ゆっくり 行きなさい あなたの決めたみちを

 5時半起床(珍しく8時間くらい寝てますね)、入浴後に普段着で自宅を出て、コンビニで貼るカイロを買ってからタクシーで「N病院」へ。7時半の母君はまだベッドで夢現のご様子でしたが、枕元にカイロを置いて、二言三言言葉を交わして病室を出ました。看護師長の方とお話をして、明朝お迎えに上がる時間等をご相談。「N病院」にタクシーを呼び、今度は行きつけの美容室「G」へ。ワンオペ店長Kさん(同じ年)に「卒業式用に髪を固めて一日保たせて!」と電話で頼み込んで、開店1時間前にシャンプーとセットとをしてもらいました。本日三度目のタクシーで一旦自宅に戻り、美術先生を通じて奥様にお渡しいただく菓子折を持ち出し、次は自宅徒歩3分のクリーニング店に向かいます。開店の15分前ですが、馴染みの店員さんは既に店にお出でになり、私は預けておいた礼服上下を受け取り、図々しいですが店内で着替えさせてもらいました(今まで着ていた服はまとめてクリーニングに出しました)。本日4回目のタクシーに乗って、クリーニング店から学校に向かい、職員朝礼終了直後の職員室に滑りこみました。卒業式の準備は万端です。

 担任として卒業式に出るのは63回生に続いて2度目。馬子にも衣装の礼服とKさんに整えてもらった頭髪とを見て、63回生は爆笑してからかって来ましたが67回生は至って真面目。「先生が正装をしてお出でになる」という事実を静かに認識するだけでお仕舞いです。両極端なんですよねぇ。「何か決まっとるやん!」と声を掛けて下さったのは担任数学先生だけでした。
 式は粛々、私と世界史先生とが予測したように、元生徒会長くんはやっぱり原稿にないことを幾つか仕込んで笑いをとっていました。下品でもなかったし人の悪口も言わなかったのでそれで良いかと思います。担任である英語科パイセンの拳はずっと震えていましたが……。その夜の謝恩会で、元生徒会長くんママが近づいてお出でになり。
 マ「先生! ホントすいませんでした~。あんなこと言うなんてもう、ホントに。私も毎回毎回冷や汗かく準備だけはしてるんですけどね~」
 私「良いじゃないですか。誰の悪口もいわかなったし」
 マ「そうなんです。あの子ね、人の悪口だけは言わないんです!」
 親って、子どもが好きなんだなぁ、としみじみ。

 F校の卒業式は、前期試験終了直後、まだ合格発表が始まる前、という非常に宙ぶらりんな時期に行われますので、生徒もどのような態度で臨めば良いのか掴めずどうも片づかないというのが本当のところなのだと思いますが、今日の67回生を見る限りは「それは置いておいて」ハレの日の気分を存分に味わっておこうという態度がはっきりと現れていて、そういう意味でも(体験への取り組み方という点でも)真面目な人たちだなぁ、と思いました。
 我らB組41人には、3年間の出席皆勤が11人居ます。

 食堂で行われる歓送会での担任コメントでは、年度末(3月末~4月頭)に届ける予定の文集の話をしました。あとがきには、今日の元生徒会長くんの答辞を入れます。卒業生からの贈呈品は、九州交響楽団の演奏、九響合唱団の歌唱によるF校校歌のCD音源で、それが本邦初披露されたのですが、食堂の粗末な(失礼!)音響で聴いてですら「大河か!」と半笑いのツッコミが入るほどの本格派で、やっぱり本当に凄いものを見聞きしたら人間って笑っちゃいますよね、と。

 最後の最後のホームルーム(教室内には保護者もいっぱい)での担任コメントは、シャイで口下手な私がせめて何某かを伝えられるようにと考えて授業形式で行うことにしました。板書もきちんと準備しています。題して「大学生不可集」「予備校生不可集」。2年前の55回生にちらっと喋った板書を卒業生某くんがTwitterに投げたら2000くらいファボがついたやつ(私のTLにも回って来ました)を、2年越しでアレンジしてみました。

 「大学生不可集」
 ①太るな
 ②喫煙するな
 ③大学休むな
 ④留年するな
 ⑤身体に傷を入れるな
 ⑥友人に借金するな
 ⑦合格体験記で盛るな
 ⑧東京五輪のボランティア強制に屈するな
 この「不可集」に共通しているのは(⑦は別ですけれども)フットワーク軽く自由に動くことの制約になるようなことをするな、ということでしょうか。③の「大学休むな」は「講義休むな」とは違います。サークルだけ、散歩だけ、寄っただけ、でもいいから一日一回キャンパスの空気を吸って下さいという意味です。それだけで全然違うから。私は、①~⑧を守りつつどチャラく生きる「両義性」が大学生活を楽しく且つ有意義なものにしてくれるものと信じます。というか、①~⑧を破らないとチャラく生きられないというならそれはその人がチャラいに向いてない証拠、一義的なチャラさというのは「チャラい」と呼ばれず「ペラい」と呼ばれるべきでしょう。例えば、「未明の高田馬場駅で吐き疲れて丸まってる人間の幼虫みたいなテニサー」みたいに。

 「予備校生不可集」
 ①講義を切るな
 ②志望校を上げるな
 ③現役大学生とのやり取りをするな
 ④3月中の勉強をサボるな
 予備校生はとにかく「一義性」の勉強あるのみ。2月末の段階で志望校に通るだけの力がなかった人間が4月の予備校初日にその時より阿呆になっているなど論外なのですから先ずは④を厳守で、卒業旅行とかも本当は止めたい。目の前で親の札束に火をつけたという事実を踏まえて、プライドよりも義務感を優先する一年間を送るべきです(論理的に判るでしょうが、「プライドを捨てろ」と言っている訳ではありません)。だから講師が気にくわないとかいうチンケな理由で講義を切るのも、浪人したら志望を上げないと恥ずかしいとか勿体ないとかいう勘違いで志望を上げたりするのも、現役大学生と繋がって彼らの「チャラい」を羨ましがったり真似したりするのも、全部「ダメ」です。例えば、「勉強もせずにK塾ラウンジで公立高校出身者相手にマウント取って悦に入ってる進学校産廃」みたいに。予備校生に必要なことを一言で言えば、「分際を知れ、分際を」です。
 卒業生の半分が浪人する学校ですから、本当に必要なのはこっちの「不可集」なのかも知れません。相当嫌な書き方をしているので感情的には反感を買うかも知れませんが、先ずはこの程度の心構えは必要でしょう。勿論、こちらもきちんと勉強している人から添削を依頼されたら全部やります。

 最後の号令の後は、クラス全員で写真を撮ったり、仲良しの生徒グループと写真を撮ったり、親子と担任との3人で写真を撮ったり。名残を惜しんで連絡先を交換する生徒たちの関係はこれからもずっと続いて行きます(これがいちばんの財産です)。
 タクシーで市内某ホテルに移動して、16時~19時で保護者謝恩会。私は高3の授業をずっと担当している関係でこの謝恩会に出席する回数が多い方なのですが、今年の謝恩会は泣かせに入る演出が一切なく晴れやか一色だったのが特徴的でした。ビール瓶を手に門前市を成すお父様・お母様とご挨拶をしてはコップを干す、ご挨拶をしてはコップを干す。ここでの飲酒は最早義務、仕事。子ども同様、ここでの保護者の方々も、合否判定を控えている事実については「それは置いておいて」という態度で今日を喜んでおられるご様子でいらっしゃいました。まぁ、それについては教員も同じなんですけれども。

 19時からの教員打ち上げは昨日予約した野菜料理「B」にて。2時間ではとても足りない思い出話は打ち上げ二次会のフレンチ酒場「L」に続くのですが、私は「L」を電話予約して全員をお店の中に案内したところでドロンさせてもらいました。時間はまだ22時前で余裕だったのですが、明朝母君を病院へ迎えに行かなければならないからです。最後まで居るべきだとは思ったのですが、ここはギリギリの親孝行優先(?)で許して下さい。

 卒業、御目出度う御座います。