でも、笑ってるわ でも、ちゃかしてるわ

 「男く祭」の食品バザーは純利益の2割を寄付する決まりになっていましたが、それに関してとある店舗の不正が発覚しました。純利益が申告制だったことを良いことに、寄付で自分たちの取り分が減ることを厭ったメンバーが、かなりの金額の利益があったにも関わらず赤字申請をしていたことが解ったのです。「男く祭」の監督激務に学校泊の日もあったほど力を尽くされながら鉄の気力体力でそれに耐え、更に生徒にそれと気づかせないよう振る舞われるご配慮をお見せになった担任団世界史先生が、メンバー説諭の場でついに「裏切られた」と涙をお見せになり。私は「男く祭」に何の貢献もしておらず(せいぜいが体験授業程度)、はっきり言って彼らを(B組の生徒も数名以上います)叱る権利もつもりもありませんでしたから呼び出し・説諭の場では臨席だけで無言でしたが、帰りのSHRで急遽3分間スピーチを行うことにはしました。

 以下、要約的に。
 【最高気温が30℃になる日に、中学時代の人脈で最も客を集めるであろう外進高1A食品バザーの横の店舗で、原価何%だよみたいなボロもうけ商品であるところのディッピンドッツ(粒々アイス)を売って、赤字になりましたなんて申請する方も申請する方だし受け取る方も受け取る方です。私は63回生で同じ商品のバザー顧問をやったことがあるからどんだけ儲かるかは知ってる。学年主任地理先生は彼らに「X円で信用を地に墜とした」と仰いましたが、正確に言うと、彼らは純利益X円の2割であるところの0.2X円、それを店員の人数分で割った500円程度で信用を叩き売ったと言うべきでしょう。さて、彼らが濡れ手で粟みたいに手に入れようとしたその0.2X円という金額について考えてみます。0.2X円というのは、実は私が水・木・金・土曜の放課後に2時間ずつ行っている現代文特講、あの4回分の給料、つまり一週間の特講手当とほぼ同じ金額です。各特講につき、プリント準備で2時間、板書準備で1時間、授業を2時間、添削を4時間、合計が9時間。それを4回だからつまり36時間。私が36時間ノンストップで働いて手に入れることが出来る金額を、彼らは濡れ手で粟で手に入れようと考えた訳です。別に怒っている訳ではありません。というか、実は叱る必要もない。なぜなら彼らがはかられるべき尺度は善悪ではなくて精神年齢の高低、偏に「大人」か「子ども」かというものだからです。ここでは大人の定義は、自分で自分が生きるための金を誰かの為になる仕事を通じて稼ぐ人、だと考えて下さい。手前味噌ですが、先の36時間の私の労働は、若しかしたら67回生の役に立っているかも知れない。仕事をしている時のモチベーションは、この可能性に思いをはせることで高まります。お金じゃないとまでは言いませんが、為他への思いの方がモチベーションの駆動力としては遙かに高い。そして、誰かの役に立つかも知れないと思える仕事で得た報酬の喜びを一度でも知ったら、もう濡れ手で粟でなんて考えは頭の片隅にも過ぎらなくなります。大人は、後続を育てるのが仕事なんです。くり返します。行為に為他の可能性を感じられる仕事を通じて報酬を得る喜びを知っているのが大人です。大人なら、濡れ手で粟なんて絶対に考えません。だからこそ、教員ノータッチで渉外まで含めた全てを生徒が運営する、即ち生徒が大人として作り上げる「男く祭」において、バザーの純利益も申告制でいいんです。今回の件は善悪の問題ではありません。大人向けに制度設計されていたその制度の意味が、子どもには分からなかったというだけです。だから私は彼らを叱らずに、その代わり徹底的にからかいます。なぜなら、F高の3年生が子どもであるということは「悪い」ことなのではなく、「恥ずかしい」ことだからです。とは言え、からかうだけでは「大人」の務めとしてやや弱いので、子どもには大人になるための方法を教えなければなりません。そこで一言、「徹底的に勉強して下さい」。結局それかよ受験脳かよと思う勿れ、これが大人になるいちばんの近道です。徹底的に勉強していると、その内に必ず「いつかこれが何かの形で誰かの役に立つ道に繋がるのかも知れない」という予感を得る時が来ます。徹底した理知は必ず人間的なものになる。だから勉強して下さい。社会に出る前の子どもが大人の感覚を先取りする方法はそれしかありません】
 喋るからには笑わせるがモットーですので、前半はくすぐりを投入してますね。目が合うと感情的になりそうだったので生徒の顔は一切見ずに(草稿メモを読んでるふりして)喋りましたが、笑わせた後でどのくらいしんとするかの落差で内容の伝わり具合は想像できます。

 朝、母君はいつも通りの時間にいつも通りのご様子で起きてこられました。食事も(少しの白米とサラダ、それに卵程度というのがデフォルトですが)召し上がって、私が通常通りの出勤をしても問題が無さそうだったので、何かあったら携帯で電話をするようお願いして7時に出勤。
 授業は1・5・6限。空いてる時限には卒業した浪人生や転校した67回生(元高1A)からの依頼添削をこなして郵便局で郵送手続き。後は前述の「説諭」とか。放課後は粟津則雄を使った東大現代文特講を17時30分まで。すぐに帰宅をして、自宅書斎で添削を少しだけ。母君がお食事の後でお休みになるのを見届けてから、自宅徒歩5分の肉料理「I」で独酌読書。