行ったり来たりすれ違い

 九大准教授で数学者の千葉逸人さん、矢野顕子さんの『二人ぼっちでいこう』のジャケットに書かれた数式を提供した方として名前だけは知っていたのですが、Twitterで大手予備校各社の解答例が間違っている(結果はあってるが証明になってない)と指摘してバズってお出でです。有名なツイッタラーさん(かなり個性的な性格、文体。そして酒好き。素敵)だそうですが、入試の作り手側が予備校解答の不備を指摘し、更にツイートへのリプライに返答する形でどこが何故間違っているのかを明かしているというのは結構凄いことなんじゃないかと思いました。因みにその後、K予備校の或る現代文講師から「立場をわきまえろ」と罵倒されたそうです。現代文講師て。

 通常出勤で、後期小論文の添削(本日より受付)と、元生徒会長「答辞」の添削。後者「答辞」は、友人の悪口以外なら内容の検閲(?)は絶対しねぇ、と構えていたんですが、元生徒会長氏が持って来られた文章が拍子抜けするくらい「まとも」且つ「端的」だったのでちょっと驚きました。彼が去った後、職員室で担任団世界史先生と。
 私「生徒会長くんの文章、テンプレかよってくらいまともだったんです」
 世「良いことじゃないですか」
 私「あれ、本番でテロを起こす臭いがするんですけどね」
 世「……ありそう」
 ま、いいですけど。

 さて、本日朝、5日振りに自宅の布団でお目覚めになった母君が、いきなり私に「今日から10日間、お休みなんでしょう?」と意味の通らぬことを聞いてこられたのにちょこっとだけ違和感を持ってはいたんです。ちょこっとだけ。でも、それ以外別段変わった様子もなく、朝食も(昼に自宅に帰って作った)昼食も普通に召し上がっておられたので、その違和感も完全に忘れていたんですね。だから、ちょっと今日は気乗りしないかも、みたいな雰囲気を醸していたのに気付かないふりをして、木曜午後恒例の絵画教室にも普通に行っていただいたんですね。
 で、15時前に教室から電話がかかって来て、母君が倒れられたという一報を受ける。

 自転車で5分の距離ですので、教室に到着した時にはまだ救急車がかかりつけの「S病院」に向かう前で、私も家族として一緒に乗り込むことが出来ました。座って絵を描き始めて時期に眠るように倒れ込み意識を失ったという母君は、しかし病院に向かう車内で既に意識を取り戻しており、救急救命士の方の問いかけにも「分かりません」を含めて正しく答えているご様子。救急搬送された先では1時間超かけて全身検査が行われます(こないだ撮ったばかりのMRIも再度)。そこで、それを待っている間に色々と「仕事」をこなすことに。

 先ずはタクシーで「S病院」を出て絵画教室へ。とめさせてもらっていた自転車を自宅マンションに戻して、自宅横のケーキ屋(来月閉店してしまうそう)で箱入りのお菓子を買いました。「御礼」の熨斗をつけて、これは明日学校で美術先生にお渡しします(絵画教室の先生は美術先生の奥様です)。
 続いて、母君を担当して下さっているケアマネージャーさんに電話を掛けて事情を説明し、S病院の社会福祉士さんに連絡を取ってもらうよう動いていただきました。検査結果は恐らく「異常なし」だと想像しています。半月前のMRIで何もなかったんですから、今回の意識消失も「たまにあること」と解釈される可能性が高いのではないかと思います(昨年4月に外出先で倒れて搬送された時もそうでした)。

 でも、「異常なし」だから自宅に戻します、と言われたら私は困ってしまいます。何故なら、明日は67回生の卒業式だからです。

 明日は卒業式後に市内ホテルで保護者による謝恩会が開かれます(当然その後は学年団の飲み会です)ので、昼も夜も自宅に帰る暇はありません。67回生の担任団としてその全ては絶対にキャンセル出来ませんから、朝食まで作って出勤したら、後は昼食はパン、夕食はお弁当程度で凌いでいただこうと思っていました。但しこれは母君がお元気ならばという話で、前日に意識消失で救急搬送された方を一日自宅で放置しておくことは出来ません。
 上記2つの「出来ません」を両方解決する方法として真っ先に思いついたのが、母君にあと2泊(今日から卒業式あけの2日まで)病院に居ていただくことでした。そこで、「S病院」の社会福祉士さんにお願いして、昨日退院したばかりの「N病院」の個室を確保していただいたのです。

 案の定、全身検査の結果は全くの「異常なし」で、お医者様の判断は帰宅可能というものでした。支払い手続きを終えた後、多少はふらつきがあるものの通常通り歩行がお出来になる母君の手を引き、タクシーを呼んで自宅に向かいます。ただし、自宅は経由地点で、昨日退院した時のままになっていてバッグごと持ち出せば良い入院グッズ(着替えや洗面具等)を引き取ったらそのまま「N病院」へと移動します。
 昨日の今日でまた入院、母君はお嫌そうでした(というかはっきりそう仰いました)が、今日救急搬送の母君を明日一日自宅に放置するのは心細く病院なら薬・食事・衛生面のケアも万全だということ、3年間担任をした学年の卒業式は生徒のために傷一つ付けずに挙行されるようお手伝いしなければならないこと、そして何より私が安心して卒業式~慰労会に参加したいこと、を正直に話したら何とかご納得のご様子ではありました。
 病室を去る際、母君が「病院のベッドは少し寒いかも」と仰ったので、「明日の朝、桐灰の『貼るカイロ』をお届けしますね」とお答え。すれ違っているのは承知していますが、仕方ありません。

 夜、噂を聞かれた学年主任地理先生から着信あり。検査が異常なしだったこと、2泊の入院で逆に明日は一日ずっと行事に集中できること、をお話ししたら安心していただけました。
 地「それで、夜なんだけど……」
 私「え? 余裕で参加しますよ。っつか、謝恩会後の二次会でしょ? さっき病院の待合室から電話して『B』を押さえました」
 野菜料理「B」は結構な行きつけである上にF校利用率が高いので融通がききます。卒業式謝恩会後の利用、と言ったら「参加者10人ちょいで二次会3000円コース、厳密な人数は直前連絡」というのをマスターの方から即座に提示され、私は開始時間を告げるだけで済みました。正直色々細かい事を考える時間・精神的余裕がなかったので本当に有難く。

 病院からタクシーで「もりき」へ。店内は小上がりに見知らぬ一見さんグループが居るのみでカウンターは私一人。独酌の間、あまりマスターに話しかけられなかったような気がするのは気のせいかしらん(私が余程疲れて見えたのでしょうか、とか考えたり)。

 明日は、お目出度い日ですから。