ブラボー・クラウン

 突然ですが、越路吹雪が好きです(宝塚のことは何にも知りません、悪しからず)。好きというよりか、私に日本語を教えてくれた先生の一人として尊敬している、という方が正しいニュアンスでしょうか。
 保育園・幼稚園時代から生粋の鍵っ子だった私に日本語を教えてくれた最初の先生は水木しげる翁で、アパート階下の貸本屋で借りた妖怪図鑑(全ての漢字にルビ付き)で「文字言語・書き言葉」としての日本語を叩き込んでくれました。大人になってから、幼い山本夏彦が大正期の新聞(総ルビ)で日本語を覚えたという話を読んだときは大いに共感したものです。
 であるのと同時に、私の小さい頃に「音声言語・話し言葉」としての日本語を叩き込んでくれたのが、研ナオコさんと越路吹雪さんというお二人でした。研ナオコはオリジナルアルバムの『Deep』、越路吹雪はベスト盤、それぞれのカセットテープをずっとリピートして聴いていたんですね。素読と言っていいのかは分かりませんが、とにかく「耳コピ」で歌えたんですよ、二人の歌を。研ナオコならアルバム収録の10曲、「娼婦よりも唇は淫らで」とか「金襴緞子帯締めて」とかいう歌詞を意味も分からないまま暗唱できるようになって、幼稚園の終わり頃だったか小学校の初め頃だったか、家にあった国語辞典(オレンジ色のカバーの、多分あまり有名ではないもの)を必死で引いてました。越路吹雪も同様、「一寸おたずねします」だとか「ブラボー・クラウン」だとかを意味も分からないまま歌ってた幼稚園児、って我ながら怖いですけど。こないだオツカル様とのカラオケでサイモン&ガーファンクルの「コンドルは飛んでいく」を入れ、英語の歌詞テロップを完無視して「カタツムリより雀が良いな」で始まる日本語詞(越路バージョン)をあてたら、30年超のブランクを超え記憶だけで歌えたので我ながらびっくりしたものです。
 自粛期間、100日分のBlogを追いつかせる間に、中高大学時代をやり直したんじゃないかというくらい大量のCDをずっと流していました。研ナオコ『Deep』も、この2ヶ月の間で10回くらい聴きました。が、越路吹雪の音源は聴いていない、というか小学校時代に母君が友人にカセットをお貸しした日以来所有してない……と思い至った時には通販の「買い物かごに入れる」をクリックしていました。『越路吹雪 華麗なる世界』(CDが6枚、DVDが1枚)、明後日学校に届くそうで楽しみ。特にDVDは「自粛御膳」のお伴にぴったりです。 

 3時半起床、お風呂にお湯をためる間に書斎で添削を30分、風呂上がりに2時間。途中、母君へのお供えを準備したり食洗機から食器を取り出して片づけたり、家事っぽいことを30分。
 添削集計まで終えた時点で7時、そのまま着替えて学校へ出発します。今日は、7時半から校舎入口に立って生徒への消毒指導を行う日。7時半~8時ですから生徒はそう多くやってくる訳ではありませんが(現在は、通常8時40分開始の時制が高校で30分超、中学で1時間超遅れて始まります)、それでも早くから登校する生徒も居て、全員が忘れずに足踏み消毒をする姿を感心して見ているだけの仕事でした。高3の添削答案は朝のSHRで返却をお願いしています。

 コロナ禍その他様々な理由で、またまた時間割(おおもとの時間割)が変わることになり、1・2限の時間で必死にパズル。出来る限り傷は少なくなるよう務めたものの割と大幅な変更になるので、クラス別時間割・担当者別時間割・教室割、の3つとも全部刷り直して全職員に配布する必要があります。
 合わせて、作り直した時間割に即して、定期テストまでの時間割変更案もまた作り直さなければなりませんが、これは数時間で終わる仕事ではないので明日に回します。まだまだ暫く混乱は続くでしょう。

 さて、本日いちばん大事で且つ楽しみな仕事。遂に、高2現代文の初授業。3~7限で全5クラス5コマ、マスクをして走り抜けました。10分休みに教室入りして板書準備、45分間で本文範読・解説、マスクをつけて喋りっぱなしというのは肉体的には疲労感が凄まじいですが、精神的な解放感は尋常なものではありません。教材は鈴木忠志「過疎村のこと」、高校生の現代文を担当する時には必ず最初にこれを持ってきます。近代人の生の本質としての「敗者の頑張り」「シラケつつノル」「醒めつつ淫すべし」を紹介した上で、担当者であるところの私が考える「現代文とは何か」という定義を説明する。短縮授業の45分ではやや短い(やっぱりあと5分欲しい)ところですが、少しだけ時間を延長して強引に終わらせました。教科書教材ですらない文章を使って、早口の40絡みが喋り倒す(書き倒す)という古~いタイプの講義に、生徒がどういう感想を抱いたのかは夢中だったので(あと、あちら様も全員マスク姿なのもあって)よく分かりません。

 ですから、放課後に高2男子2人(元高1A外進組)がもの凄く深刻な表情でやって来て、「先生、本当に失礼なのを承知で申し上げるのですが……」と口火を切った時にはてっきり授業のクオリティに対する苦情かと思って一瞬構えたんですよ。
 したら、「……先生、パンツ、ピンク色ですか?」って。涼しくてお気に入りの夏用スラックス、薄すぎて私のピンクピンペクションが透けてたらしい。そんなん絶対大笑いするところなんですけれども、お生徒さん2人が無茶苦茶恐縮してたんで何とか我慢しました。
 63回生とか56回生の時だったら、もう見つかった瞬間袋にされてたと思います。あいつやあいつやあいつが「このど変態が!」「誰向けの勝負パンツだよ!」「帰れ淫乱!」とか罵る顔と声とが目に耳に浮かぶようです。

 「もりき」で日本酒とおつまみとのテイクアウトを購入してから帰宅は18時、宅急便(「珍獣屋」とコロナレスキューの佐賀牛と)が届いた後で入浴、夕食。

 6/3の「自粛御膳」。
 鶏高菜御飯・スープ・鰤西京焼き・小鉢4種。
 日本酒は「もりき」で1合売りしてもらった兵庫「仙介」(超辛口純米吟醸 原酒一火)。「超辛口」とは銘打ってますが、元々好きな酒蔵のしかも夏酒、爽やかで飲みやすくて好きなタイプでした。