梯子酒 梯子酒 クダまくオヤジに巻き込まれる

 授業なしの木~土を年休にして、不良教員は旅立ちます。

 4時前に起床、お風呂にお湯を溜める40分の間に旅行中の荷物を纏めます。2泊3日分の着替え、タオルを1枚。歯ブラシのセットやサプリメント等を大きめのジップロックに詰める。CDウォークマンユーミンのベスト、本は2冊だけに絞って。絶対に忘れてはいけないのはスマホの充電器。自宅徒歩3分の「セブンイレブン」に往復して、母君のご仏前には菓子パンと野菜生活と(←親不孝)。
 入浴後、お茶を飲んでから着替える。自宅前のバス停から西鉄K駅、K駅を6時半に出る高速バスに乗れば1時間で福岡空港に到着します(バスの中ではずっとユーミン)。バス車内に射し込む7時過ぎの朝陽がきつく、薄いYシャツの上にジャケットを着ているだけなのに汗がじっとり、用意したタオルが役に立ちました。それとも、飛行機に乗るので今から緊張しているんでしょうか。

 10時過ぎ着マストだったので新幹線は諦めてJAL便、恐怖心から(仕事じゃなかったら)絶対に乗らないと決めていた飛行機も、担任を務めた67回生B組Hさんの(3分間スピーチでの)飛行機安全プレゼンを聞いたこと、及び3年前に母君をお見送りしたこと、で少し抵抗感が薄れました。怖いのは怖いんですけど。機内のドリンクサービスは旅行時にだけ自らに許しているコカコーラ。
 羽田に到着していきなり仕事場でトラブル(私のミス)があったことが発覚し、後輩数学先生・国語先生に処理をお願いする。東京旅行で舞い上がってて、その仕事、スカ~ッ! と忘れておりました。済みません、お土産買ってきます。

 2月の(東大受験応援)出張を除けば東京は2年半ぶり、モノレールで浜松町まで向かう車内の人が全員マスクをしているのはそりゃ当然なんですよ、皆地方から来たお上りさんなんですから。問題は山手線です……って、何を言っているのかといいますと。
 東京から帰省した卒業生然り、オンラインでやりとりしている在東京の卒業生・同級生しかり、ここ最近聞こえてくる声は「東京ではもうコロナなんて誰も気にしてない」というものばかり。私てっきり、山手線なんてノーマスク軍団が大手振ってるんだろうと思ってたんですね。だから乗り換え前は結構緊張していたんですけど、蓋(っつかドア)が開いたら拍子抜け、皆マスクしてますやん。

 山手線で先ずは五反田。今回は訪問する居酒屋の1軒が池上線沿いにあるということで初めて五反田のホテルを選びました。大荷物をホテルに預けるために駅を出たら、ホテル徒歩2分の場所にあったカレー屋「ホットスプーン」を通りかかったのが開店2分前だった(丁度、店員さんが行列整理用のコーンを並べ終わったところだった)ので、そのまま入店して牛すじ煮込みカレーの昼食を。美味。
 ホテルのフロントに荷物を預け、山手線で上野駅へ。12時に駅に到着、そのまま真っ直ぐ目的地である「東京国立博物館」へ。特別展会場の平成館に直進したら、12時15分の時点で入り口前には20人ほどの行列が出来ていました。私も含めて並んでいる人が持っているチケットは12時半~13時半入場のものです。15分前で20人ほどというのは(予想より)少ないな……と思っていたのですがその後は続々、入場開始時には私の後ろに100人以上が並んでいました。入場、検温、消毒、エスカレーターで2階へ、5秒逡巡して今回は音声ガイド(吉沢亮)を借りることに。今回の上京の観光の本丸へ、いざ。

 上野「東京国立博物館」の150周年記念、特別展『国宝 東京国立博物館のすべて』、2022/10/20、12時半~13時半入場チケット(完全予約定員制)。
 日本の国宝の総数約900、その1割を抱える「東博」が半世紀に一度の総展示(会期中展示替えあり)。50年後がない身の蛮勇を奮って上京、真っ先に飛び込みます。
 見えるのは群衆の旋毛だけみたいな芋洗いを覚悟していたのですが、覆されました。確かに人出は多い(多過ぎる)のですが、流石「東博」と言うべき圧倒的な会場の広さを活かした余裕ある展示配置の効果で、(流石に長蛇牛歩ではありましたが)譲り合えば一つ一つの展示を割合じっくり見られました。
 ただ、それだけに、人出とご時世とを考慮したのであろう「90分の観賞時間制限」は実に実に辛い! 国宝だけで70点、その後には150年分の重文が連打です。崋山・等伯・光悦・雪州・道風……国宝群をそれぞれ1~2分で観る至難に耐えて80分(刀剣ブースはほぼ流し見しか出来ませんでした)を過ごし、残り10分で入った第2部(博物館150年の歴史を概観)に岸田劉生『麗子微笑』・尾形光琳風神雷神図屏風』・歌麿写楽北斎……と現れた時には小さく「嗚呼!」と叫びました(結局、鑑賞110分、物販20分の「違反」をしたことを告白します)。
 いやはや、夢のような体験でした。

 「東博」は本館の通常展示にもそこここに重文、しかも特別展とは異なり総て写真OKです。刀剣なら「太刀 長船兼光」、仏像なら「文殊菩薩騎獅像及び侍者立像」「愛染明王坐像」「不動明王立像」、浮世絵なら「東扇・初代中村仲蔵」「三代目沢村宗十郎の大岸蔵人」……とFoodieで写真を撮りまくり。
 その後、本館裏の日本庭園を散歩。気づけば「東博」に3時間以上も滞在しています。上野公園の人波を縫うように小走りで駅へ戻り、五反田のホテルにチェックイン。預けた荷物を部屋の中まで運んで下さっていたのでここは良いホテル、スマホを充電しながらお風呂にお湯を溜め(その間、フロントに行って2回目の入浴用のタオルセットをもらってきました)、入浴後に着替えて出発。休む暇はありません。

 山手線は五反田から新宿。東口の場所を構内の駅員さんに教えてもらってから移動(自力では絶対に無理です)。アルタ横の「百果園」が無くなっているのを横目で確認しながら目的地ビルは東口から歩いて3分でした。
 新宿「中村屋サロン美術館」の特別展『鴨居玲展 人間とは何か』。
 40点弱を集めた個展。看板ポスターの自画像は絶筆、先日北九州の『自画像展』で観て息を呑んだ作品です。今回の展示作品の一つはそれに匹敵の衝撃、右左の障子いっぱいに首吊りの全身像・頭部アップを描いた「首吊り」に魅入られました。勿論、自画像です。館内展示説明や来歴年表では極めて慎重に「自殺」の語を用いるのを避けていましたが、この「首つり」の説明書きの中だけでは使わざるを得ませんでした。館内の客は疎ら(片手で足りるくらい)でゆったりと鑑賞。

 池袋着が17時10分、殆ど走るように移動して聖地「ジュンク堂」本店へ。45分西口合流の待ち合わせには完全に遅れようと開き直って、30分の滞在を自分に許しました。となると、売り場探索20分、会計5分、発送手続き5分です。地下1階(漫画)8分、4階(人文)5分、3階(文庫新書)7分……で既に籠はいっぱいになっておりお会計は2万円超。久しぶりの訪問ですがどこに何があるのかは(少なくとも地下1階・3階・4階に関しては)知っているので、目当ての(発売を知っていた)本は勿論、あらこんな面白い本がという出会いも数冊あって満足。会計はセルフレジを避けて対面のやりとり、クレジットカードで支払いをした後で発送手続き、ジャスト30分でビルを出ました。
 勿論、30分ではとてもとてもという場所ではありますから、年末に訪問できた時にはゆったりと「背表紙読書」をしながらの逍遙を楽しみたいと思います。

 「ジュンク堂」から西口広場までは小走りで7~8分、約束に遅れるのは申し訳ないですけれどもお相手はコンダクターKくんの先導で全員一緒に集まると言ってたから、お喋りしながら時間を潰してくれるでしょう、と甘えました。5分遅刻。
 目的の店に一番近い待ち合わせ場所は北口なのですが、集合地が分かりやすいのは西口なのですね。殆ど会釈だけの挨拶をした後、手招きでついてくるように促してから、18時の予約に遅れないようスタスタと歩き出します。目的地は韓国料理「韓二郎」なのですが、途中で「知音食堂」は開いてる、「海鮮山」も開いてる……と色々なお店を確認しながらうねうねと移動。
 「韓二郎」に入店して卒業生たちをテーブルに座らせ、先ずは人数分の代金(コース飲み放題です)をお店に払ってから(心置きなく)乾杯出来る……んですけれども、座った途端に卒業生たちに文句を言われる。「合流していきなり歩き出して」「もの凄いスピードでぐんぐん移動するから」「俺ら相手にされてないんじゃないかと不安になって」「店に着く前に既に心が折れそうになった」と。気持ちは分からんではないけれども、でもってこっちが5分遅刻したから言う資格は無いんだけれども、相手にするのが嫌だったらそもそも約束なんて取りつけないし今人数分の代金を全て支払ったのも見たでしょうがよ、と。
 いきなりぶーたれてる大学生たちは全員が東大理系4年生。担任団を務めた67回生の、私が担任だったB組「以外」の出身メンバーばかりが集まりました。コンダクターKくんとは一度飲んだことがあったのですが、先日東京で酔っ払ったらしい彼から「次の上京で飲みましょう!」というメールが来たのに即諾の返信をしたので、今夜お互いの「責任」を果たすために乾杯をすることになった次第。でもって恩着せがましくもう一回言っときますけど全額私が払いましたからね、相手が大学生ですから。まぁ、Kくんは来春から外資コンサルで早速私よりもお高級取りになられるんでしょうけども!

 というわけで、10/20は「自粛御膳」をお休み、旅先の池袋で、67回生東大理系軍団と韓国料理「韓二郎」で宴会。
 「欲張り韓二郎コース」に2時間飲み放題、一人4500円は東京プライスだとはとても思えないのですが、質・量ともにかなりのレベル(具体的に言えば、東大応援出張の時に担任団の先生をお連れして喜んでいただけたレベル)の料理が出てきます。特に串が美味しくて(K市の人間が褒めるくらいですから)、今回はコースに入ってない鶏レバー(見たことのないくらいデカいレアをごま油で)を別料金で追加注文しています。
 一度飲んだKくん以外のメンバーは高校在学中にも殆ど喋ったことがない(授業・特講は担当しましたけど)相手で最初はガチガチだったんですけれども、飲んで喋りゃ何とかなる。コロナ禍でも誠実に生活(勉強)をしている卒業生たちそれぞれの近況を聞きながら(ツッコミながら)飲んでたら2時間なんてあっという間で……。

 「先生、もう1軒行きましょう!」
 顔赤いぞ、他のメンバー若干引いてるぞ、大丈夫かKくん、と心でツッコみつつ、先程「開いている」ことを確認した「知音食堂」へ移動。私だって久々の池袋で心は躍っていますので、まぁもう1軒くらいなら……。
 20時半過ぎに入店した地下店内は先客1組だけ。ど平日とはいえ人気店なのに淋しい、と思いかけたら22時閉店でラストオーダーまで1時間を切っていたのでした。丁度、奥の個室スペースが空いていたのでそこへ案内をお願い……した店員さん(初めて見た年若いお姉さん)が「早く座って、邪魔だから」「お客さんたち、絶対にオタクでしょ~」と、何かのプレイかというツンデレキャラで(こっちから求めた訳じゃないんだけれども)そこそこ面白かった。注文は茹でピーナッツに麻婆豆腐という鉄板、ビールは勿論青島の瓶を直飲みで。そうそう、店員のお姉さんの「デレ」の部分は帰り際に発揮されました。「もう1組の客が怖いヤツらだから来てもらえて良かった」ですって。お好きな方はどうぞ。

 「先生、もう1軒、もう1軒だけ行きましょう!」
 泥酔だぞ、他のメンバー確実に引いてるぞ、大丈夫かKくん、と心でツッコみつつ、先程遠目で「開いている」ことを確認した「中国茶館」へ移動。北口東亜3連打。先程の「知音」とほぼ同じ状態で、「茶館」もラスト40分の貸し切りでした。
 また誘って下さい! とKくん滅茶苦茶前のめりだったけれど、他のメンバーは海老かっつーくらい腰が引けてたような気がする。誘ってと言われたから誘うとは思うけれど、今度は「さし」になったりして。

 さて、帰りの山手線は空いてましたが寝落ちしないように立って乗車……したんですが五反田を見事に乗り過ごしてしまいまして。終電ギリギリの反対ホームへ向けて階段をダッシュで上り下りしながら、解放感マックスで煽られるまま3軒も回った42歳おっさん、1軒目で生を10杯以上飲んで、2軒目で青島を3本、3軒目で中瓶を2本空けてたことに気づきました。
 他のメンバー、Kくんじゃなくて私見て引いてたんじゃない?