担任の先生に代行をお願いし、放課後面談だった予定の生徒にはお願いして後日に日程を変更してもらい、6限終了後の学校を再びタクシーで飛び出す。

 先ずは市役所、続いて郵便局とはしごして母君関連の書類請求や各種手続きやを。そのままタクシーで今度は市内某所のリハビリステーション。受け付けは17時までと言われていたのですが「走れメロス」のノリで16時55分に飛び込みました。
 施設長・副施設長のお二人と差し向かいで座った面会室にて、10枚20枚じゃきかない分量の書類の一つ一つを微細にチェック……すること30分。1カ所だけ記入漏れがあったものの、それをこの場で書き足したら、見事書類はコンプリート、晴れて母君は明日引っ越しがお出来になるということに!
 長「素晴らしいです、当施設開設以来、一度で完璧に書類を揃えられたご家族は初めてかも知れません!」
 ……というのはオーバーなのでしょうが、考えたらこの施設の入所者の年齢平均は85歳だということなので(母君59歳は圧倒的な若さ!)、そのご家族っつったら還暦がらみの人たちばっかじゃないか。そら書類も揃わんか。

 ドロドロに疲れて自宅に帰ったら、母君が昼のうどん屋で召し上がった「チャンポンうどん」が如何に美味しかったかを目茶目茶ご機嫌麗しいご様子でお話して下さいました。味覚はどないなっとんねん、ですがあ~たが機嫌がいいならそれでもいいわいな。
 ……と、台所を見たら、なぜか日本茶の葉がバーッと散らばっています。何故だ、うちはティーバッグの日本茶しか置いていません(母君が使いやすいように、使い切りのティーバックを買ったばかり)。意味が分からないまま茶葉を掃除しながら、途中で理由に思い至って愕然としました。ティーバッグ、1つ1つが個包装になっているのですが、タラセバ(抗癌剤)の副作用で手先が全くの無力になっている(ペットボトルのふたすら開けられない)母君は、その個包装の「ここからお開け下さい」という切り込みをうまく両手の指でつかむことが出来ず、ハサミで切って開けようとなさったのですね。それで、包装だけでなく中のティーバッグまで一緒に切ってしまった。
 ……良かれと思って買ったティーバッグだったんですけれども、それで母君を傷つけてしまったというのは本当に親不孝です。職場の年長女性に「これまでできたことができないということがどれだけ辛いことかは、そうなってみないと分からないものだから」と言われたのが、今更ながら頭に。

 茶葉を片付けたあと、自分用のお風呂を沸かしている間にクリーニング屋を往復。お風呂上がりに「もりき」へ行って軽く飲んで帰りました。それでも、いつもより遅い22時就寝。
 「もりき」に行く前に母君にお休みのご挨拶。母君からは午前中に入ったお風呂がとても温くて困ったと叱られてしまいました。「追い炊きだけじゃなくて温度の上げ方を教えておかなかった息子さん(←一人称)のミスです。すみません」と素直に謝れたのは、これはさっきのティーバッグの件もありますし、お風呂場に母君の抜け毛(全能照射の副作用)が大量に落ちていたのを見たのもあります。
 悪いのは全部病気ですよねぇ。