ほら キラキラ光る 未来が見える

 〆鯖のことを関西では「きずし」というそうで、知らない人がシャリつきのものを想像して注文すると拍子抜けします。因みに、〆鯖をネタにしたお寿司なら「きずしずし」になるそう。昨夜の居酒屋「掌」では、京大入試にも出題された随想「おせいさんの鯖」で知られる(知られてない)幸田文のエッセイを読みながら、その「きずし」を珍しい思いで味わいました。
 F校の現在の校長先生はNHKの放送用語委員会のメンバーでいらっしゃいます。清水義範だとか井上由美子だとか錚々、なのですがその中に青木奈緒さんがいらっしゃるそうで、校長先生はよくご一緒にお仕事をなさるとのこと。私は御祖母様の随想に負けず劣らず青木奈緒さんの文章も好きなのですが、そのことを校長先生からお聞きになった青木さんは「お恥ずかしい」とお一言。校長先生が私が著作を全部持っていることをお伝えしたところ、すぐに駆け付けて火を放ちたいと仰ったとか。謙遜が過激。

 今日はF校を卒業したばかり、我らがB組から現在はとれとれの京大1回生であるところのBくん・Mさんと遊ぶ約束をしています(本当はもう一人のMさんもご一緒の予定だったのですがサークルの用事でキャンセルに)。Bくんとは昼食時から、Mさんとは夕食時からのお約束。
 健康的に起床して、朝風呂からのネカフェ……のつもりだったのですが、京都駅の周りにはほとんどネカフェがなく(条例で禁止されてるのか、ってレベルで少ない)、それを探し回るだけで30分以上のタイムロス。やっと見つけた某店も、大学3年生の時だからもう20年くらい前に中国を1ヵ月バックパックした時に敦煌で入ったネカフェと争えるレベルでしょぼかったんで、正直11時過ぎにYくんと合流するまではちょっと機嫌が悪かった私なのです。

 Yくん(外進高1A組だった時から3年連続で担任、これは夜のMさんも同じ)と京都駅前で合流した後、先ずは電車で嵯峨嵐山へ向かいます。今回の京都観光は、嵯峨嵐山駅の湯豆腐ランチとトロッコ列車とだけを予約しており、他に何をするかは全く考えていません。
 嵯峨嵐山駅に着いたら徒歩10分の住宅街路、湯豆腐「竹むら」にて湯豆腐膳。冷やしでも湯豆腐でも食べられるお豆腐をメインにして、ゴマ豆腐・田楽・天婦羅等々を一通り。私はこのお店は二度目だったのですが、Yくんから「豆腐ってこんなに美味しかったんですねぇ」という感想が聞けたので安心。彼は(多分)お世辞阿諛追従が出来ない(っつーか、しない)タイプの人間なので、発言は本心だろう、と。未成年のYくんは烏龍茶で、私は勿論ビールと冷酒と。お会計時に、お内儀さんから「ぎょうさんお飲み頂いて。お腹たぷたぷになりますなぁ」と京都流。
 店を出て角を曲がれば渋谷センター街レベルの人込みで、観光目抜き通りをとぼとぼ歩いて渡月橋に到着しました。もう記憶は朧気ですが、私は以前一人で嵐山を訪れたことがあって、その時の目的地は「時雨殿」だったんですね。任天堂がオープンさせた、百人一首をテーマにしたアトラクション施設。

 渡月橋を渡らずに右折、直進して「吉兆」を過ぎたどん詰まりにあるのが「時雨殿」……ではなく、現在は任天堂の手を離れた公益財団法人の運営、名前は「嵯峨嵐山文華館」となりました。小倉山麓百人一首の展示施設、というコンセプトは変わっていないのですが、嘗てのテーマパーク然とした装いは完全に改められています。昔は床中に無数のディスプレイが敷き詰められた体験型だったのですが、今は殺風景な展示棚。2回の畳敷きは圧巻でしたが、特に何が飾られている訳でもなく(東海道五十三次をテーマにした展示が少しだけ)、「すごし」とか「ものすさまじ」とかいうのはこういう感じを言うのかな? Yくんは「トイレが綺麗!」というのに滅茶苦茶感動していましたが(いや、実際、20年を経た建物とは思えないくらい綺麗でした)、そこくらいしか感動スポットがないというのが正しいのかも。街は大混雑のモンスターハウスなのですが、この施設だけはどうやら聖域の巻物が置かれているようで、客は本当に私とYくんとだけ。きちんと宣伝すれば、外にワンサカいる西洋人、来てくれると思うんだけどなぁ(畳敷き、エクセレントですよ)。

 予約していたトロッコ列車に乗って、嵯峨嵐山から亀岡へ向かいます。亀岡と言って私が思い浮かべるのは唯一、『オールスター激突クイズ 当たってくだけろ!』で出題された「鶴岡市山形県、では亀岡市は?」というパラレル問題です。あの番組は正真正銘の「オールスター」で、私は今でもあれは夢かそうじゃないなら奇蹟だったのではないかと思っています。
 閑話休題トロッコ列車では保津川の景色をゆったりと楽しむのが主なのですが、台風の被害で杉が根こそぎ倒れていたり山津波を起こしていたりという山肌のリアルを見た時にはYくんと顔を見合わせて絶句(この時、亀岡でやることを決めました)。20分の電車旅、予約していた切符は片道で、帰りはその時考えようと思っていたのですが、帰路は船旅にすることに決定。

 保津川下りの船(30人乗り)は運よく最前列、途中の小雨で屋根を張った船内の視界はやや狭くなりましたが、最前列の4人(我々2人と、ご夫婦1組)は影響なしです。その代わりに、話芸達者の船頭3人から120分間ずっと弄り倒されることになりました。「えっ、先生と生徒? 珍しなぁ、そんなん初めてですわ。なんや、アブナイ関係?」
 欄干のない橋(自転車も自動車も通ります)や杉の倒木は全て昨年の台風被害。鹿もいれば猿もいる山間の急流を、亀岡から渡月橋まで110分かけて進んでいきました(今日は水嵩の少ない日で、多い日は1時間で到着することもあるそうです)。Yくんは若いという理由だけで舵取り体験を強制させられたり(船頭さんを休ませる「働き方改革」だそうです)、私は巧みすぎる棹捌きで服や眼鏡を濡らされたり、色々と楽しく。因みに、Yくんは流石のテニス部で、最初こそぎこちなかった棹捌きが短時間でみるみる向上(船頭さんも感心していました)。

 京都に戻った後は、農学部Mさんが合流して、3人で市役所前のスペインバル「シャティバ」へ。未成年はジュース、私はアルコール。肴はスペイン料理と思い出話・大学生近況。Mさんは農学部で将来的に研究したいテーマを早くも絞り始めている様子、Yくん(法学部)もダブルスクールで資格試験に前のめりになっておいでです。1回生6月にして先のことをきちんと考えているというのは端的に偉い。
 バルで4時間話し込んだ後、1時間だけ「ジャンカラ」へ行くことに。高校時代の表現実習で「私の好きな歌」というテーマの文章を書いてもらった時、Yくんは日向美ビタースイーツ♪「ちくわパフェだよCKP」、Mさんは山崎ハコ「呪い」を取り上げて質の高い文章を書いてくれました(生徒に紹介して、文集にも入れました)。今日は、Yくんはそれっぽい曲を選んでくれましたが、Mさんはお上品に最近のヒット曲を選択です(そら、「呪い」は歌わんわな)。
 因みに、私は米津玄師「flamingo」とYapoos「赤い戦車」とを歌ったんですが、Mさんにがっつり撮影されていましたね。拡散しないでね~……とか言いながら、そういえばMさんからは某カップル(高校時代から大学生になっても)のディズニー写メを見せてもらったりもしたな。

 未成年2人と別れた後、偶然にも徒歩5分の場所にあることが分かったので、ユーミンバー「キャラメル・ママ」を2度目の訪問。ユーミンの曲名のついたカクテル「きみなき世界」「雨のステイション」「セシルの週末」を。リクエストもOKということで、「Cowgirl Blues」をかけてもらいました。

 楽しくて贅沢な一日でした。タクシーでホテルに戻って健康睡眠。