カタツムリより速いけど

 朝から残酷物語ですが、母君の御御足がどのような状況なのかを一回自分の目で見て知りたく、起床後の母君に一切手をお貸しせずに(味噌汁作りに集中している体で)観察をば。
 仰臥の姿勢から掛け布団をはいでL字型に起き上がるところまでは比較的問題なくお出来になる(悪いのは腰から下ですね)、そこから体育座りの格好になって身体を90度回転させ敷布団の縁に座る格好になるのはちょっと苦労するけれどもこれもお出来にはなる、そこから床に手をつき両の足で立ち上がるのは何度も何度もお尻を上げようとなさって失敗しやっと立てたは良いけれどもバランスが取れずに足がふらつき部屋の壁にもたれかかる他なく(ここから介助が必要になります)、そのまま壁伝いにトイレに行こうとなさるも足が殆ど前に出ないという有様、途中で間に合わなくなるところまで凝視観察してたので「朝から残酷物語」です。
 トイレの中までお連れして、パッドの処理は私、便座に座りさえなされば汚れた部分を拭くことはお出来になりますのでそれは母君のお役目(トイレの中に、ウェットタオル他清拭用の道具や代えのパッドを置いています)。その後、お風呂場までお連れしてシャワーで腰から下を洗って差し上げました(この工程は「介助」ではなくて「介護」かな)。

 あの歩き方ではとても用足しなんて無理ですねぇ、と現実を視認受容した私。ただ、だからどうしたら良いのかというのが判らない。問題なのは、3月の時は2日程度で歩き方を思い出されたという点でして。ずっとこの状態なら歩行器だとか車椅子だとかが必要になる(実際、全脳照射の治療後に足が動かなくなった時には車椅子を用いましたし)。ただ、じゃあ今すぐ車椅子を準備! というのには何だか抵抗感がある。でもでも、取り敢えず様子見だとしてそれがいつまで続くのか気づけば私の清拭洗浄スキルだけアップしてるみたいになっちゃうんじゃないのかそれは母君の尊厳の問題としてどうよ、と堂々堂々。

 こういうのはプロの知恵、幸い本日は週に一度のリハビリステーション訪問、施設の中なら介助介護がなされて母君も(っつーか仕事してる私も)安心……というところで重大な問題に気づきます。ステーションからのお迎えは9時過ぎ、その時刻は私は学校で仕事中(1限の授業中)、でもってエントランスの自動ドアでインターフォンを鳴らすステーションの職員の方を(パネルまで移動して操作して)マンションに迎え入れることが今日の母君にはどうしてもお出来になりません。
 本当は良くないのですが、9時にHさん(自宅徒歩2分)に自宅に来て戴くことにしました。何かの時のためにHさんには我が家の鍵をお預けしていますので、9時に自宅に来ていただき、ステーションのお迎えの方への応答をお願いしたところ、快く応じて下さいまして。ステーションには、母君の足が全く動かなくなったことを事前にご連絡しました。もしかしたら受け容れ拒否もあり得るかなぁ、と思っていたのですが、車椅子対応で問題ないとのお言葉を頂戴し(ここでは車椅子に抵抗がとか言ってる場合じゃありません)。

 1~5限が高3の授業。3限後の中休み(20分休み)にHさんに電話したら、母君は大変ご機嫌良くHさんへの当たりも柔らかく(外向けのお顔もお出来になるのねぇ)、ステーションへの送り出しも恙なくだったということ。プロの方にお預けしているというのは安心に繋がるもので、授業5コマの間は母君が気になって仕事が手につかないなどということはありませんでした(とまぁ、常日頃生徒には「やる気の有無と実行の有無とは独立事象」と言っている人間ですので、気が気じゃない状態でも授業自体は出来たと思います)。
 5限終了後は年休を取り、タクシーで学校から市内の大きな酒屋、Hさんのお好きそうな夏酒を購入してHさんち、御礼片手にご挨拶をしてから母君のリハビリステーションへ……は、タクシーを返して何とHさんが車で連れて行って下さいました。ステーションの母君はやっぱり終始車椅子移動で(但し、ベッドから車椅子への移動は自力で行えたということでした)、ドア横につけた車椅子からHさんのお車に移るのも(5分とは言わない時間が掛かりましたが)何とかお出来になりました(ステーションから自宅までもHさんが送って下さいました)。
 自宅マンション前駐車場で降ろして戴いてHさんとはお別れ、ここからエントランスに入るまでにまた15分以上かかります。待てど暮らせど足が(特に右足が)動かない。日差しが強い中母君は「頭が熱い」と仰るけれども動けないからどうしようもない(部屋に帽子を取りに行こうにも母君を置いていけない)。この15分がいちばん大変だったかな。「来週は帽子を被って行きましょう!」「今熱いって言ってんのに!」って。

 夕食は作りました。朝もそうでしたし、ステーションでの昼食もそうだと伺いましたが、食欲等異常なく、足が動かないこと以外に特段の不調はないご様子(いや、足が動かないっつーのは凄いことなんですけども)。思うようにいかないお身体、慣れない車椅子等々、随分お疲れの様子の母君は自宅での入浴はスルー(ステーションでの入浴も母君からお断りになったそうです)。夕食後は、お手洗い、洗面所にエスコート(?)してからお布団に入っていただきました。

 「もりき」で独酌、えぇ飲みますとも。マスターのお母様(90代)と私の母君との身体の状態がどんどん似てきている、とはマスターの言。「うちの母親がそっちのお母様を凄い勢いで追いかけてるんだね、いや、足は動かないんだけど」とか軽口を叩くくらいは許してね、帰ってからは和室横の炬燵で寝ますし、夜中は2回(私が水飲みに起き出すついでに)お手洗いにお連れしましたし。フローリングの床で寝るのは硬いし冷たいし、やですねぇ。