雲は 墨色流し うち消す想いに

 祝・自粛解禁!(←なんだか形容矛盾みたいな書き方ですけれども、これは自宅「隔離」が「自粛」に戻ったという意味です)。久しぶりに入店した近所のセブンイレブンで「焼鯖おろしポン酢」が復活していたのが嬉しくて、小鉢用につい2カップも購入してしまいました(賞味期限が3日以上と長めなのも良)。

 昨日までだって仕事はしていたのですが、今日からは堂々職場(学校)で仕事を出来ます。徒歩通勤で6時過ぎに職員室一番乗り……したのはナチュラルなことだったのですが、後で考えたら、教員が大勢居る状態の職員室のドアをガラッと開けた瞬間に皆の視線を浴びるというのが嫌だったというのがあるのかも知れません。
 コロナに罹るのは恥ずかしいことか、否か。東京で罹患したF校時代の同級生は「最早ガチャっていう共通認識」との表現で後ろ指は存在しない気が、と言います。K市ではどうでしょうね。気安く話せる同僚の中には(職場感染で罹患したと思われる私に向かって)「社会的には終わるしねぇ」と悪気なくサラッと言った人も居ますし、実際、私もちょっとは後ろめたさ(ばつの悪さ)を感じていますし。コロナに罹るのは恥ずかしいことか、田舎。

 とは言え、基本的には(良くも悪くも)「優しい無視」という作法が行き渡った職場。後遺症を心配して下さったり、お一人では大変だったでしょうやっぱりご家族がいらっしゃるとご病気の時なんかに違うのではという二重三重に手遅れかと思える助言を下さったり、という「一言二言」はありましたが、過剰な詮索はありませんでした。
 そうそう、「後遺症」ですよ。結局、軽症も軽症で喉以外の症状がほぼ出なかった罹患ですが、私の場合はコロナと普通の風邪とが違うというのは症状の引きずり方に出ました。なかなか喉が本調子に戻らない。どこか掠れているというか引っかかりがあるというか、9割方回復しているんですけれども完全には……(というのが、結果的には2週間以上続きました)。

 嬢「言われてみれば、確かにちょっとだけ掠れてるかなぁ、って感じはしますね。でもそんなに酷くは」
 私「何を仰る、これはFKC(F校カラオケ俱楽部)のメンバーとしては死活問題ですよ。この先酷くなるかも知れないし。どうしよう、歌えなくなったら」
 嬢「まぁ、どうせコロナが収まるまではカラオケも出来ないし」
 私「でもでも、声が枯れ過ぎて授業がし難くなったり。ってか、このまま声が伊藤沙莉みたいになったら」
 嬢「良いじゃないですか、ハスキーで格好いいから」
 私「良くないですよ。どうします、僕が『あたしの人生って、クソみたいなもんじゃないですか』とか言い出したら」
 嬢「どうもしませんよ、ってかそれ声じゃなくて台詞」

 一日中、時間割の仕事と高3現代文の添削……やってる業務の種類は自宅隔離中と同じなのですが、やはり仕事のし易さが全然違います。徒歩通勤15分間の(気分切り替えの)効用も、人や資料の揃いも、居場所の実感(空気・気風・雰囲気)も、自宅隔離(リモート)では手に入らないものだと個人的には思います。

 さて、コロナの後処理には、購入済みのお土産(御礼の品)を配ったり、職場に提出する書類を作成したり、保険の申請(あ、保険金、支払われます)をしたり、と色々ありますが、一点だけ手をつけていない宿題が。
 国語科恩師先生に、梅干し・炒り玄米の御礼をせねば。
 物・人の整理に入られた先生には、基本的に何をお送りしても「必要ない」若しくは「必要なので既に持っている」ということになります。ですから、何か御礼をしたいというのは私の我が儘なのですが、それでもお礼状だけで済ませたくない……どころか先生に何かをお送りする機会がこれが最後かも知れないのなら、単に今回だけの御礼ではなく私が今ここ(F校)で生きていることそのものへの御礼をしたい。何しろ、中1で先生の授業を受けてF校に就職することを決め、大学4年の教育実習中に先生が(当時の)校長先生に掛け合って一本釣りの採用を決定して下さったのです。
 ……と、大仰に言ってみたところでじゃあ100万200万の御礼をするのか(それでも全然足りないと思いますが)と言われたらそんなことは畏れ多くてとても出来ませんし、そもそも前述の通り何をお送りしてもという状態ですし。

 考えに考えた後で唯一思いついたものがあったので、果たしてそれで正解かどうかを、本日ご出勤の超ベテラン美術先生(恩師先生と仲良し)にお伺いに。恩師先生は筆で文章(例えば私への玉葉)を書かれる毎日なので、墨をお送りするのは如何でしょうか。
 美術先生が「それなら青墨を」と仰って下さったのでどうやら不正解ではなさそう、ですが私は書道門外漢で知識ゼロ、何を幾らで買うべきかなど全く判りません。ネットで検索をしたらK市中心部に個人経営の(書道用具の)セレクトショップがあるのを見つけたので、直ぐに電話をかけてみました(番号は個人の携帯でした)。するとプロの目で相談に乗って下さるということ、仕事終わりの時刻にアポイントメントを取ってタクシーで店に出向きました。

 雑居ビルの2階に狭いオフィス、商品は陳列されておらず奥の倉庫に仕舞われている様子。この道40年のベテラン店主氏からは、常連と紹介と以外で直接店に来訪なさったのは今年はあなたが初めてです、と言われました。私が何を言うよりも実物をお見せした方が早いと思って準備したのは、これまで恩師先生が書かれた私宛の手紙(筆によるもの、鉛筆書きのもの)です。
 それをじっくりとご覧になった店主氏が、恩師先生の筆遣い・墨の色・使われている和紙の特徴等々から判断なさって、これというものを幾つか紹介して下さいます。大きさは親指大のものからバターの大きさまで、値段は4桁からその2つ上の桁まで、そして色も黒は黒なのですが濃淡や青みの度合い等がものによって大きく異なっていて、本当に色々なものがあるのだ(それを何にも知らなかったのだ)というのを改めて。30分と言わない時間迷ったのですが、店主氏は適宜説明を加えつつずっと待って下さいます。結局、財布とも相談して(店に直接訪問した客には3割引で売ると言われたので、直観より1ランク良いものを選ぶことにして)、奈良県で作られた松煙墨(20年超前のもの)を選びました。

 西鉄K駅構内のスーパーで買い物をしてから帰宅、入浴、自炊。
 2/15の「自粛御膳」。
 小鉢2種~肉豆腐~味噌汁~あて盛り。