女の園の星

 勝手に大晦日の恒例行事にしている私的年間ベスト5を掲載、①~⑤は順位ではなく書き手・歌い手の名前の五十音順です。

 先ずは、今年発売された本から5冊。
 ①恩田陸『ドミノin上海』
 ②門間雄介『細野晴臣と彼らの時代』
 ③斉藤美奈子『中古典のすすめ』
 ④野口聡一矢野顕子『宇宙に行くことは地球を知ること 「宇宙新時代」を生きる』
 ⑤幡野広志『なんで僕に聞くんだろう。』
 ①の刊行は事件、プロローグだけで20年前に前作を読んだ時の興奮の記憶が身体に蘇りました。旅行中に開いて一気読みではなかったため、全部で100の断章に分かれているのを細切れの時間で適宜読み進めつつ、旅行中何をやっていても頭の中のどこかで続きが気になるという困った読書体験を。
 細野晴臣個人の作品は持たない(YMOのアルバムを2枚所有しているだけ)私ですが、彼がプロデュースや演奏や作詞作曲やで関わった作品はなんぼでも持っており、②で細野晴臣の個人史を概観(というより「詳観」)できたのは良い体験でした。フォロアーまで含めて考えるならば、細野晴臣は日本の音楽に偏在しているんですね。
 ③の美奈子さん、古典と呼ぶには新しい戦後日本のヒット作を今なおその倫理が失効せずに現代に活きるか、という観点から評価。最高評価だった本は以下、住井すゑ橋のない川』、山本茂実あゝ野麦峠 ある製紙工女哀史』、北杜夫『どくとるマンボウ青春記』、鎌田慧自動車絶望工場 ある季節工の日記』、灰谷健次郎兎の眼』、橋本治桃尻娘』、堀江邦夫『原発ジプシー』、森村誠一悪魔の飽食関東軍細菌戦部隊」恐怖の全貌!』、黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』。これらの本が「今活きる」というのは、決して喜ばしいことではないのですが……。
 アッコちゃんファンだから購入した④ですが、これが贔屓目抜きで良かった。50代で宇宙に目覚め知識と水泳(!)とを一から習得したというアッコちゃんと、二度の宇宙体験を「当事者研究」の学問領域に還元した野口氏との対談は、非常に知的で芸術的で哲学的で、地に足が着いていながら(というのは宇宙の本の形容としては変かも知れませんが)時間・空間的な「遠く」への夢に溢れたものでした。アッコちゃんが新しい部屋を選ぶときは先ず室内で手を叩いて反響を確認するとか、野口さんが宇宙から地球を見下ろす体験に「離見の見」を感じたとか、格好いいエピソードも枚挙です。あと、これを読んで、久しぶりに池田晶子さんを思い出しました。生粋の哲学者が、何故あれほど宇宙に惹かれたのかが、少し解った気がします。
 癌を患った写真家に続々と届く人生相談を集めた⑤、筆者は届いた相談メールの奥の奥にダイブして(意識的にだか無意識的にだか)相談者が書かなかった・書けなかった背景までをじっくり推理・想像してから、吟味推敲された文章(著者は語彙の無さを言いますがご謙遜、更に比喩卓抜)で返す。この誠実がそのまま相談者に届くことを願います(相談への返答は直截過ぎて多分傷ついたり理解出来なかったり逆ギレしたりする相談者も居そうなものです)。

 続いて、昨年以前に発売された本から5冊。
 ①小堀鴎一郎『死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者』
 ②高井有一『少年たちの戦場』
 ③三木卓『若き詩人たちの青春』
 ④向田邦子向田邦子ベスト・エッセイ』
 ⑤渡辺一夫『寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか 渡辺一夫随筆集』
 在宅が絶対善なのかどうかは分かりませんが、母君を自宅でお送りすることが出来なかったというのが昨年10月のその日以来どっかで引っかかっています。今年の一冊を選ぶなら①ですが、筆者は80を超えて出版社から引っ張りだこになってしまいましたね。
 ある年のF校の入試検討会で没になった問題の出典が②で、問題としては没になったもののプレゼンとして読んだ本文が面白そうだったので買いました。数年経て開いたら果たしての熱量。実は、終戦時の大人の描かれ方から私が考えたのは「戦争とは」ではなく「教員とは」の方だったのですが……。
 細野晴臣の評伝も同じなのですが、天才の群像という形式に惹かれるんですね。③は「あわよくば入試か模試の出典に」という下心こそスカされましたが、本質は些事に宿るを地で行く内容に十分以上の満足を得ました。
 ④は今年のちくま文庫ですが、流石に旧作の扱いをすべきかと。「食らわんか」という随想に入っている豚鍋が美味しそうで、もう2度も「自粛御膳」で作ってしまいました。
 高校2年生で現代文を担当する場合は、渡辺一夫「偽善の勧め」「寛容は~」の2本を授業で扱う(最低でも資料プリントで配布する)ことにしています。「偽善の勧め」が66年に新聞エッセイとして発表された当時「偽善とはけしからん」という投書が真面目な高校生から届いたという話、「不寛容」はリテラシーの低さから生まれるという良い例だと思います。この時代(2019年)に⑤を出版した「三田産業」(ひとり出版社)の三田英信氏に感謝と敬意とを。

 漫画は、連載中の(或いは今年連載が終了した)5作品からと決めています。
 ①勝田文風太郎不戦日記(1・2)』
 ②新久千映ワカコ酒(15)』
 ③和山やま『女の園の星(1)』
 ④和山やま『カラオケ行こ!』
 ⑤よしながふみきのう何食べた?(17)』
 山田風太郎の大傑作『戦中派不戦日記』を漫画に? という心配は杞憂でした。斉藤美奈子さんのところで書きましたが、今このタイミングで、ということなんですね。2巻のカラーページの味わいはエモい……じゃない得も言われぬものでした。
 好きな漫画ではありましたが、コロナ禍STAY HOMEの状況で読むと感じ方が変わります(これは、よしながふみの⑤にも言えます)。世の中の人が皆ワカコさんの飲み方を出来るなら、お店も営業自粛なんてしなくて良いんでしょうが……。
 今年のベストは文句なしの③で、とある有名なランキング(あれ、何で「オトコ編」「オンナ編」に分かれてるんでしょう。糸偏が人偏に見えるんですけど)でも1位になったので、益々人気が出てくるんでしょうね。多くの人が、主人公の星先生の初登場コマに対して「あんたや!」とツッコむ姿が目に浮かびます。④も良かった、続編があるそうでそちらも楽しみです。
 新しい漫画を読んでいない訳ではないんですけれども、毎年毎年⑤を選んでしまうのはもう仕方ない。こんな理想のカップルの日常を定期的に読めるという幸せを噛みしめて。

 最後に、今年発売されたCDから5枚(1枚例外あり)。
 ①折坂悠太『暁のわたし REC 2013~2019』
 ②長谷川きよし『街角』
 ③松任谷由実『深海の街』
 ④米津玄師『STRAY SHEEP』
 ⑤V.A『EVANGELION FINALLY』
 折坂悠太の(通販限定の)ライブベスト、2枚組の中には代表曲だけではなく、まだCD化されていないデビュー前の楽曲やカバー曲なども。私は折坂さんのライブ形態3種(「合奏」「重奏」「独奏」)の中では圧倒的に「合奏」派なので、アルバム『平成』の収録曲が合奏フルで披露されている「坂道」~「逢引」辺りのテンションに引き込まれます(ただ、「みーちゃん」の重奏バージョンは素敵でした……要するに移り気なんですね)。ライブアルバムの次にはオリジナルを待望、4月の配信ライブで披露された新曲「夜香木」は非常に恰好良かったです。
 ②は1975年の作品ですが、年末に聴いて衝撃を受けたので。「旅立つ秋」のカバーを目当てに購入(ドラムこそつのだひろですが、ベース細野晴臣・ギター鈴木茂というのはこれはもう『MISSLIM』じゃないですか、と)したのですが、終盤の「巡礼者」~「もう飽きてしまったⅡ」という2曲による強烈なファンク連打に完全ノックアウト。これは、良い子の皆に言ってはいけないかも知れませんが、ちょっと検索して聴いてみて欲しいくらい。
 『POP CLASSICO』(2013年)の「シャンソン」「MODEL」の2曲は私にはユーミンの遺言に聞こえ、次が無いんじゃないかという思いに囚われました。そして『宇宙図書館』(2016年)を聴いて、ユーミンには『REINCARNATION』という名のアルバムがあったではないかと短慮を反省したものの、その後に繰り返された「自らの作品がこの先『詠み人知らず』になれば」(大意)という発言に次があるのかどうかやきもきさせられました。そうしたら、コロナ禍の今年に③を発表、前作の「宇宙」は今度は心の内側に還ってきたのです。永遠まで、もう手が届きそう。今年、星野源が「うちで踊ろう」の「うち」を漢字にせず心の内側という意味も込めた(コロナ禍の中でも現場で働かなければならない人々に配慮して)という発言を見た時には「それはユーミンが2019年の『深海の街』(配信シングル)で目指した『脳内リゾート』というコンセプトと同じだな」と勝手にシンパシーを感じたんですが、実際(偶然にも)翌年のコロナ禍を予見したかのような「深海の街」という曲、アルバムの最後に聴くと何とも不思議な気分になります(コロナより前にこの曲を聴いた時の自分の心身の感覚がもう思い出せなくなっているからかも知れません)。
 これが150万枚しか売れないというのに、もうCDというのは本当に特殊な視聴形態になっちゃってるんだなぁ、と思ったのが④。サザンと同じでオリジナルアルバムとベストアルバムの境が融解しています。15曲の収録曲の中に5分超のものが1曲も無いというのには実は結構驚いたんですけれども、これも音楽の視聴形態が影響しているのかなぁ。そう言えば、ユーミンの③も(昔の作品と違って)短い曲が多かったです。
 『エヴァンゲリオン』の本編は本放送の当時、47回生の同級だったKくんに録画のVHSを借りたのですが5話辺りで所謂「須磨帰り」、ロボットアニメは本当に無理なんです。が、音楽、特に⑤に収録されているVocal曲群には嵌まりました。ユーミンのバックコーラスだった(『天ドア』ツアーの映像作品にも登場した)高橋洋子の大出世に喜んだ思い出も(彼女に関しては、今の「大物然」も別の意味で好きです)。2020年バージョンの曲も2曲収録。
 1975年のアルバムだとか⑤の『エヴァ』だとかを入れておいてなんですが、今年は他にも藤井風の1stアルバム、宮本浩次原田知世のカバーアルバム、玉置浩二のセルフカバーアルバム、鬼束ちひろのライブアルバム(これは3年前の作品の再発)等々、良い作品がたくさんありました。アルバム5枚を挙げられなかった昨年が嘘のようです(が、これまたコロナ禍STAY HOMEの影響なのかも知れません)。

 ここからが本日の日記。

 健康起床、入浴後にホテルをチェックアウトして、タクシーで博多へ移動。駅構内のスーパーマーケットで食材を幾つか買い込んでから新幹線でK市に戻りました。
 K市着は11時で、JRの駅から10分ほど歩いたところにある「スシロー」でランチを。初入店でタッチパネル(注文した皿が奥から流れてくる方式)の操作に苦労しつつ、気がつけば8皿も食べてしまっていました。物を見て皿を取ったり、声を出して一皿ずつ注文をしたりするより、パネルタッチの方が注文のハードルが低いですね(ネットで買い物をしない所以)。あと、8皿で1500円って、そんなに安くないですよねぇ。
 店の前にタクシーを呼んで、懐石「G」を経由して帰宅。「G」では注文済みのお節料理を受け取ったのですが、店主ご夫妻に揃って「TV観ました~」と言われて赤面。

 自宅に戻った後は、母君のお供えを取り替えてから入浴。書斎で書き物は年間のベスト5の更新で、1ヶ月遅れの日記ですが12/31分だけは更新して暫く表示しておきます。長い文章なので流石に書き上げるのに1時間近くかかってしまいました。

 台所で正月用の小鉢等々を作り置き。薬院・中洲での連日の飲み会は「万が一」を考える必要がありそうなので、今日から暫くは自宅に閉じ籠もります。夕食は年越し蕎麦と決まっているので、そこまで準備を終えたら17時にかしゃぶしゅ~。

 12/31の「自粛御膳」。
 年越し蕎麦・鰤煮付け・鮭昆布巻き・里芋煮っころがし・小鉢2種。
 304蔵目・福島「あぶくま」(純米吟醸 無濾過生詰 山田錦)。
 蕎麦は茹で過ぎたので、温冷2種類。温かい方の蕎麦は山菜蕎麦に力餅。お餅は、高3某くんのお母様に頂いたものです。
 
 17時過ぎから飲み始めたら、年越しを待たずに寝てしまいそう。テレ東の『年忘れにっぽんの歌』で欧陽菲菲が「雨の御堂筋」を歌っている最中に、速報テロップで「東京1347人」の表示。最後まで不穏な一年です。『年忘れ』『紅白』『ガキ使』の大晦日3本柱では、意外と『年忘れ』がいちばん見所が多いかも知れません。今年は司会の竹下景子が風邪気味だったのか声がガラガラだったのが気になりました。『ガキ使』は菅野美穂松平健とが後で絶賛される流れでしょうか。『紅白』も見所は少なく。ユーミンは出なくても良かったんじゃないかなぁ。
 とか何とか言ってるうちに、気づけば日付を跨いでます。だらだらTVを観ながら結局8時間近く飲み続けてたというんですから、何だかんだ言って大晦日の番組ラインナップに完負けしてしてるってことですよねぇ(『孤独のグルメ』録画は明日観ます)。