もう愛だとか恋だとかむずかしく言わないで

 6時起床、湯浴み。湯船に浸かって数を数える……代わりに、頭の中で高2Bのメンバー41人の名前を出席番号順に漢字で書いていく。これは易しい。続いて、昨年度担任を務めた旧高1Aのメンバー51人の名前を出席番号順に漢字で書いていく。これはやや難しい、上に思い出せず時間が経てば経つほど頭がぼ~っとしていくので何とか51番の「也」の字を書き終わる頃にはちょっとふらふらしています。長く長く浸かっていたい時には、4年前の63回生高3A組で同じことをやってもいいかも知れません、1番A・Rくん、2番A・Tくん、……、43番B・Sくん、44番F・Rくん。
 お気に入りのネカフェで昨日の日記を更新した後、山手線で池袋→渋谷、徒歩で松濤へ向かいます。

 松濤美術館ルネ・ラリックの香水瓶 アール・デコ、香りと装いの美」を鑑賞。それまで単なる薬瓶状に過ぎなかった香水瓶は、1910年頃からジュエリー作家のルネ・ラリックの手によって繊細で美しいデザインへと生まれ変わっていく。不可視の「香り」を幻想的に(神話的モチーフを多用して)客観形象化するという「文化」の定義ずらり、小汚いアラフォー男性の心も洗われるようです。ルネ・ラリック30年の作風の変遷が、たとえば第一次大戦や恐慌等々の歴史的事件にどのような影響を受けたものかという芸術家と環境との通時的関係とともに語られるのも面白く。

 美術館から徒歩5分強で井の頭線神泉駅。高校65回生は大学1年生、本日のランチは東大文一の3人組。Hくんは農業と地域おこしのサークル「東大むら塾」の幹部、Sくんは最近脚光を浴びている「襖」サークルにて職人芸修行中、Sさんはバドミントンで身体を動かす毎日だそう。選んだ店は「ビストロBINGO」、パエリアメインのランチコースです。3人は(未成年!)ジュース、私はついついグラスビールを……3杯ほど。
 職員室でもそうですが若手ほど飲酒喫煙の文化から遠い、身体も綺麗なら心も綺麗。もちろん若い世代(現役の大学生とかね)ほど貧しいという因果も分かりますが、やっぱり徐々に世の中がクリーンに(物理的にも精神的にも)なっているのは間違いのないところで、例えば昨日の55回生Tくんも部署の火消し仕事はおじさん世代のツケであって(40代以上とかかな?)、若手はそれを後続に残したくないという倫理観を持っているということ。で、本日の大学一年生3人も無垢。私「必要悪、って解る?」 H「えっと、高校の授業で聞いた気が……」 面従腹背、腹芸、清濁併せ呑む、等々の言葉は知らず多分概念自体が不要なんじゃないかなぁ、と。私「ピュアだよね。嫌味ではなく」 二文目の余計は私がピュアではない証左で、この意味も彼らには通じないのかな。
 しかし何より驚いたのは、文一から法学部に進む枠はほとんど定員割れの状態だという話。3人の内でも法学部を希望しているのは1人(他は教養学部・経済学部)です。何故定員割れなのかと聞くと、法曹は勿論、官僚や政界も若者には魅力がない(そりゃそうですよね、現状の悲惨を見れば)。就職にも強くない法学部が避けて通られるのは理の当然だという話。じゃあ文一の旨味は何なのさと問えば、「行きたい他学部に失敗しても、セイフティネットとしての法学部はあることかな」と返答。実際、文一以外から法学部に進学した「外進組」が熱心で文一から進学の「内進組」はやる気がないという(KO大学的?)逆転現象すら見られる現状の中、学部は「外進枠」を増やすのではないかという動きすら見せているという終末状態で、ここはプライドにかけて堪えて(我慢と何よりも工夫)欲しいなぁ、と。

 さて、Sさんの妹は、昨年度高1Aで私が担任を務めたのですが、お姉様の進学とともに家族ぐるみで東京(S高校)に転学。という訳で、渋谷駅にて今日が9ヶ月ぶりの対面、お元気そうで何よりのご挨拶。その後2人でショコラの喫茶、久々の「面談」です。新環境には慣れたものの関東の受験事情が判らずお困り(戸惑い)の彼女、来年の抱負は「東大受験を知る」かな。過去問は送付のお約束、生徒ですから添削も、ですね。

 卒業生とのランチ、生徒とのカフェの後、昨日の下町銭湯体験が面白かったのの続き、渋谷駅徒歩15分の銭湯は100年の歴史を持つという「改良湯」。昨日と同じくお風呂とサウナで汗を流します。雰囲気は昨日の早稲田と同じでしたが、唯一違う点は早稲田とは違って「刺青・タトゥーお断り」の表示がなかったこと。実際、背中に見事な彫り物という小父様が気持ちよさそうにサウナで漫画をお読みでした。
 その後、都バスで渋谷駅まで戻り、山手線で渋谷→新宿。昼は文一3人組とランチでしたが、夜は61回生の理三(から医学部)・理二(から文学部!)コンビと飲み会です。進学校ですねぇ。

 新宿「十徳 本店」にご来店は61回生のSくん(医学部)とAくん(文学部)で、Sくんとは何度か飲んだことがありますがAくんは(飲みでは)初めましてかな。もうお一人是非来たいと仰っていたというGくんとは、また別の機会にお会いする機会があるんじゃないかなぁ(これをお読みだかどうだかは判りませんが、リップサービスです)。
 「十徳」を選んだのはこの店が自家製の豆腐を作っているからで、Aくんが豆腐や揚げが食べたいと仰ったのに合わせて。残念ながら豆腐があまり残っておらず(人気なんですね)、ゆず豆腐・揚げ・湯葉刺し、程度しか注文できませんでした。次は思い切って「梅の花」とかでもいいかも(他に、高田馬場にも豆腐居酒屋があった記憶)。

 脳と顔、首から上のスペックが高いSくんですが、自認するところの性格は「陰キャ」だそうで。
 S「僕はですね、twitterのアイコンにプリクラどや顔を使うような陽キャが許せないんです」
 私「……と、俯き眼鏡で言うのは陰キャをぐいぐいアピールしてるわけで、押しの強さじゃ陽キャ軍団とそんなに変わんないんじゃない?」
 A「大体お前、彼女いるし」
 私「居るんじゃん、もう十分じゃん、世を拗ねるっぽいの要らないじゃん」
 A「お前、まだモてたいの?」
 S「……モてたい」
 私「正直この上ないな。もうモててるから彼女がいるんじゃないの?」
 S「褒められたいんです、みんなから」
 私「わぁ」
 A「東大理三合格で散々褒められ倒してんちゃうんか」
 S「そういう過去の結果とかいうのは違うやんか、こう……現在進行形というか?」
 私「二人ともちょっと関西弁入れて来だしたよ。『セトウツミ』っぽくなってるよ。僕、鼻に赤いのつけた方がいい?」
 A「バルーンさんや」
 【中略】
 A「俺がカラオケでガガガSPを歌うのがそんなに悪いか?」
 S「ガガガSPが問題なんやなくて、相手が誰であろうとガガガSPで押し切る我の強さが問題なわけで」
 A「俺が誰にも気を遣わずにガガガSPを選んでるという根拠はあるんか。大体俺のカラオケに毎回お前がおるわけでもないし」
 私「それはガガガSPにも失礼。『にんげんっていいな』なんてウケルよ、2分しかないから時間調節にもなるし」
 A「お前だって毎回毎回My Hair is Badばっかり入れるやろが」
 私「何それバンド名? 俄然気になる! カラオケ行こっか」

 結局カラオケは行かなかったんですけれども、書き起こしてるだけで私の中の2人の好感度が爆上がりしていくようなど酔っぱトークです。でもって、二次会に選んだお店は中華。私「豆腐、あんまり食べらんなかったよね。豆腐……食べる?」 A「僕は豆腐が好きです!」
 という訳で、新宿西口の中華料理。店名は失念したんですが、「舫」の字が入っているのは覚えていたので「新宿 麻婆豆腐 蓮舫」で検索したらヒットしました。後日がっ様から「経験のない大学生を連れて行く店かよ」と突っ込まれてしまいましたが、ここの料理は全部が赤い、白組は杏仁豆腐その多数種類しかないという状態。要は辛い、というか痛い。次の日に座った便座でホイットニーみたいな叫び声が出る(かも知れない)。

 教員「えっと、バンバンジー(赤組)と、ジャガイモ細切り炒め(白組)と、麻婆豆腐(赤組、団長)を……辛め(ドーピング)にして下さい」
 店員「麻婆豆腐、辛め?(フッ、と笑う)」

 店員女子の蔑笑に近い表情に既に何かを予感しかかっている大学生2人、ですが出てきたバンバンジーの色が我ら日本人の常識とはまるで異なる真紅だというインパクトに絶句、でもって一口食って悶絶。漫画か、みたいな咳が出てます。
 私は「知音食堂」とか「韓二郎」とかで慣れてる(そういえば、今回はどちらにも訪問しないんですよね)んですが、大学生は未体験ゾーンの拷問に半泣き状態。まぁ、何というか、私「一次会の酔いも醒めるし、後で話のネタにもなるし、良いよね?」

 新宿から池袋は山手線、ではなく丸の内線で超遠回り。本郷三丁目で下車するSくんと、電車内でトークの2.5次会。ホテルではコンビニスイーツの2.6次会で、本日も充実の健康睡眠です。