窓の外には のぞくように 傾いた月

 本日、F中入試。5時半起床でゆったりと入浴。母君が居らず、朝食を作る(鍋釜を持つ)必要がありません。入試当日の開門は7時ですので、その少し後に正門を潜れる時間に自宅を出て、徒歩出勤。正門では、臨時で増員された警備員さんたちが誘導を。門を潜ると、校舎までの直線坂道に「等間隔の法則」で塾の腕章をつけた方がずらり並んでおり、歩道を歩く受験生を激励するシステムになっている様子。私は激励される謂れがありませんので、車道の端っこを身をかがめて歩きました。

 入試業務については細かいことを書けませんが、国語科の私の場合、ざっくりと言えば「1限目の国語の監督をする」「それ以降は深夜まで採点をする」ということだけです。この採点、構内某室に教員が籠ってまさに「全員野球」、広い部屋は閉め切りですから空気清浄機がいくつも置かれますし、脳が疲れるのでお菓子と蜜柑とがたくさん置かれています。電子ポットは2台で、ティーバッグのお茶とインスタントのコーヒーが準備されているのですが、毎年とても足りるもんじゃないという分量しか置かれていないので、スティック型のカフェラテとティーバッグの紅茶とを差し入れました(保健室の先生も、ドリップオンの珈琲の差し入れをして下さっています)。私は兎に角この仕事が楽しくてたまらないので、周りの環境にちょっと貢献するのも全て私のためです。

 どういう基準なのかは知りません(知っていても書けませんし、本当は知っているのかどうかも書けません)が、F中・高の入試は、鹿児島県にある(九州で一番知名度の高い)某進学校と同日受験日になったりならなかったりするみたいです。で、昨年度は別日程だったんですが、今年は同日受験日。で、そのために何が起こるのかというと、受験生が激減することになります。受験層がどうだとかそんなこた知りませんけれども、ただ一つ間違いなく言えるのは「これで採点はかなり楽になる!」ということ。
 お前たった今「私は兎に角この仕事が楽しくてたまらない」とかほざいたばっかりやんけ、と仰る向きもあるやもしれませんが、あのね、作文の採点(毎年200字作文か聞き取りテストかが出題される中学国語、今年は200字作文でした)、深夜までかかるのよ。睡眠挟んで採点基準がぶれるようなことはあってはなりませんから、入試の採点は当然のこと全員分が終わるまで帰れないのよ。そしたら、1限後すぐに始まったはずの作文の採点が、算数が終わり社会が終わり理科が終わって「作文は他所の科じゃあ手伝えませんもんね、ごめ~んあっさっせ~」とか言いながら他の科のお先生方が(それにしても通常の退勤時刻からしたら随分と遅い時刻ではありますが)帰りやがった後になっても終わりゃしないのよ。「国語科の皆様で」とか差し入れられたコンビニおにぎりを採点後に食べようと思ったら賞味期限が2時間前に切れてて「差し入れのおにぎりぐらい当日に買えやっ!」ってなったこともあるのよ(深夜業務、あの淡白な国語科一同が多少気が立ったりするような異常事態を引き起こしたりも)。
 だから、受験生が減って「もしかしたら、日付跨がずに帰れるかも知れない!」となったら、それは喜んでもバチは当たらないでしょう?

 さて、ガシガシ採点をしながら。そろそろ最終時限が終了して受験生が帰る時刻になる頃、徐に数学科が採点しているシマに近づき、最若手中1担任先生に声をかける。
 私「ねぇ、ピンク~」
 数「だから『ピンク』って何ですか今僕ピンク着てないでしょ青いでしょピンクはこないだの山登りの時だけだったでしょ」
 私「分かった分かった。でね、そろそろ受験生が帰るんだよね」
 数「あ、もうそんな時間ですか? じゃあ行かなきゃ」
 私「うむ、こういうのは若手の仕事であるからな。では参ろうか」
 ここ数年、ずっと2人で行ってるんですけれども、4教科受験を終えた受験生が帰宅しようと受験会場を出たら、大手塾(Z塾・E塾)が午前中に試験が行われた国語・数学の解答速報を配布してるんですよ(早業!)。それを今採点している最中の教員が貰う! 毎年「すいません、教員なんですが、いただけますか?」と図々しいお願いをしては失笑を買ってる(或いは気持ち悪がられてる)んですけれども、どんだけみっともなくてもやっぱり解答速報っつーのは見てみたいわけですよ。今年は、チューターだか何だかでF校卒業生(数学先生の教え子)が配布していたので、やり取りがスムーズでした。Z塾(私が小学校の時に通った塾)の解答速報で、中学国語に関して「全体的に力の差のつく良問であったと言えよう」と、畏れ多くも有難いお言葉を頂戴し、泣き土下座で感謝。
 そうそう、みんなで解答速報を見ながらあれやこれや言っていた最中に、割と大きな揺れを感じました。熊本震源の大きな地震です。試験中ではなかったですが、これを受けて明日の高校入試では(そして勿論来年以降の入試でも)受験生への注意事項が一つ付け加わることになります。

 さて、今年度の中学入試終了。国語の出典は、北杜夫『どくとるマンボウ昆虫記』、岡野薫子「良平と鉄棒」、吉田夏彦『なぜと問うのはなぜだろう』。200字作文は「『砂時計』がどういうものかを知らない人に、『砂時計』がどういうものかを一五〇字以上二〇〇字以内で説明しなさい」という問題でした。

 最後に残ったのは国語科(と、管理職の先生方)。時分時を大きく過ぎた夜道を国語科先輩先生の車で送って戴き、「もりき」で軽く独酌、無人のリビングで軽く飲み直し、の後で就寝。