だれがよぶんだろう 夕陽のむこうで

 健康起床、大浴場で湯浴みの後、お気に入りのネカフェで時間潰し(珈琲とお茶とを1杯ずつ)。9時半にネカフェを出て山手線ぐるり、池袋→渋谷は15分で着くので、そこからのんびりと歩いたら「タワレコ」にはほぼ開店と同時に到着します。
 タワレコでは、日本のアーティストを「あ~わ行、オムニバス」と一通り全て眺めながら欲しいCDを抜いていきます。今日は、NOKKOの新作、サカナクションのベスト盤、そしてB組某さんに紹介されたまま(K市に売ってなくて)手に入れていなかったフレデリックのアルバムを購入。別フロアのヒップホップの棚も覗いて、RHYMESTERの最新ツアー(福岡に観に行った『ダンサブル』レコ発)のBlu-rayを購入するかどうか迷ったのですが今回は見送り(いずれ買うでしょう)。レジで代金を払ったら、時間は10時40分になっていました。

 「タワレコ」から松濤(Bunkamura近辺)までは早足で5分。嘗て一度行こうと思ってフラれたカレー屋「リトルショップ」は行列必至の人気店なので、開店15分前に店に到着したところ一番乗りでした。が、5分後には4組7人が後ろに並んでおり、私たち(後でオツカル様が合流)を含めた5組で狭い店内はいっぱいになります。
 オツカル様の情報によればこのお店は兎に角デカ盛りで有名だそう。ライス・ルーは普通の店の大盛り以上、上に乗る具も肉野菜玉子が盛りだくさんなのだとか。ヲタ飲み三昧で体重が気になるオツカル様はジムに通い中、今日のカレーもライス少なめにして貰うなど気を遣ってお出でですが、具材は「全部乗せ」(←気が狂れてんのか、という種類分量)を選ぶらしくて完全なるマッチポンプ。そして、野菜嫌いのオツカル様は「全部乗せ」に乗ってくる野菜(茄子・トマト・キャベツ・ピーマン・菠薐草)を全てこちらに回してくれるというので、私は唐揚・玉子・キャベツのトッピングカレーを注文。
 少し経って出てきた皿を見て思わず笑ってしまう。これ、洗面器じゃん。私もオツカル様と同じようにライス少なめにして貰えば良かったと初手から後悔です。ただ、和出汁ベースの甘口カレールーは優しい味で、きちんと味付けされた具材とも合う。気づけば黙々とスプーンを動かし、具材とルーとは全て、ライスも殆ど全て食べきってしまっていました。ライスは「そんな量をわざわざ残すの? 一口二口なんだから食べればいいじゃん」という残り方だったのですが、逆にそれが入らない程にお腹いっぱいになっていたと言えば分かって貰えるでしょうか。我々の隣の人(体重三桁キロマン)はライス大盛りの全部乗せを注文していましたが、出てきたのは洗面器ですらなく最早鍋でした。

 午後から仕事のオツカル様と別れたら松濤で一人です。今日は夜の約束(20時前)も松濤のお店(55回生Tくんと「産直や たか」)なので、渋谷で時間を潰すか移動をするかを迷いましたが、Bunkamuraの美術展は「猫」がテーマで全く興味が無く、松濤美術館も特別展が準備中と、全体的に渋谷には縁が無い臭がしたのでさっさと池袋に戻ることにします。
 12時30分に聖地「ジュンク堂」池袋本店に入店。巡礼ですね。背表紙読書・シャワー効果の90分逍遙で万札を2枚吐き出し、荷物が重いので一旦ホテルに本を置きに行くといういつもと同じ動き方。

 山手線で上野に移動して、科博の特別展「人体」を観ました。科博の特別展は毎回ほぼ全てが撮影OKなのですが、今回は内容が内容だけに殆どのエリアが撮影禁止。実物の臓器展示は覆いが施されて、見たくない人は見ずに通り過ぎることが出来るようになっていました。実際、親子連れのお父さんお母さんが臓器に魅入ってしまい、連れてこられた小さい子どもが半泣きで「もう行こうよ~」とせがんでいるというシーンを3回は見ました。臓器の実物展示は倫理的に問題になるところで、入場口から至るところに学術的意義の必要性が掲示されていました。
 時代が変わったということですね。嘗ての「人体の不思議展」のような催しは、少なくとも日本では開催不可能になりました。私が学生時代、「男く祭」の公演に来た養老孟司は当時開催準備中だった「不思議展」の紹介代わりに人体のスライスを舞台に持ち込んできて観客の度肝を抜いたものでした。
 というわけで、「不思議展」と比べるならインパクトという点で劣る(悪いことではありません)訳で、NHKスペシャル「人体」と組んだネットワークシンフォニーなど新しい研究成果の紹介など見所はありましたが、一時間で全てを見終わってしまいました。

 西洋美術館(特別展は「ベラスケス」)は余りにも人が多かったので断念、売店で図録のみ購入しました(学級文庫に入れます)。

 上野から山手線で巣鴨。一度行ってみたかったかき氷専門店「雪華」に、閉店20分前に飛び込みました。とげ抜き地蔵の横、カレーうどん古奈屋」の隣にある人気店です。
 先ず、店内が暖房で南国の暑さになっているのに圧倒されました。入店直後から汗が噴き出します。ご丁寧なことにお茶も温かいものしかなく、暴力的にかき氷への渇望が誘発される仕組みになっているのです。私が頼んだのは「いちごまみれ」1050円(!)。皿に山と盛られた氷は真っ赤、皿の縁を半切りの苺がびっしりと取り囲んでいます。氷の中にも丸のままの苺がふんだんで、これ、全部で1パック分くらいあるんじゃないかという勢い。手作りのシロップを上から重ねがけしながら、しゃくしゃくと掬っていきます。二口三口であっという間に汗が引いていく極楽。これは、再訪必至で他の味も食べてみたい。
 店を出てとげ抜き地蔵で休んでいたら、目の前を番組収録中の久本雅美さんご一行が通り過ぎて行きました(写メはNGの様子)。道行く人に声をかけられて愛想良く返事をするマチャミ氏は、TVのイメージよりだいぶお美しい方でした(私のTVのイメージは10年ほど前のものですが)。大体、本物を前にすると「感動補正」がかかるのか、皆「TVより~」になってしまいますね。ピース綾部さんはTVのイメージよりもずっと真摯で誠実な社会人でいらっしゃったし、橋本環奈さんはTVより白かったです。

 池袋のホテルに戻って読書、入浴。19時にホテルを出発して再び渋谷、松濤へ。今日は、ほぼ7年ぶりに訪れる超人気店「産直や たか」。前回同様、55回生Tくんと二人で訪問です(前回はTくんが学生だったので私が払いましたが、今日は社会人のTくんと割り勘です)。
 飲み物込みで払う金額は一人10800円。おつまみはお任せのみ、飲み物は乾杯ビールの後は日本酒のみで種類はお任せです。日本酒は、料理に合わせて女将さんが持ってくる一升瓶からマイグラス(交換無し)に注ぐ方式。椀子蕎麦方式で次々に出てくる日本酒は、好きなだけ飲んで構いません。一種類飲み終わる毎に和らぎ水でグラスを洗う(その水を飲む)ので、必ず日本酒と水とを同じ量飲めるという仕組み。和らぎ水は、目の前に一升瓶で置かれた山口「貴」の仕込み水を2人で半分ずつです(要は、5合までなら飲んで良いという話……違うか)。
 料理は、魚介出汁で煮込んだ大根・アサリとハマグリの殻焼き・秋田八森の鮑・鳥取境港のズワイガニ・ホッケ一夜干し・宮城松島の牡蠣・白魚の生姜和え・豊後水道のサワラ・北海道バフンウニ・河豚の白子、で全10種。これで2時間は余裕で保ちます。私は白子だけは嫌いなのでTくんに回して、酔いに任せて白子の悪口を言ってたら新婚のTくんから「下ネタ禁止!」と叱られてしまいました。
 酔いに任せて……の日本酒椀子蕎麦は、以下。山形「十四代」、茨城「水府自慢」、栃木「鳳凰美田」、長崎「福田」、広島「宝剣」、新潟「麒麟山」、和歌山「紀土」、福島「飛露喜」、栃木「仙禽」、三重「而今」、山口「貴」。「貴」だけは(お店の名前になっているだけあって)山廃と純米との2種類が供されたので日本酒は全12種類。この後、私は「鳳凰美田」(今日は碧判が置いてありました)、Tくんは「仙禽」をお代わり。

 絶品漁師飯で日本酒椀子蕎麦の極楽、三昧境の2人は4勺を13杯ずつ飲んだわけだからほぼ5合です(和らぎ水、二人できちんと飲みきりました)。二人とも飲み過ぎ。店を出た後、沈着なTくんが珍しくちょっと陽気だったのはそれだけ満足している証拠です。
 ……で、店に入る前に前回(7年前)の反省をしていたんですよ、二人で。前回は折角の繊細な和食・日本酒の後で「HUB」経由の「光麺」とかいうルートで舌の全記憶を油で上書きするとかいう愚行をかましています。あの時は二人とも若かった。Tくんは社会人になり、私は職場に少なからず後輩もいる身ですよ。同じ轍を踏む訳には。

 T「……踏む訳にはいかないのに、僕らはなんで今ここにいるんですかね」
 私「……若いっつーことかねぇ。っつか辛っ! もうビールの味も分からんわ。一口食べてみる?」
 T「嫌ですよ! 『北極』っていちばん辛いやつでしょ? そんなの食べたら舌が死にますって!」
 渋谷「中本」にて、舌の全記憶を唐辛子で上書きしてから帰りました。明日のトイレが怖い。