映す価値なし

 ホテルにて健康起床、朝食はとらずにお気に入りの(池袋東口の)ネカフェ、10時開店と同時に聖地「ジュンク堂書店」本店に入って背表紙読書の逍遙90分、という3連コンボ。「日常性の維持」、の上京バージョンです。本日の予定は、昼食が56回生MくんとYくん、夕食は55回生Tくん。

 昼食の目的地はオツカル様も近くで働いている虎ノ門、この駅で降りるのは初めてですね。今日のランチは所謂「サラメシ」……って官公庁で働くお役人がリーマンなのかどうかは知らないんですけれども、とにかく56回生Mくん(警察庁)のお昼休みを使ったランチ1本勝負(に、休日だという塾講Yくんも参加)。勿論、仕事中のMくんにつき合って私もYくんも飲みません。
 選んだお店は虎ノ門駅徒歩3分のロメスパ「ハングリータイガー」。ロメスパというのは「路面スパゲッティ」の略でつまり屋台料理風、茹で置きの麺がてんこ盛りになった皿が注文後即座に出てくるというスタイルは正に働き者のためのものですね(「ハングリータイガー」が純粋なロメスパなのかはよく知らずに書いてます)。行列に並ぶこと10分、「財務省前のデモに行く手を阻まれて」到着に手間取ったMくんがなかなか来なくてジリジリしましたが、完全に約束を忘れてて寝ていたという連絡が夕方に来たYくん(結局不参加)よりはまだマシ。本日の「サラメシ」は2人きりです。因みにMくん、いつもは立ち食い蕎麦とか、昼休みで明かりを落としたオフィスでぼそぼそと安い弁当を食べるとかしているとのこと。
 ロメスパというのは量の多さが売り、なんですが渡されたメニューには男性客は中盛りか大盛りかが推奨と書いてあったので、躊躇わずに大盛りを選択。ダイエットのために普通サイズで良いというMくんとのトークは、先日起こった後輩警官による先輩の射殺事件の時に走った激震の話だとか、2人のお子様の子育てにおける奥様の怒りのきっかけが理不尽すぎてつかめない話だとか、基本的に社会人としても家庭人としても私の上のステージにいらっしゃる教え子(にしてF高の9回生下)の話に私がふんふん勉強になります(が、私の人生では今後に活かせそうではありません)と相槌を打つ流れ。

 国会図書館に行ったことがないと言ったら驚かれるんですけれども、とにかく虎ノ門霞ヶ関等々の官公庁街に足を踏み入れたことがないんですよ。ということで、ランチの後は専門家(官僚)に界隈を案内してもらうことに。っつっても、大通りを歩きながら「あれが文科省」とか「あれが外務省」とか建物を教えてもらう所謂お散歩で、私の感想も「要は大学じゃん。号館が散ってるだけ」と味気ない。農水省の社食は一般人も入れて美味しいという噂を聞いたことがあったんですが(ランチ、そこでもよかったな)、基本的に官公庁には一般人は入れません……但し、そこは専門家を連れて歩いている冥加、一般人が一人で来たら絶対に行かないようなレアな場所をいくつも紹介してくれました。私「これは写真撮っていい?」 M「OK……だと思います」 私「じゃあ、あれは?」 M「めっちゃ怒られます」みたいなやりとり。後で、省庁インターンの経験を持つ63回生Tくんにその話をしたら「そんなとこに行ったんですか?」とちょっと驚かれました。

 Mくんと別れた後は、一人で首相官邸~国会議事堂。国会議事堂を生で見るのも初めてで、門を警備している方に「観光客なんですが、写真を撮っても良いですか?」と聞いたらとても感じのいい笑顔で「どうぞ!」と言われました。

 国会議事堂前から地下鉄を乗り継いで神保町。岩波新書と、ちくま文庫・文春文庫・講談社文藝文庫・講談社学術文庫教養文庫・福武文庫・旺文社文庫……の絶版本を中心に探しながら町中をうろうろ。ある程度以上の節制を心がけておかなければ、ここで時間とお金とが蒸発して(若い人たちの言葉を使えば「融けて」)ゆくことになります。今回は頑張った方……節制をではなく、蒸発していく時間と金とを笑って見送る忍耐を。
 一旦池袋に戻ってホテルに荷物を置き、朝と同じく1階の大浴場で湯浴みの後、本日の最終目的地であるところの渋谷へ。ディナーの約束は、55回生Tくん(M銀行)とのフレンチです。

 渋谷駅から徒歩10分、待ち合わせは青山の「ラチュレ」。Tくんの仕事上がりを待って時刻は遅めの20時で、職場から直行のTくんは背広。私は、ジーンズの上に懲りずに「鬼太郎」Tシャツ(そうそう、「男く祭」Tシャツ以外にこれも荷物に入れてました)。前回オツカル様とのランチで着ていってシェフの方に柄をツッコまれたやつです……が、今回は上に羽織ったカジュアルシャツの前ボタンを全部とめて隠しました(麻のシャツなんで若干透けてますけど)。
 高級フレンチにて、ランチならともかく安月給が何故ディナーなぞ。いくら上京のたびに「ちょっと高級飲み」企画とか言って一人頭10000円前後の店を巡るのが恒例になっているからとはいえ、今日のお店はレベルが違います。
 その理由はというと、結婚式(ハワイ!)に参加出来ない私がご祝儀代わりのお金を今日のディナーで使っちゃうため(仲良し事務嬢さんからは、Tくんにお祝いのカトラリーを託かっています)。つまり、お会計の中から30000円を私が出して、残りを折半する形で支払いをするんですね。30000円では料理代がやっと、と書いたらお店の価格帯がわかって頂けるのではないでしょうか。

 さて、本日のお料理。
 前回のランチでも提供された名物、鹿の血のマカロン。鹿の毛皮に乗って出される1品目からTくんも「ほう!」となっています。穴熊のリエット、鹿のコンソメスープというのは初めて。そして、Tくんはこれが一番美味しかったと言ってたウミガメのタルタル(アボカドソース)……を「要はなめろうみたいな料理でしょ?」と言ったら「雰囲気!」と窘められました。それから、蝦夷鹿・羆・猪・フォアグラのパテのパイ包み。メインの1品目は、これ、1匹使ってるよね? という鮑のショーソン(パイ包み焼き)。鮑なんて何年ぶりだろう。Tくん、結婚おめでとう、っつーか結婚ありがとう! みたいな感じ……っつったらしかしこれはオーバーで、実は私はあ~んまり貝類に興味が無いので味というより「これが大人の経験だ!」って方に心を奪われておりまして。でもって、メインの2品目(肉料理)のチョイスに若干の後悔(心残り)が。野ウサギか鴨かを選ばなくてはならず、「もりき」で鴨ジビエは食い尽くしてることもあって躊躇わず野ウサギを選んだのですが、このメインの「リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル」というのが(ジビエ料理の「女王」とか呼ばれてるらしいんですけれども)そんなに得意な傾向のものではなかった。一ヶ月熟成した野ウサギでフォアグラやトリュフやを海苔巻き状に巻いたもの……だったんですけれども、これは一ヶ月前にオツカル様とのランチで食べた蝦夷鹿モモのローストのシンプルさに軍配、野ウサギはちょっと肉がパサついてる感覚があってたくさんは食べられない(ソースも少し味濃過ぎて)。う~ん、Tくんにもあの鹿を食べて貰いたかった!

 ……ただまぁ、総じて満足なのは当たり前で、しかもシェフの方とお話している内にどういう話の流れからなのか「ちょっとした遊び」に誘われましてこれが偉いこと面白かったのですね。
 「ちょっとした遊び」というのは、「格付けチェック」ごっこ。2種類の赤ワイン、片方はグラス1500円、もう片方はグラス6000円(!)、さ~どっちだ? というやつ。大体グラス1500円のワインからして私にとっちゃ年一レベルの高級品だし、6000円なんてのに至ってはどんだけの金を持ってたにせよ買おう飲もうという発想が浮かばないであろうレベルです。どうせ人生に縁の無い飲み物なんだから当たろうが当たるまいが恥ずかしくはないよねぇ、とか言いながらこっそり「とりあえず僕とTくんとで違うのを選ぼうよ、二人とも外れたら惨めじゃん」とか耳打ってるあたりそのチンケな根性がワインを飲む人生から己を遠ざけてんじゃないのかと。で、結局、シェフの「美味しいと思われた方を選んだらいいんです」の言葉に操られて二人が「せーの」で同時に指さしたのは同じグラスで、見事に1500円(安い方の高級品)で不正解でした。『格付け』、来年からは絶対に観ながら馬鹿にしたりません。

 2次会は渋谷駅近くの安い居酒屋。1時間ちょっと居て(私はビールと日本酒)、会計はフレンチレストランのグラスワイン2杯分でした。
 山手線で池袋、定宿で健康睡眠。Tくんからは、今日は私が払いすぎだったんで次は多めに出します! というメールが届いてました。