Oh! モーレツ

 本日は入試業務最終日ですが、私の仕事は10時前には終了しました。明日の代休と合わせて、ほぼ丸2日のフリータイムです。この期間を利用して、毎年入試期間の恒例行事になっているのが仲良し超ベテラン体育先生との1泊2日二人旅(ここ数年は国語科の先輩先生も交えて三人旅)。時に車、時に新幹線で、広島・日田・呼子・門司・博多……等々に出かけて(観光はそこそこで)名物を食いつつ飲むというイベント。もともとは、体育先生のお友達のコネでシーホークにタダで泊まれる(西陣で飲みまくる)というものだったんですけれども、それが段々遠くへ足を伸ばすようになったのです。入試期間激務のご褒美みたいな感覚。

 私「……基本的に、人と飲むために東京に足を運ぶ旅行以外には全く興味が無かったんですけど、この行事を始めてから旅行だとか温泉だとかに人並みに興味が出て来たんですよ」
 体「正しく年を取ってるってことじゃない?」
 私「そうそう。温泉とかサウナとか、身体に染みるなぁとかいう感覚。定年まで縁が無いと思ってたんですけど。こないだの年末なんて、わざわざ東京の旅行で下町の銭湯を2軒もはしごしたりして」
 体「おおっ、いいねぇ!」
 私「体育先生のせいでどんどんイケナイ身体になってますもん」
 国「その言い方」

 今年の目的地は下関。向かう車内では他愛ない話(時に社外秘の他愛なくない話)をしながら(運転は体育先生)、BGMは体育先生が通販で買った懐メロ(60~80年代の歌謡曲)のCD-BOXです。いつか二人で日田に行った時なんて、このBGMで盛り上がりすぎて、旅館の部屋でこのCDを聴くためだけに近くの電気屋にCDデッキを買いに行くとかいうことまでしたという思い出の10枚組です。
 国「出てくる曲出てくる曲全く知らんっちゃけど、池ノ都くんはなんでこんな曲を知っとると?」
 私「もう、小さい頃からの趣味としか言いようがないですね。(イントロ「涙の太陽」)あ、安西マリアだ」
 体「『Oh! モーレツ』の人?」
 私「それは小川ローザ
 体・国「「だから何で知ってんだよ!」」
 私の場合は、小学校時代にやたら流行った(テレビ東京で3時間の特番が流されまくってた)70年代ソングの影響とか、フジテレビの『ものまね王座』の影響とかで、戦後~80年代くらいまでのヒット曲は基礎教養になってますね。中高の寮生活時代に懐メロのCDを(食費削って)集めまくりました。

 平日で空いている高速を飛ばして、先ず向かったのは角島。これは、昨秋に母君とバス旅行に出かけた時に訪れた場所で、角島大橋の絶景をご覧になりたいという体育先生のご希望。私はついこないだ見た(曇天でしたが)のを覚えているし、国語先生は毎年必ず訪れているとのことですが、別段目的のある旅でもない(どっちかというとドライブ要素が強いくらいな)ので気にしません。
 昨秋のバス旅行の時は、大橋の近くにバスを停めて全員が下車。お土産を買ったり、絶景を写真に撮ったりする人が殆どでした(私も写メを撮りました)が、体育先生は車を停めずにただ渡るだけで満足のご様子。車の中からの風景を味わったら十分というのは、運転好きの人なら普通なのでしょうか(私は免許を持たない人間で感覚は良く分かりません)。

 行きのガソリンスタンドではこんな話も。店員さんから渡された綺麗なタオルで車内を拭きながら。
 体「こういうの、久しぶりやな。今殆どセルフやもん」
 国「そうですね」
 私「セルフって、無人駅状態ってことですよね。自分でガソリンを入れる……やり方って、教習所で習う?」
 体「いや、そんなん習わんぞ」
 国「何となくやったら出来る」
 体「満タンになったら自動的に停まるし」
 私「でも、ガソリンですよ? 最初は緊張したでしょ」
 体「覚えてねぇ」
 私「教習って、道路標識の種類も覚えるんですよね。あれって、車に乗らない人ってどこで習うんだろ。乗らない人も知っとかないといけないんですよね?」
 国「多分」
 私「社会の授業とか?」
 ……小学校の時に自転車の乗り方講座みたいなものを受けた記憶が朧気にありますが、あの時に標識一覧とかもらったりしたのかな。全く覚えていません。

 角島近くにある豊北の道の駅で海鮮丼を食べるのを楽しみにしていたのですが、残念ながら定休日ということで断念。名物の「特牛イカ」を楽しみにしていたので残念です(「特牛」は「こっとい」と読みます)。代わりに、角島の食堂で海鮮コースを。13時半過ぎの遅い昼食と一緒に、ハンドルキーパーの体育先生はノンアルコールビール、国語科2人はビールを1杯だけ。

 懐メロを聴きながら下関駅近くまでドライブ、角島ドライブに続く(プチ)観光は「海峡ゆめタワー」の展望台です。高いところがあったら取りあえず上るのが礼儀です。高さ153mの展望台からは、巌流島も見えますし、門司も見えます。このタワー、全日本タワー協議会というのに所属している20タワーの中の1つだそうで、展望台の高さはその中でも4番目だったか5番目だったか、結構なグレードのものなんだそうです(勿論、一番高いのはスカイツリーです)。イメージキャラクターの「ゆめたん」、名前を見て連想するのは勿論単語帳です。

 寒さに弱い中年3人、15時の段階で他一切の観光を諦め、チェックイン可能な時刻ジャストにホテルに入りました。体育先生の車は車高が規定以上で屋内駐車場に停めることが出来ず、特別にホテル駐車場入り口の屋外スペースに駐車です(これが、後でちょっとした事件になります)。
 チェックインの後は、各自部屋で自由行動。夜の飲み会までは3時間ほどあるので、取りあえずウェルカムドリンク(ロビー階にコーヒーメーカーがありました)を飲みながら部屋で読書。山田風太郎富澤一誠。1時間ほどしてから最上階の大浴場に移動。大浴場あり、サウナあり、屋外スペースには下関一望の屋外露天風呂あり、となかなかな作り。先述の通り、この年一の旅行をきっかけに温泉に目覚めてきた私ですので、大浴場15分、露天風呂15分、サウナ15分、また露天風呂15分、と後で考えたら倒れるんじゃないかというレベルでお風呂を堪能。屋上露天風呂、ちらちらと雪が風に舞って、都会(下関って、都会ですね)ながら風情があったり。
 再び部屋で読書の後、ホテル近くのコンビニで「ペパリーゼ」を買って飲んで準備万端。ロビーで待ち合わせた3人、いざ極寒の市街へ。

 昼食は本意ではないものだったので夜は存分、という体育先生の命で、角島から下関に戻る車内で既に人気の居酒屋「O」を予約済み。鮮魚店直営の居酒屋は、地元人にも観光客にも人気だそう。
 入り口から鮮魚売り場を通って居酒屋スペース、その売り場ケースには大小様々な魚介類がずらりで、この中のものも頼めば随意に調理してくれるそう。ふぐ、鯨、穴子、ブリ、等に加えてウチワエビなんて久しぶりに見るものもあって3人の興奮はマックスです。下関まで何しに来たって、そりゃ飲みに来たんですからね。

 最初はビール(私だけ瓶)で乾杯。最初の注文は勿論ふぐ刺しを1人前ずつで、私はちゃんとしたふぐ刺しを食べるのは人生で初めて。こ~んなに薄く切ってるのは「あ、堅いからか」とかいう言葉が一口目で出てくるような素人さんです。豪快な2人は何枚か重ねてポン酢に浸したりしてますが、おぼこい上に貧乏性の私は1枚ずつ、大事に大事に。ふぐ刺しも勿論美味しかったのですが、最初に出てきたお通しの貝酢・魚のホルモン煮がいきなり絶品だったのは流石鮮魚店。
 店員のオバチャン(オバチャーンのセンター飾れそうなオバチャン)も途中から呆れ顔だったのですが、このオジチャンたち3人、飲みますよ、食いますよ、長っ尻ですよ。思い出話噂話を機関銃散弾銃で撃ちまくりながら、肴はあん肝、ブリカマ、鯨竜田揚げ、鯨赤身刺し、ふぐ唐揚げ、鮑グラタン……と止まらない止まらない。ビールを散々飲んだくれたあと、ベテラン2人は芋焼酎に映るんですが、「山口でふぐっつったら日本酒に寄り道するのが礼儀!」という体育先生の一声で「五橋」の純米を1合ずつのみました。私はそのまま冷酒を2合飲んだ後、満を持してひれ酒を1杯、2杯、3杯……。

 私「そういえば、ホテルの食堂で夜鳴き蕎麦のサービスがあるっての、覚えてます?」
 体「当然。それ食うから、ここで炭水化物を注文してないんやんか」
 私「じゃあ、夜鳴き蕎麦のサービスが何時までだったか、覚えてます?」
 体「23時やろ? 余裕やろ。俺ら、何時にここに入ったっけ?」
 国「18時の予約で、ちょっと早く着きましたよね」
 私「今、何時か知ってます? あのね、22時30分過ぎ」
 体「うそっ!? 俺ら、4時間半も飲んどったと? 馬鹿じゃね?」
 私「夜鳴き蕎麦、食べます?」
 体「当たり前やろ、おい、出るぞ。すいません~ん、お会計!」

 徒歩10分で到着した店を出たその瞬間に、酔いと寒さとで徒歩帰還は断念。雪が降りたくってます。タクシー1メーターでホテルに戻って、そのまま1階の食堂に飛びこみました。先輩2人が夜鳴き蕎麦を注文している間に、弱輩私は2階の自販機に走って缶ビールを3本買ってきます。
 体「お前、まだ飲むの?」
 私「先生こそ、まだ食えるの? ってことで狢同士ですよ。3人で蕎麦1杯とビール1本ね。奢りますから(←生意気)」

 そらね、失神に限りなく近い就寝……いや、違うな。就寝に限りなく近い失神と言った方が正しいか。