ずっと ずっと 描いてよ

 母君が電話で「ガンサイ」を始めたい、と仰有る。リハビリステーションに教えて下さる先生がお出でになり、道具を借りてやってみたら大変面白かったの、と。聞いた私は「ガンサイ」の意味が分かりません。漢字で書いて「顔彩」よ、と言われても浮かぶのは化粧関係のものばかりで母君は個人的な志向と介護職という職業もあり化粧には全く興味が無い方なので恐らく違う、となれば一体何であるのか見当もつきません。
 ただ、何であろうが母君がご自分の意思とご自分の体力とご自分の財力とでおやりになりたいことなのだったら、それと独立の息子がそれを邪魔立てする道理はありませんので「はいはいどうぞおやりになって下さい」とお応え。「で、その『顔彩』をなさるにあたって息子さん(←一人称)は何をすればよろしいか?」

 昼前の西鉄電車でK駅から天神へ移動。昼食は、K駅構内のうどん屋「Y」で済ませました(母君が絶賛していた「ちゃんぽんうどん」というのを食べてみたかったのです。味は普通でした)。
 天神から徒歩10分のところにある「山本文房堂」という専門店が目的地で、ここで買うのは母君から頼まれた筆・絵の具・紙(はがきと色紙と)。「顔彩」というのは日本画の一ジャンル(?)なのだそうで、母君は和紙に筆で花の絵をお描きになりたいと仰有るんですね。K市には、そのような画材を売る専門店がありません(美術の先生に伺ったら、小売店はどんどん潰れているようです)ので、福岡天神に出て初めて専門店に辿り着けるのです。母君は、地理に不案内ですし体力的にも不安なので(抗癌剤の副作用で足の親指が膿んでいます)、代わりに私がお買い物をする次第。漢字を聞いても何のことか解らない素人なのですが、壁面に瓶に入った絵の具がずらりという専門店ですから、店員さんが一から詳しく(筆の選び方から、どのはがき・和紙はにじみやすいにじみにくい等々の紙毎の性質の違いまで)教えて下さり、迷うことはありませんでした。

 その後は、ジュンク堂とネカフェとを廻って、最後に初訪問の天神LOFTへ。ここでは母君にお土産の和紙千代紙を購入したのですが、同じフロアに「九大生ノート展」なる展示があってちょっと面白かったです。高校時代にどんなノートを取っていた生徒が九大に合格したのかを、主要五教科全てのノートを展示して見せようという試み……現代文以外。
 リハビリステーションに画材をお届けするか電話で伺ったら、明日の朝自転車で私の自宅に取りに来たいと仰有ったので、天神からは自宅に直行。帰りの電車と自宅ソファとで、瀬尾まいこ『あと少し、もう少し』を読了、★★★★。面白かった。中3生4人の精神年齢が高すぎて気になったり、陸上部顧問のとある生徒への台詞が残酷すぎてドン引きしたりというのはありましたが、瑣事かな。最新作『君が夏を走らせる』が面白かったので、その前日譚である本作も読みたくなったのです。ただ、5年前の小説なのに文庫ではなく単行本で買ってしまったのはうっかりでした。

 夜は「もりき」。大阪旅行のお土産の梅酒を届けがてら。