瘠我慢の説

 ……起きたら、布団が真っ赤になってました。擦り傷ではあったんですけれども、割と深くて血の量が多かったんですね。取り敢えず、風呂場で怪我を洗って、母君の朝食を作ってから出勤、最初に保健室の先生に応急処置をしてもらいました。少なくとも就職して以降、紙で指先を切る程度のもの以上に酷い怪我(骨折等も含めて)をしたことがなく、鼻血以外でこんなに血を出すのは初めてなので多少動揺しています(東大入試の当日朝に緊張で手が震えた結果、髭剃りで親指を切ったというのが覚えてる限り一番大きな怪我)。「この白い部分は脂肪の層で、結構傷は深いですねぇ」とか言われて「うええええぇぇぇっ」ってなりました。完治までは何週間かかかるそうです。擦り傷の部分のちょっと下がたんこぶみたいにぽっこり腫れてるのも気になります。

 左足を引きずり気味に歩かないと痛みがあるんですけれども、今日は担任団の一員(副担任)として入学式に臨席するのでみっともないところを見せる訳にはいかず、痩せ我慢の一日です。担任団でなければ式場体育館の後方に立ってぼ~んやりしてれば良くて「終わったら帰れよ」扱いなんですけれども、今日はそういう訳では行きません。終了後にも仕事が山積みです。
 その入学式(中1・高1合同)で高校新入生(外進A組)代表として「誓いの言葉」を読んだ生徒、要するに高校入試主席だった某くんのその「誓いの言葉」の文面が素晴らしかった。冒頭・末尾の古歌引用、それを絡めた本文の比喩、ともに見事の一語で、内進B~E組の生徒の何人かが「負けた!」の表情をしているのが印象的でした。こういう時に冷笑的なふりをせずに正直に「ぎゃふん」と言えるのは高感度大。切磋琢磨ですね。

 入学式終了後は(新入生A組にとってはF校生活初の)SHRで、担任5人の先生方は保護者の方々への諸連絡その他があり体育館にお残りになるので、A組40人を教室に引率するのは副担任である私の仕事です(40人は登校直後に先ず式場に入るので、クラスルームに入るのはこれが初めて)。
 戸惑い気味に歩く40人をハーメルンで5階A組まで連れて、入り口と正面黒板とに貼られた座席表をもとに出席番号順に着席させます。その頃には後続の内進組が廊下に大挙、窓にへばりついてA組の中を遠慮会釈なく覗き込んでいます。その視線もあって緊張気味の40人ですが、私が「彼らは自分が見ていると思っているんでしょうが、自分たちが見られていることには気づいてないんですね」と言ったら何人かがクスッと笑ったので、あぁ多分大丈夫だなぁ、と。
 登校初日は事務手続きに関する回収物が多く(実に8種類)、副担任として一言挨拶した後でそれらの回収を終えるまでに10分以上を要します。終える頃には、体育館での諸連絡を終えた担任英語先生(及び新入生の保護者の方々)がSHRを行う(保護者の方々はそれを見学する)ためにお出でになりました。デジカメ・スマホを構えてわが子の記録を残さんとするお父様お母様に聞こえないように「あの方々もまたご自分が見ていると思っていらっしゃるんでしょうが」と言ったらさっきより多い人数の生徒が笑ってくれました。

 さて、以降のSHRは担任先生が主役で私は脇に控えます。SHR終了後は、担任先生がお忙しく走り回る中、暇の一語の副担任として、回収物の未提出や不備をチェックする作業を。未提出は数人レベルでこれは67回生の時と一緒、内容の不備は不問でしょうね。
 67回生高1Aの時は担任でしたから、割とがっつり生徒を弄ってました。例えば書類宿題未提出なら、3年後に見事京大に現役で合格することになる文系Yくん(入学数日後)の後頭部を押さえながら「てめぇはあれか、期限内に書類を提出したら死ぬとかいう病気にでも罹ってんのかそれとも宿題提出が禁忌みたいな宗教でも信仰してんのかあぁん?」とかやってました(雰囲気は察してね。硬派Fくんですら俯いて笑ってるような空気ですから、と言い訳)。保護者の我が子大好きっぷりについてもこっそり弄る、例えば卒業式後のSHR。生徒一同と担任と、42人が教壇に上がって集合写真記念撮影……のカメラマンの多いこと多いこと、そこまで? と問いたくなる数のお父様お母様が教壇の対面(教室後方)に大集合して一斉にスマホを掲げる、「その姿を逆にこっちから写そう」と隣のSくん(今は東大新入生)に命じて写メらせました。スマホ掲げた保護者集合写真、面白かったですよ。全員の顔がスマホで隠れているから肖像権も侵害しませんし。
 ……とかいうふざけた真似は、副担任では出来ませんから。一歩も二歩も三歩も下がって、A組英語先生・B組国語先生・C組物理先生・D組化学先生・E組数学先生、及び学年主任体育先生・副担任地理先生・副担任公民先生、に後ろからついていく所存。

 夜は近所の居酒屋「A」で読書独酌。酒で油断して怪我をした身ながら、ここで禁酒断酒など言い出すなら「日常性の維持」を返上しなければなりませんから。心持ち飲む量が控えめだったのは、反省からではなく明日の仕事が(行事臨席・課題テスト採点を中心に)怒濤の分量になることを見越した体力を考慮してというのが理由です、って私は誰に何を強弁したいのでしょうか。

 いとうせいこう『今夜、笑いの数を数えましょう』読了、★★。正直、あんまり乗れなかった。