ぜいたくは(素)敵だ!

 8月は上旬に2度の独り旅(どちらも1泊2日)を計画していまして、今日がその初回。K市から鈍行1時間で到着する日田が(取りあえずの)目的地です。
 朝は7時頃まで寝て、起床後に入浴、旅行準備。1泊2日ですからバッグは小さい物でよいですが、汗を掻くでしょうからYシャツの替えは念のために3枚(これが後で奏効しました)、CDは先日の京都に続いてユーミン『Y-miz』、本は昨日「ジュンク堂」で見つけた校内模試用の単行本(勿論、筆者タイトルその他は秘)。
 母君へのお供えは、2泊以上なら御飯と水茶とではなくパンにするのですが、今回は1泊2日なので通常通りの御飯(明日、帰宅後に取り替えます)。お祈りは何となく気恥ずかしいので、お供えをしてお鈴を鳴らした後は(お手々の皺と皺とを合わせて)いつも「頂きます」とお食事前のご挨拶をすることにしているのですが、今日は「行って参ります」。

 鈍行1時間、まぁ長閑な田園風景。日本風景の「ディズニーランダゼイション」を象徴するようなカッパ駅舎(けっ!)の異形も久しぶりに見ました。
 電車内では読書……というか、作問。先ずは本の全体を流し見して、昨日立ち読みで「ここ」と思った場所以上に良い(この場合の「良い」は面白いという意味ではなくて現代文の本文に向いているという意味)箇所は無いことを確認します。その上で、当該の場所を切り取った場合の問い方・解答をひたすら考えるという無言の作業。立ち読みの段階で傍線部を施す場所は大体決まっていますが、そこ以上に相応しい場所は無いかを3000字強をひたすら往復しながら確認。そうしながら、60字程度の解答をどのように組み立てるのかを考えます。バッグの中にはこれ以外の本も2冊入っていましたが、行きの1時間は最初に取り出した1冊(というか、3000字強)を読んでたら時間が蒸発してしまいました。
 11時、日田、着。

 今回の1泊2日、出立地であるところの日田は『進撃の巨人』推しだということを到着して初めて知りました。駅前広場のキャラクター銅像を(礼儀として)写メるところから観光がスタート、案内所では沢山グッズが売られていたので木製のコースターを2セット購入しました。そう言えば、K市の『想夫恋』には作者の諫山さんのサイン(コピー)がありましたね。嘗てアルバイトをしていたそう。
 先ずは駅前の食堂「寶屋」に入り、TVが視界に入らない席で日田ちゃんぽんを食べました。これが絶品、スープが澄み切っていました(子どもの頃からの教育というか母君の呪いというかの影響で麺類のスープは飲まないんですが、今日は2~3口ほど)。日田に行くと行ったら、別の日にご家族連れでドライブがてら訪れるという同窓同僚数学が「あそこのちゃんぽんは旨い」と教えてくれたんですけど、正に。

 日田は(ご退職の超ベテラン体育先生とのドライブで)温泉に一度、豆田に一度訪問したことがあります。但し、最初の豆田観光は時間の関係でお土産屋1軒と日田やきそばの店とだけしか訪れておらず、今回が事実上初めてに近い形。余りに暑いので先ずは「セブンイレブン」で3枚1セットのフェイスタオルを購入して(1枚を首にかけて)、親切な店員さんから頂いた町内マップを見ながら「咸宜園」に向かいました。

 日本遺産認定の「咸宜園」跡、広々とした敷地内には2つの建物が現存していて、どちらにも立ち入ることが出来ます。2階建ての書斎(1階が書庫・2階が書斎)「遠思楼」の階段(狭くて急)を上がり、吹き抜けになっている畳敷きに正座して外を眺めれば、35℃超が信じられない涼しさで憩えます(思わず10分以上ぼ~っとしてました)。もう一つの「秋風庵」は1階建ての教場、こちらの内部には「咸宜園」の歴史を解説する資料も展示されています。その他、井戸や庭などをパシャパシャと写メりながら歩き回り、30分ほど滞在しましたが、私以外の訪問者はゼロ。贅沢ですが、勿体ないですね。

 豆田の通りに入って最初に入店したのは「日田醤油」、事務嬢さんへのお土産があればと思って何気なく入り、取りあえず醤油・白出汁・焼肉のタレをセットで購入。
 そうしたら、入ってから気づいたのですが『雛御殿』という小さな博物館が附設されていまして、これが入場料300円という安さが信じられないような圧巻でした。江戸時代以降現代までの雛飾りがぎっしり。おきあげ雛に吊るし雛は庶民の知恵、博多山笠雛に、幸子ラスボス髣髴の見栄っ張り雛、コメント略(何だか怖いので)のキャラクター雛に、羽子板雛、天皇即位装束雛……等々、1000や2000ではとてもきかない展示群に、時間がどんどん溶けていきました。お土産に、母君のお位牌棚に飾れる吊るし雛、教え子の結婚式(8月末に福岡にて、58回生Iくん)で使える祝儀袋を購入。
 お店では台湾かき氷(フワフワの氷自体が味付きのもの)も売られていて、ボリュームたっぷり400円のマンゴー味……が、半額で200円。泥棒気分でシャクシャクと掬っては口へ、身体がどんどん冷えて大変心地よいのですが、半額の理由が「外気温が37℃を超えたので」と教えられると外へ出るのが怖い。

 雛飾りに目を奪われて、店を出た時には豆田観光の時間は殆ど残っていませんでした(30分強だけしか)。小走りで大通りをぐるり、町の酒屋で地元の(未踏破の)蔵の4合瓶を自分用に購入して、下駄屋に展示されていた日本一大きい一本歯の下駄(1トン!)を写メって、くらいしか出来ていません。本当は有名な「薫長」酒蔵の見学をしたかったのですがこれは次の機会に。
 というか、「小走りで」と書いたのですが後半15分は全速力に。通り雨に降られて少し濡れてしまいました(途中の「ファミマ」で70cmのジャンプ傘を購入)。

 駅前に戻ってバス乗り場、乗るべきバスは予想よりもずっと小さな20人弱がキャパのもので、私以外の乗客10人強はほぼ全員が女性で人生の大ベテラン、明らかに観光客なのは私を含めて2人だけです。このバスの最終目的地は山奥の温泉なのですが、恐らくその途中の停車場で降りられる(日田には買い物か通院かで訪れられた)地元の方なのでしょう……と予想したら果たしてその通りで、誰が住んでんだこんな山ん中、という失礼な感想しか浮かばない停留所を降りられた或る女性の行方を目で追うと、確かに停留所から一直線に下った坂の果てに3軒ほどの家が! というか行きはこの坂を登って来たんかい! と驚くばかり(だって、めちゃめちゃ腰が曲がってた方だったんです)。

 大分県の日田から40分強の山道蛇行バスに最後まで付き合うと、熊本県小国市にある杖立温泉に到着します。先に書いた通り日田発のバスには10人強の乗客でしたが、殆どが山間に住む高齢者で途中下車、もう一人別の観光客(私より年上の男性)は途中の道の駅(『進撃の巨人』の記念館があります)で下車、最後まで付き合ったのは私だけでした。そして、15時に杖立温泉着の直前から降り始めた雨は直ぐにゲリラの豪雨に変わり、最初は「さっき傘を買っておいてよかった~」と思っていたのですがバス停に降りたら「傘が役に立たん!」という現実。予約した旅館までの徒歩10分の道のりだけでシャツと靴と靴下とジーンズがほぼ駄目になりました。「からがら」のチェックイン。
 フロントでは何よりも先に大量のタオルを頂き、靴下を脱いで足を拭き上げます。ぐしょ濡れの靴には、旅館の方が新聞紙を丸めて詰め込んで下さいました。チェックインの書類を書きながら、「お客様、お大変でしたね」「えぇ、濡れました。お風呂は入れますか?」「勿論です、大浴場は今の時間は男性が露天風呂……でも宜しいですか?」「どうせ濡れるのは雨でも温泉でも同じですから、良いんじゃないでしょうか」

 旅館「ふくみ山荘」は独り客OK、総檜の部屋風呂(勿論源泉掛け流し)付きのツイン(和洋折衷のお洒落な12畳)を豪華に借り切って、昨年8月に水害から復興した杖立を応援……しようと思ったらいきなりの豪雨で不穏ですが。
 「芍薬」と名付けられた部屋に入り、先ずは膝下ぐっちょりのジーンズを拭いてハンガーに干し、同じく雨に濡れたバッグの中身の確認(着替えは無事、持ってきた文庫本が少し濡れてしまいましたが読めなくなる程ではなかったです)。本日の宿泊客は私を含めて2組だけなのだそう。
 続いて、濡れた身体を温めるべく、大浴場の露天風呂へ。15時一番乗りのチェックインなので、他に利用者がいない(多分、私が入っている間は来ない)という解放感。雷雨の中の露天風呂なんて初めてのことです。取り囲む木々の葉っぱを打ってから湯面に髪にと降り注ぐ雨粒、これぞ正に頭寒足熱。雨音雷鳴の中で且つ一番乗りで誰もいないのを良いことに放歌して愉快痛快。
 大浴場の利用は一番乗りの1回でお終いかな(と思ったのですが、結局翌日の朝イチにもう一度入って独占使用しました)。食事も風呂(部屋付き温泉檜風呂)も個室の高級宿泊は、水害復興支援兼感染対策です。

 大浴場を出たら16時。夕食18時までの2時間で何をするか、と言えばやはり部屋風呂です(お風呂のはしご!)。総檜の浴槽(183cmの私が首下まで浸かれる、足を目一杯伸ばせる、というかなり大きなもの)の中のお湯はかなり熱かったので、先ずは20分ほどかけて水でぬるめる作業。備え付けの「湯かき棒」でお湯をかき混ぜるというのは初めての体験で入る前からもう愉しい。風呂場は露天ではなく屋根がついていますが、目隠しの隙間から幽かに外の風景が見えて(雨音も聞こえて)開放的。
 シャワーを浴びて(シャンプー・リンス・ボディーソープを使って全身を綺麗にして)、自分で温度を調えた専用の風呂に入るという贅沢。さっきの露天風呂にも30分くらい浸かっていたのに、こっちでもつい20分30分と。ぼ~っと雨音を聞いていると舟を漕いでというか川を渡ってしまいそうになります。

 18時に指定された個室(宿泊の部屋とは別)に行くと、広いテーブルの上に、前菜・小鉢・溶岩焼きの鉄板・飯物用の釜がセッティングされています。おしながきの紙には、以下。
 ・前菜 山海珍味
 ・小鉢 胡麻豆腐イクラ添え
 ・吸物 白魚・木の実・三つ葉
 ・造里 熊本県馬刺し・海鮮三点盛り
 ・焼物 鮎の塩焼き
 ・蒸物 茶碗蒸し
 ・酢物 〆鯖・ホタルイカ
 ・台物 熊本あか牛の溶岩焼き
 ・揚物 アスパラ豚巻き・ナス挟み揚げ
 ・食事 アサリの釜飯し
 ・香物 三種盛り
 ・水物 季節のフルーツ
 美味は前提ですが、それより担当して下さった旅館の方(年若い青年)の気働きに感動しました。私がメニューを見ながら最初のドリンクを注文する時の質問や世間話で私の為人(ひととなり)をそれとなく見つつ、あぁこれは飲むな、と思われたんでしょう。何をするよりも先に釜飯に着火(30分で炊きあがったら10分蒸らす)、多分飲まれるんでしょうけれどもそれなら米は先に片づけて他の肴でガンガン飲みましょうね、と目配せ。で、飲むと知れたらメインの赤牛鉄板焼は火元をお任せしますとチャッカマンまで託されました。2時間半の時間をフルに使ってたっぷり(自分の塩梅で)飲み食いして、傍らの読書ではいずれ出題する(可能性が高い)校内模試の問題を(頭の中で)完成まで持っていきました。しゃ~わせ。
 397蔵目・熊本「小国蔵一本〆」(純米吟醸)。

 季節のフルーツと追加注文した日本酒小瓶1本は、先の旅館の方がお盆にセットして部屋まで運んで下さいました。上げ膳据え膳の極み。
 部屋でだらだらと飲み直す……前に、再び30分ほど部屋風呂に漬かってゆったり。日本酒の瓶は、氷がたっぷりと入ったボックスに刺さっていたので風呂上がりもキンキンです。しゃ~わせ。

 22時半に布団に入って、夜中の3時に一回目が覚めて水を飲んで、ツインだからともう片方の布団に入って二度寝。しゃ~わせ。