誰にも傷が付かないようにと ひとりでなんて踊らないで どうか私と

 早朝に起床して入浴、書斎で書き物、コンビニで母君にお供えするパンとジュースとを購入。旅行準備とは言っても、1泊2日ですから大した荷物はなく、手提げ鞄に全てが入ります(生徒が毎日学校に持って来る、教科書ぎゅう詰めの鞄よりずっとずっと軽いです)。8時台にJRのK駅を出発する新幹線で新八代駅まで行き(駅前にはな~んにも無い駅でした)、高速バスに乗り換えて2時間で宮崎、というのは昨秋経験したばっかりなんで覚えています。前回は台風の荒天でしたが、今日は晴れ渡っているので景色も良さそう(高速バスは山間の、窓から道路の下を除くとちょっと怖いくらいの谷間を越えていくのです)。

 コンビニからはティッシュ・マスクが消えています(マスクは、2月末のティッシュ消失の随分前から払っていました)。土曜日の朝だというのに駅構内は閑散……この「閑散」はK市の常態なのかも知れませんが……とまれ、こんな時こそ地方に金を落として経済を廻すのが独身中年男性の責務、と何度だって言い訳しますよ、楽しい楽しい宮崎旅行。
 前回は偶然同じ日に宮崎に滞在していた61回生Kくんの車でドライブでしたが、今回は足がありません。ので、観光する場所は一箇所だけに決めています。大吊橋その他で知られる「綾町」という場所、この狭い地域を、タクシーを貸切りにして(観光タクシー、と呼ぶそうです)運転手さんと2人で回るというツアー。
 で、宮崎市街地に戻って夜は67回生宮医1年Fくんと「チキ南」求めて焼鳥屋、という行程になっております。

 宮崎駅には12時前に到着。先ずは駅近くを適当に(15分くらい)歩いたら空いてたお好み焼き屋「広島焼 しんちゃん」で蕎麦入りのお好み焼き(そこは「広島焼屋」であって「お好み焼き屋」ではない、という意見の人もいましょうか)。肉・生イカ・生エビ・蕎麦が入っており、マヨネーズは無し(持ち込みは可)だそう。円形を横3等分縦6等分と細かく切り分けたお好み焼きを、小さなヘラでは食べにくかったので箸を使って食べました。
 宮崎駅に戻って、綾町行きの路線バスに乗ります。その前に15分ほど時間があったので駅構内のお土産屋さんを覗いて色々なものをブックマーク。16日に出勤したときに先生方や高1女子にお返しするホワイトデーの品物はここで買って帰ります。

 ゆっくりゆっくり走る路線バス、宮崎駅から綾待合所駅までは52駅あるので、1時間のバス旅はほぼ1分ごとに停留所ストップということになります。最初から最後まで乗っていた客は私一人で、次々に乗っては降りていく(と言っても、延べで30人とかだったと思いますが)のは地元のお婆ちゃん限定、みたいな感じでした。途中駅から途中駅へ、車が無くロングウォークが難しい人たちの細かい移動(買い物とか?)を助けますよ、とバスが言ってる。
 「文化公園」とか「博物館」とか停留所の名前のついた公共の施設はコロナの影響で悉く閉まっています(が、屋外施設の大吊橋が営業中なのは確認済みです)。そして、綾町に近づいていく(ハッキリ言えば田舎めいていく)に従って、バス停の名前も「幼稚園入口」とか「組合下」とか「病院前」とか大丈夫かというくらい雑なのになっていき、いよいよ遠くの知らない町へ向かってるんだなぁ、という思いがじわじわと。
 車窓から看板様々。とある精米所の看板、「うけたまわります」の「うけ」を黒塗りにして「たまわります」とした悪戯好き、精米所を大臣に仕立てた手腕は古文がお好きな方なのかしら、とか益体もないことを考えたり。ぎょっとしたのは「コロナ美容室専用駐車場」、渾身の二度見でしたね。風評被害がないと良いですが……と、これは後から色んな先生に「そんな被害はないやろ」と言われましたが、コロナビールを悪く言う(思う)ような阿呆は一定数以上居るんですから。

 阿呆と言えば、さっきのお好み焼き屋のTVでは、馬鹿輪ゲートウェイ駅に人が殺到して「濃厚接触」していました。最初、政府官邸の自粛要請に対する抗議デモかなんかなのかね、と思ったくらいです。まぁ、私だって宮崎を走る公共の乗り物に乗ってるわけですし、色々繰り出しちゃ生徒と「濃厚接触」してる身だから人のことは言いませんけどね(あ、駅名は衷心より軽蔑致します)。

 さて、バスは綾待合所駅着。待合所駅前に予約した「観光タクシー」が待っていると言われていたので、どのタクシーがそれなのかな……と見回そうとしたら「どの」も何もタクシーが1台しか停まっていません。これ、事前に町役場に問い合わせてなかったら(予約無しにただバスで待合所駅に来ただけだったら)詰んでましたね。
 事前に、2時間なら8000円、3時間なら12000円を見ておいて下さいと言われていました。料金は全部終わって降りるときに支払うそうです。運転手さんにご挨拶をして、大吊橋には必ず行きたいこと、最後は「酒泉の杜」という複合観光施設(ホテル・ウェディング・食事・土産・醸造所見学、等々)で降ろして欲しいこと(ここでお土産を買ったら、宮崎駅直通の路線バスに乗れます)、をお伝えしました。運転手さんのお話では、2時間半もあれば回れるでしょうというお話。

 結論から書くと、綾町、良かったです。というか、「観光タクシー」という経験が楽しかったです。地元のドライバーさんなので、地理や魅力や諸データや現在の(コロナ影響下の)状況などは知悉です。
 例えば、人口7000人と教えられて「じゃあ、町内に中学は1校ですか? 高校は……」と思わず教員反応をしたら、「中学は綾中学校、30人が2クラスと言ったところです。高校はないので市街へ」と即座に。山道へ向かえば「今の季節ですから山桜が少し咲き残っているかと」と植物の様相を教えて下さったり。私、タクシーに乗っている間、1度もスマホの検索機能を使っていません(写真は取りまくりましたが)。因みに、本来春休みの土日なので観光客が目立つはずの綾町、本日は閑古鳥だそう。
 観光の目玉の一つ「綾城」が新型コロナの影響で閉鎖中だったのだけは残念でしたが、その他の諸施設は全て巡って貰いました。先ずは、待合所から山道を登って「綾AEONの森 展望台」、続いて「綾馬事公苑」、そして「綾の照葉大吊橋」、最後が「酒泉の杜」、これで130分。具体的には見学観光(運転手さんは「待ち」)が80分、移動が50分というところです。ゴールの時点でメーターは10000円弱でしたが、運転手さんは8000円だけを受け取られました。

 ①綾AEONの森 展望台
 綾町は、日本最大規模の照葉樹林で知られ、ユネスコエコパークに登録されているそう。自然との共生! それを一番高い場所(木製の物見櫓が組まれています)から眺め渡すことが出来ます。風が強くて気持ち良かった。櫓の下では、3世代8人の大家族がお弁当を広げていました。

 ②綾馬事公苑
 綾町は11月の草競馬が名物だそうで、「綾馬事公苑」は競馬場であると同時に馬術の練習場だそう。私が到着した時には小学校高学年と思しき少年がコーチからの指導を受けていて、終了後に厩舎に馬を繋いで毛を磨いたり水を飲ませたりする様子を(お願いして)見学させて貰いました。私はシャイだから、少年は不審者然としたオッサンが怖いから、というそれぞれの理由で無口でしたが、馬を世話する後ろ姿の写真を1枚お願いしたら快く(という風に見えました)OKしてくれたので良い子認定。
 競馬場の隣は大きな公園、休校中の小学校児童(土曜だから外出もOKなのかな)や、幼児を連れた家族連れでいっぱい。町の人々の憩いの場みたいですね。タクシーの運転手さんからオススメされた花時計は見事で、脇には上皇上皇后両陛下行幸啓の記念碑が立っていました。

 ③綾の照葉大吊橋
 来年度4月はコロナの影響で中1の九重オリエンテーションが中止になるそうですが、そこで訪問する筈だった「九重"夢"大吊橋」に抜かれるまでは、「綾の照葉大吊橋」が高さ日本一の吊り橋だったそうです。ここは50人以上の観光客がいてやや賑わっていました。ただ、タクシーの運転手さんは普段は海外の方が多いと仰っていましたが、今日はそれと判ったのは僅かに2人だけでした。吊り橋は、風が強くてよく揺れたので恐怖感増し増し。私の前方で20代の屈強な若者が半泣きみたいになりながら華奢な彼女に引っ張られていたのは可哀想でした(高いのが怖いかどうかというのは体格とは全く無関係なので男泣きも滑稽ではありません……っつか、彼女、ひでぇな)。
 大吊橋は渡った先の山道(結構な悪路・段差)を40分程散策するルートがあり、歩いている内に大概汗をかきました。吊り橋絶景も、山道美観(折り返し地点の滝は小さいけれども美しかったです)も、写真をたくさん。

 ④酒泉の杜
 複合観光施設ですが、食事処・お土産売り場以外はほぼ閉鎖。名物の温泉も、ウィルス流行下ではどうしようもありません。ここでは、バス出発までの40分ほどを利用して、事務嬢さん・Hさん・「もりき」マスターへのお土産や、職場の人たち(教員・生徒)へのホワイトデーの品物(日向夏やマンゴーの不レバーティー)を購入。駅構内のお土産屋で当たりを付けていたものは全て売っていました。自粛ムードで流行しているとTwitterで話題になっていた(本当なの?)「蘇」が施設内喫茶でごり押しされていたのが面白かったですね。

 多分、吊り橋の40分山道が効いたんだと思いますが、帰りの路線バスは30分(行程の半分)は寝てました。宮崎駅着後に徒歩15分でホテルにチェックイン、の後は40分以上かけて大浴場湯浴み、これでやっと気分爽快に。夜遊びの準備は、コンビニでお金をおろして、錠剤のペパリーゼをメガシャキで流し込んだらお仕舞いです。

 「鳥雅」に行くなら待ち合わせは県庁前、で落ち合ったFくん(バレー部。趣味、筋トレ)は「首、どしたん? こないだの秋より一回りじゃない?」と思わずつっこんだ隆々。その筋肉、バレーに居るか? と聞けば実際バレー以外の部に移る(アームレスリング部とか?)ことも一時考えたと言ってました。
 で、特別好きでも無けれども前回食べ残した唯一の名物だから今回は必ず食べたいのがチキン南蛮(Fくんから教わった「チキ南」という略称は弱っちくて好感度高し)で、どうせなら拘った「チキ南」を出しそうな店にしようと手配したのが今夜の「鳥雅」。皮1本400円という荒ぶった価格帯が示す通り、扉を潜った先の「Jamanese modernなカウンター(HPの文言より)」がここは大人の場所でお前は分際じゃないというのを雄弁に語り、私はあらそのお喋りもしかして宮崎弁かしら福岡人には全く理解不能だわ、と受け流している体(てい)で椅子に掛ける、という独り相撲。隣のFくんにも、ほら俺大人だからこういうとこ余裕だからという体(てい)を見せなければと無駄に意識をして。注文前から少し疲れてます。
 コース3500円、飲み物別。「チキ南」と食べたい串は後で追加。私はとにかくビール2杯を飲んで、山歩き・店の雰囲気との独り相撲で疲れた五臓を癒やす。焼鳥も小鉢も、確かに美味しい(F市のB級グルメとは違う「鶏料理」ですね。後から出てきた「チキ南」も良かった……特にタルタルソース)。

 案の定、部活バイト(集団の)遊び諸々を禁止された春休みは暇の一言で、Fくんは筋トレに勤しむという趣味があるから良いもののそれだけでは足りずとうとうSwitchを買ってしまった、と。それだけ暇だと言ってもらえたら、無理やり夜をつき合わせた罪悪感が少し軽減されますね。
 Fくんには今日のお店のことは全く知らせず、私も昨日初めて知ったのですが、この「鳥雅」というお店、私の人生においてまさか出会う(交差する)とは思わなかったLDHEXILE界隈の企業)が経営しているお店でした。常連さんと料理長さんとの会話が(何せカウンターが10席しかないので)良く聞こえたんですけれども、ずっと「HIROさんが、HIROさんが」って。
 で、Fくんはそちら界隈の方を(どのグループがとかは聞きませんでしたが)熱心に推されているということで、おぉその偶然は何よりでした、となりました。私が「へぇ、何となく似合うとは思うけど、そっち推しだったんだねぇ」と言ったら、高校時代と同じくとても真面目な表情で「筋トレとかにハマってるのも、多分そういうの(エートス?)の延長だと思います」って答えたのがどハマリして、元々高かった好感度が爆上がりしました。

 さて、17時に昼飯を食ったから(Fくん)、中年だから(私)、という理由で飯物無しの軽いコースで既に満腹の2人。2軒目に避難した先は、橘通の「Wine&Bar 麦屋」。フルーツカクテルが売りのバーはスタッフが女性だけでした。苺フローズン、金柑ジントニック、美味(勿論、ノンアルコールのカクテルも作って貰えます)、を味わいつつ1時間だけお喋り。隣の席の6人組もどうやら宮崎大学の学生みたいでした。
 最後に「タクらない?」と聞いたら、「タクシー」ではなくFくんちで「宅飲み」だと勘違いしたFくんからドン引きされました。仮にも40の教員がそんなこと言うわけないでしょうが、タクシーで私のホテル経由、Fくんにお金を渡して自宅まで行ってもらいました。

 健康睡眠。