もしやあんたが帰って来たのかと

 東大入試2日目。大塚駅で電車に乗るまでは昨日と全く同じ動きをしましたが、今日の目的地は池袋乗り換えの本郷三丁目駅。駅出て直ぐのチェーン店で安い蕎麦を食べてから、よく知る道の店がどんどん入れ替わっているのを横目で見つつ本郷キャンパス正門へ。23日の日記にも書いた通り、本郷の受験生(理系)は正門・龍岡門・弥生門と受験会場毎に入口が別れており、且つ門の前が駒場東大前駅のような広場になっていないので、例えば私が正門に着いた時には開場前の門前は市を成しており、係員及び雇われ警備隊(筋肉系のサークル)が一般の人も通る狭い歩道で受験生を外壁沿いに並ばせて整理中でした。同じ歩道には予備校の旗を持った応援隊もずらりで、この旗を持っている人たちは係員から「歩道を塞いでる! 邪魔!」とは言われずそこに居座っていてもいいのですが、そのような後ろ盾を持たぬまま列の中に知った顔を探してゆっくり歩く私のような人間は係員から「歩道を塞いでる! 邪魔!」と邪険に扱われたり、「あっ、池ノ都先生、お久しぶりです」と雇われ警備隊の中にF高卒業生(64回生Sくん)がいて挨拶をしたりするのです。で、私と来たらF校赴任後7、8年(長いな)の最弱似非教員期を生き抜いた人間ですので、知った人知らない人から邪険に扱われるのには慣れきっておりますし、それをどこ吹く風で完無視するのも得意ですので、係員には曖昧な笑顔を返しつつ知ってる顔を探すのはやめません(こちとら往復5万も払って東京に来とんねん)。正門前で会えた(お互いに存在に気づいた)受験生は3人。偶然にも全員高1A出身で担任を務めた生徒でした。河合塾によれば昨日の数学は相当に難しい(6題中3題が「やや難」)ものだったそうなのですが、3人に聞いたら2人が「そんなに難しいと思わなかった」、1人が「第一問の計算から間違えた~」という返事。3人ともケロリンとしていたので良かったです(2日目も頑張って下さい)。あ、あと、どこぞの予備校勢が「頑張れ地方受験生」と大書した看板を何枚も掲げていたのには「ほっとけや」と思いました。
 10分歩いて龍岡門に移動、こちらはマイナーな入口で、予備校勢もほぼ皆無。担任団数学先生と門へと続く道で夏の虫を待ち構える格好。マイナーな入口だったのもあって結局3人としか会えなかったのですが、その中に我らB組某くん(高1Aから3年連続担任です)が居て何となく握手できたので満足。これで、今日の仕事は終わりです。

 数学先生と雑談などしながら、何だかんだで本郷を出発したのが9時半、池袋着は10時です。開店と同時に聖地ジュンク堂に二度目の訪問、1時間ほど背表紙読書、1時間ほどカフェで読書。昼食は「光麺」にしました。

 池袋から山手線で上野、今回の目的は東京都美術館で、イベントは『奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド』。伊藤若冲・曽我蕭白長沢芦雪岩佐又兵衛狩野山雪白隠慧鶴・鈴木其一・歌川国芳の8人(ATOKが一発変換してくれたのは伊藤・岩佐・歌川の3人)の代表作・秀作・隠れた名作を一堂にという解りやすく豪華な企画で、平日の昼間ではありましたが会場は朝の東大前程度の人いきれ。2時間半かければ全部を堪能(?)出来ます。
 伊藤若冲の「象と鯨図屏風」が面白い絵だったんですけれども、偶然鞄の中に木下直之『動物園巡礼』が入ってたから江戸期の象の部分を読み返したりして、何だか変な時間の使い方をしてしまってますね(本当なら2時間半も要らないかな)。私の好む「奇想」は妖怪寄りですから、曽我蕭白『雪山童子図』とか岩佐又兵衛(伝)『妖怪退治図屏風』とか、歌川国芳『相馬の古内裏』(ガシャドクロの絵)とか、そういうのに魅入ってしまいます。そうそう、『相馬の古内裏』の前では、偶然鞄の中に藤栄道彦『妖怪の飼育員さん(5)』が入ってたからガシャドクロのエピソードを読み返したりして、だから私は何に時間を使っているんだ、と。
 上京時は、無知ミーハーな立場でいくつかの展覧会を覗きに行くことにしているんですけれども、流石に回数が重なると、例えば今回は歌川国芳がそうでしたけど(凄まじい人気ですからね)、一回観た絵を別の会場でもう一回とかいうことも出てきますね。一応、図録も買いました。3年B組の学級文庫はもう機能しないんですけどね。

 一旦ホテルに戻って、サウナと大浴場。さっぱりとした気分で向かう先は赤坂サカス、中島みゆき『夜会』を生で観るのは2度目です。座席は右端ではありますが前から13列目で私の(眼鏡付の)視力でも演者の顔が判別できます。事前のニュースで既発表曲が7曲使われるということは知っていました(ネットニュースでは「全てがオリジナル曲で構成される『夜会』で既発表曲が用いられるのは初めて」という大意の大嘘が書いてありました。ちょっとは調べないんですかね)が、それ以外はストーリーについて全く情報の無いまま観劇(?)しました。★★★★。
 中島みゆき渡辺真知子とが競演というだけでもう充分なのですが、ストーリー自体はそんなに新しいとか面白いとかいうものではなく、いや、歌がメインだからそうそう複雑なものには出来ないという制約があるのは解ってるんですけれども、でも何だか過去作に似てるな~という印象は否めなくて、いや、似てるのが悪いのかと言われればご自分の作品なのだから全然問題ないんですけれども、とかなんとかゴチャゴチャ言いたい思いが67歳主役の圧倒的な美しさと声量とにぶん殴られて霧消するという「夜会あるある」を堪能。以前の『夜会工場vol.2』を生で観た時に「あれっ、みゆきさん、声、ちょっと衰えた?」と感じたのは、その時だけの不調だったみたいで安心しました。今宵、絶好調。

 『夜会』は大人向けのやや遅い時間の上演なので、池袋に戻った時には22時を過ぎていましたが、みゆきさん大好き61回生Hくんと落ち合って「知音食堂」で2時間のサシ飲み。一昨日新宿で飲んだばっかりだったんですけど、2軒とも席が離れてて殆ど話が出来なかったんですよね。ビール・紹興酒・孔府家酒……この「孔府家酒」が2人とも駄目だった。コーリャン原料の白酒なんですけれども、度数は高いし甘すぎるしで苦しめられました。
 Hくんとは、在学中、高校卒業後、そしてF校での教育実習中、と何度も何度も飲んだことがあるのですが、昨年ちょっとした「空白期」があったのでその間の話などを野次馬根性丸出しで聞かせてもらいました。紆余曲折の果て就職先は私学協会ということで、私のお給金を管理するお仕事に就かれるとは全く良い根性をしています。

 健康睡眠。