石に腰を、墓であったか

 早い時刻だったのでお布団から出て頂くことはせず、母君には10時にタクシーで自宅にお迎えに上がる(母君は10時半からの「体験授業」を聴講なさいます)ことだけお伝えして早朝に徒歩通勤。6時過ぎに学校に到着したら、既に中央ステージには準備の生徒がおり、その後も校内・外テントのバザー準備のために続々と生徒が登校して来ます。生徒指導部の先生を中心に、7時頃には高校の先生方も次々と出勤して来られました。徒歩通勤、汗。最高気温は30度の予想で、天気的には「成功」です。
 出勤はジャケットでしたが、職員室で「男く祭」Tシャツに着替えます。10時半からの「体験授業」はこの「一新附嵐」Tシャツを着て行います。

 昨日考えた板書計画を再度確認し、1限(教員2人、生徒2人、計4名の講師のトップバッター)なので予め会場となる合同講義室の黒板に板書の準備を。構図部分だけを予め書いておき、授業中は説明をしながら板書を補完していく(細かい部分を書き込んでいく)という形式です。合同講義室は200人超が入る大教室。仮に100人でも聴講生(?)が来たら、最後尾は黒板からかなり遠い席になります。ですので文字は可能な限り大きく、即ち板書量は少なく。
 授業に与えられた時間は45分で通常の50分よりやや短い。生徒相手の時よりは喋るスピードをややゆっくりにしますので、それも合わせて情報量は普段の授業の3/4弱といった所でしょう(板書量を少なくする所以でもありますね)。因みに、生徒に配るプリントはB4サイズですが、「体験授業」で配布するプリントはA3の拡大(115%)バージョン。聴講生(?)の年齢層を考えたらそうなりますね。

 中央ステージに高3全員が集まってSHR、その後は9時開演に向けて「勝手にやれ」、初日閉会の15時まで、教員には仕事がありません(昨日の日記に書いたように、生徒指導部の先生は別です)。私は、9時開店のバザー(準備なんて間に合ってませんが、まだ客もまばらなんで問題ありません)を素見して回った後で、学校裏門にタクシーを呼びました(9時50分)。自宅に移動して母君を拾い、そのまま学校にとんぼ返り。校舎内は母君の手を引き、4階合同講義室にはエレベーターで移動します(階段は無理です)。
 10分に母君を講義室の端の席にご案内し、同じフロアの高3食品バザー某店でペットボトルのお茶を購入してお届け。一応、授業資料はお渡ししておりますが、雰囲気だけを味わって頂ければお読み頂く必要はありません。20分に開場後、担当の高3某さんの売り込みもあって、120部準備した資料が全て捌ける程度の聴講生がお出で下さいました。「池ノ都先生が入試国語力の付け方をお教えしまーす!」という某さんの絶叫が逃げても逃げても追いかけてきて恥ずかしい。

 「体験授業」1限は、国語科教員にして高校47回生の中堅(えぇ、恥ずかしげもなく言いますよ)教員が「入試国語力のつけ方、教えます。」 タイトルはユーミンの「破れた恋の繕し方教えます」に捧げます。人に言われる前にセルフでツッコんでおきますね、「何度目だナウシカ

 ①プリント紹介……年齢層を考慮してA3サイズに拡大しております(一笑い)
 ②学校紹介……今年は国際言語学オリンピックの日本代表、嘗ては国際数学オリンピックで2年連続金メダル。歌会始も延べ5人。生徒の方が教員よりも賢い学校での仕事は恥辱に対する「忍」の一字(一笑い)。何しろF校生は頭が良い、と卒業生が言うとイヤミです(一笑い)
 ③前提……「われ=自己/もの=他者」の断絶を「ことば=文化」が媒介する3項関係。断絶の事実に蓋をして「私はあなたの心がよく分かる」と子どもに言う大人がいたらそれは全部嘘です(一笑い)
 ④入試国語……「われ=受験生/もの=出題者」の断絶を「ことば=筆者」が媒介する3項関係。受験生と筆者との対話ではなく、受験生と出題者の対話であるということを押さえる。だから、設問・リード文・語注という「出題者の言葉」を徹底的に読むこと。実は、「出題者の言葉」が一の次、本文という「筆者の言葉」は二の次です。ですので、嘗てのF中・F高受験生に多かった設問(出題者のことば)に全部線を引いて読み終わったら上から斜線を引く(ジェスチャーに対して一笑い)ような無礼は論外です(一笑い)
 ⑤東大漢文……04年理系、蘇軾(本文は現代語訳を用いて)。最後の設問(三)について、リード文・語注(出題者の言葉)を参考にするかしないかで解答の質が大きく変わることを実例として解説。出題者の言葉を汲んだ「体験授業」講師の解答は他の予備校・出版社等の解答とは全く違うし、これが正答という客観的な証拠はないものの、数学オリンピック2年連続金メダルが同じ解答を書いて下さって「うんうん、池ノ都くん、頑張ってるね。それで良い」と仰って下さった(一笑い)のでこれが正解。例え東大が「誤答」だと言ってもこれが正答です(一笑い)。文句があったら金メダルを取ってから言え(一笑い)。
 ⑥結び……人間は、会えない他者ともコミュニケーションが取れ、これは「想像力」のなせる業です(勿論、ここで言う「会えない他者」とは紙の試験の向こうにいる出題者です)。西行の「吉野山梢の花を見し日より心は身にも沿はずなりにき」の「心は身にも沿はず」とは、憧れる「心」が今ここ(在処)にある「身」を離れる(離る)という意味。「憧れ」の語源は「在処離れ(あくがれ)」で、これこそ想像力の産物です。生徒の方が教員よりも賢い学校での教員の仕事は、だから過去問を通じて大学の知を紹介することで生徒の内部にそこへの(そしてそこに居る人への)「憧れ」を喚起することのみで、その「在処離れ」の心を持つ生徒は④における「断絶他者=出題者=春になったら会いたい教授」の言葉に注意を払いその出題意図を過たず読み取るようになります。生徒の想像力即ち「心」が「身」に先んじて大学の門を潜ったら、後は「身」がそれを追いかけていくだけ。F高の教員がやっているのは、その応援と見守りとだけです。

 この「結び」に説得力があるかないかは、まさに教員の「応援と見守りとだけ」をバックに生徒主導で営まれているこの「男く祭」が成功しているか否かで判断が出来るでしょう。私の答えは言わずもがなです。
 授業後、聴講して下さった保護者の方々のお声がけに謝辞を述べた後、母君を連れて学校裏門。予約しておいたタクシーにお乗り頂き、帰りはお一人で自宅へお戻りをお願いしました。高1Aのバザーで売っていたちらし寿司の質が高かったので、一折り購入してお土産、お昼ご飯にして頂きました。
 母君のタクシーを送り出したところを見ていた裏門警備の高3B某くん(←コーラス大会の我らがピアニスター)に「何なんですか?」と聞かれました。「肉親に体験授業を見せました。冥途の土産です」

 ライブコーナーでB組某さんの「雄叫び」を聴いた後、再度の食品バザー素見しは外テントコーナー。67回生元高1A(外進)の面々がクラスの枠を超えて集結、焼き鳥屋はテント1つ、焼きそば・かき氷・ヨーヨー釣りの「S堂」に至ってはテント2つを占拠してやりたい放題です。高1時代のお祭り騒ぎが忘れられない「非日常」。担任は誰だってなもんですが、今日は「劣リーマン」Tシャツを着ている生徒がいなかったので良しとしましょうか。お父様・お母様も大勢お出でで、商品を買ったりお店を手伝ったり。まぁ、そうですね。あと少ししたら離れていく子どもたちですもんね。
 そうそう、私の母君からは電話で、「ちらし寿司が大変美味しかった。池ノ都くん(←二人称)が本当に働いているということを確認できたのも良かった」と言われました。

 63回生の卒業生も割とたくさん遊びに来ていて、その内何人かとは長めのお話ができました。九大Kくんが私の顔を見るなり「先生、メ、メイド喫茶に女子がいます!」と言ったのが面白かったですね。「そらそやろ」と答えて直後に気づく、「いや違うわ、昔のメイド喫茶は女装オンリーだった」
 時代は変わります。

 14時には全てのバザーが閉店、中央ステージのイベントも終了。実際は、たった5時間の間の出来事です。体育館で終了後の指示が行われた後、生徒は翌日シティプラザのリハーサルに向かう者、F校会場の備品移動(昨日と逆の流れで椅子・机を元に戻す)をする者に別れます。私は後者「備品移動」の監督後、タクシーでシティプラザに向かいました。
 私はシティプラザでの講演係の顧問という肩書きなのですが、講演の先生と講演係とがシティプラザ本番の前夜(要するに今年なら今夜)に夕食の席を共にしつつ本番の打ち合わせをするというイベントがあるんですね。その幹事(店選び)をするのが「顧問」の唯一の仕事で、確かに「幹事」なら私です。店は野菜料理「B」で、普通なら宴会ですけれども高校生と講演の先生ですから当然お酒はNG。そこで、コース料理にソフトドリンクを1杯で予約をお願いしたら快く受けて下さいました(単価は3000円を下回ります)。生徒6人、講師1人、講師マネージャー1人。引率顧問の私は「教員不介入の法則」に従って離れた場所(カウンター)で珈琲(実費)を飲みながら2時間待機。離れて見ているだけではありますが、生徒・先生の表情を伺う限りお話は盛り上がってたんじゃないかな(事実、講演係の代表以下数名は、食事会後も先生の宿泊なさるホテルに同行して打ち合わせの続きをやりました)。

 さて、生徒・講師先生方がお帰りになった後、私は「B」でぽつん……ではなく、入れ替わりジャストのタイミングで、63回生(九医4年)のKIくん・KNKくんというお二人がやって来られました。まぁ私が呼びつけたんですけれども、今日の学校会場に遊びに来てたのをスカウト(飲もうぜ!)してたんですね。先ほど食べ損ねた(?)コース料理とお酒とで2時間の歓談。KNKくんとは、そういえば去年の「男く祭」初日の後に飲んで以来1年ぶりです。というか、KIくんは弟君が67回生、の私の担任クラス、で更に文化委員(現在思いっきり準備業務中)……ものっそい罪悪感ですけれども、こういう罪悪感って滅茶苦茶お酒を美味しくするんですわ。九医進学のF校生の面白話(本人は笑えないでしょうけれども)を聴きながらビールと日本酒。

 自宅に戻った時には(勿論)母君はお休みでした。多少以上に押しつけがましかったけれども、まぁ働いているところを見て頂けたのが本日最大の収穫だと思って良いですよね。
 健康睡眠。