黙って俺についてこい

 6時前に学校入り、したら流石に今日は学校祭(F校会場)本番ということで、生徒指導部長・高3生徒指導部先生が既に出勤なさっており。生徒も、7時を待たずに続々と登校して食品バザーの準備(飾りつけや料理の下拵え等々)。毎日この時間に登校して朝の勉強でもやってりゃ、確実に第一志望に通ると思うんですけれども。
 私の監督店舗は2つで、元高1A組有志による「鶏やき林檎」はカオマンガイと焼きフルーツとを出すお店、内進有志による「陽菓子屋」はパンケーキとチョコパイとを出すお店。後者は下拵えに手間取らないので早朝登校(出勤?)の必要はないようですが、前者の準備は大変。果物やら鶏肉やら切らないといけない食材が大量です。地学室に部隊を送り込んで、一致団結の店員……の「人数が多過ぎない? 何人居るの?」との元担任の問いに店長答えて曰く「20人くらいですね。あっちもそれくらい居ますよ」

 「あっち」というのは、バザーPによる事前試食会で見事1位に輝いた「わふわふワッフル」というお店で、ワッフルと白玉とを売る中庭店舗なんですが、こちらも先の「鶏やき林檎」と同じく店員は全て元高1A組の方々で……「ここも人数が多いよね。何人居るの?」との元担任の問いに店長答えて曰く「20人くらい?」
 51人のメンバーがいて40人超がバザーの店員。知ってはいましたけど、どんだけお祭りが好きなんだよあんたらは。でもって、こっちのワッフル屋さん、店員が着ているユニフォームがかなりおかしなことになっています。旧担任(儂)の顔写真が胸の部分にデザインされた黒いTシャツ、彼らは「劣リーマンTシャツ」と呼んでいますが私は「私の遺影Tシャツ」と呼んでいるそれ(高1AクラスTシャツ)を全員がお召しになってまして、
 私「去年のTシャツ着てまで旧担任を辱めますかね普通」
 店「だって、ユニフォーム統一しようと思ったらこれしかなくて」
 私「きみら、もう新しいクラスに分かれたんでしょ? 腕の部分におもっくそ『A』って書いてんじゃん」
 店「ダメですかね」
 私「もう全員で、『あ~くしたち、内進組の方々と交わる気は一切ござんせ~ん』って主張してるようなもんじゃないか」

 さて、本日の私は私服出勤(ジーパンの上に生徒が作った学園祭Tシャツという、少なくないお生徒さんたちと同じ格好)で、これが久々に許されるのは「体験授業」がないから。授業がある場合はジャケット必須ですので。
 さて、朝5時の下準備から閉店まで高1Aのクラスバザーに張り付く必要があった上に「体験授業」も抱えていた去年と異なり、今年の私はな~んの仕事もない(終了後の備品移動の監督のみ)。で、ということは、一日中校内をぶらついて、色んな食品バザーをひやかしたり、お客さんとして遊びに来る卒業生と駄弁ったりしてりゃいいという話で。

 ……9時から校内ぐるぐる、色々な食品をもぎゅもぎゅ、というのを昼過ぎまで。カオマンガイは「熱帯研究会」の研修で本場のものを食べたばかりという63回生九医Kくんが「あ、これ、カオマンガイですね」と認めてくれましたし(準備していた炊飯器が故障して大変だったみたいですけれども)、ワッフルの方は高1A時代のお菓子番長某くんがお母さま直伝の完璧なレシピ(つなぎに使う豆腐やらタピオカ粉やら三温糖やらと細かい細かい)で味は抜群だったし、とお腹は満たされたんですけれども。
 私「……満たされてるっつか、もう胃もたれのレベルなんだけど、私は大変機嫌が悪いわけですよ」
 K「何でですか?」
 私「私ですね、朝食べない昼食べない夜飲む、というサイクルで人生を歩いてきてまして」
 K「ほう」
 私「ということは、何か食ってる時には必ず酒飲んでるわけですよ」
 K「はい」
 私「酒も飲まずに満腹になるとかいうように設計されてないわけよ私の身体は」
 K「アル中?」
 私「じゃねーよ。朝昼飲みたい訳じゃないし」
 K「あ、そうか」
 私「ただね、物食った以上は飲みたいわけ。今日、暇?」
 K「はい」
 私「じゃあ、学園祭終わったら飲みに行くから、校内で適当に時間潰しといて」

 Kくんと一緒に遊びに来た63回生K’くんは、九大理学部で総代に選ばれた「大物」なんですが、何と来年度に理科の教育実習に来るという話、職員室の生物先生2人が「マジかっ!?」「お前がっ!?」と相当失礼な驚き方をなさっております。
 K’「ちょっとちょっと、池ノ都先生、この明らかな迷惑顔、失礼だと思いません?」
 私「まぁ、高校時代のきみしか知らない先生方の反応としては、むべなるかな感が半端ないわけでして」
 K’「あ~、味方がおらんわぁ。あのね、僕、大学に入って人間が変わったんですよ?」
 私「違うでしょう? あなたは何一つ変わってないのに、周りの目が変わったんでしょう? 具体的に言えば、F校に居る時は周りが全部F校生だったけれども、九大に行ったらF校生が相対的にレアになって、F校出身というだけで周りの人たちの見る目が変わって、人品を確認する間もなく総代に推挙されたみたいな感じなんでしょう?」
 K’「味方がおらんなぁ! 実習来るのが楽しみだわ!」
 私も、お迎えするのが楽しみ。高2高3で同じクラスだった63回生東大数学科のMくんも同じ時期に実習にいらっしゃいます。こっちは「ど」が付く優等生だったんですけれども、K’くん済ました顔で「俺、こないだMを麻雀でギタギタにしましたからね」ですって。確かに、K’くん、麻雀とかメチャメチャ強そう。

 さて、次のお客さん方は64回生ご一行。数学担当だった同窓同僚数学、職場結婚の体育先生のご懐妊のニュースを聞いて、今日が冷やかすチャンスと大挙だったのですが。
 私「残念、同僚数学くん、今日は体調不良でお休み」
 64「マジっすか!? 折角『やることやっとんの~』って言おうと思ってたのに!」
 私「それ言われるのが嫌で仮病使ってたりしてね。えっと、奥様の方は学校にいらっしゃるから、ご挨拶はできるかもね」
 64「そっか、おめでとうって伝えなきゃ!」
 私「『やることやっとんの~』じゃなくて?」
 64「言える訳ないでしょうがっ!」
 この祝婚カップルのせいで、独身の理由を仕事に押し付けられなくなって困ってるんです、まったく!

 さて、祭りは恙無く終了、備品移動(教室原状復帰)やらSHRやらを終えた時点で時間は15時半、躊躇わずさっきのKくんに電話して「直ぐに飲みに行くぞ!」
 K市内でアイドルタイムが無い飲み屋といえば、もちろんブルーカラーとお爺ちゃんとの憩いの場「S」。16時入店、つまみは殆ど頼まずにまずは生で乾杯!
 Kくんと飲むのは初めて、なんですけれども高1で担任やったし、進路選択でも色々あったし、入ってからも前述「熱帯研究会」とか面白い活動やってるみたいだし、で話を聞くのが楽しみだった卒業生の1人でした(し、実際話が面白かった)。

 17時に「河岸を変えるぞ!」と先導の元担任が連れて行った先は、お気に入りの小料理屋「A」。ここ、日曜日は17時から開店しているんです(普段は19時)。上品な小鉢で出されるお料理はどれもこれも絶品なので、今日みたいな胃もたれの日でも大丈夫なのね。で、店に向かう道すがら。
 私「ただ、問題点が一つあって」
 K「何ですか?」
 私「店、明日の会場になってる市民プラザの直ぐ横にあんの」
 K「へぇ」
 私「今、その市民プラザ、高3と担当教員で絶賛リハーサル中だと思うから、こんなど酔っぱで会うと気まずいよねぇ」
 K「って言いながら、思いっきり入り口前広場横切ってますよね、あ、ほんとだ、生徒いっぱい居る」
 私「飲んでるなんておくびにも出さずに普通に働いてま~す、って感じで挨拶すれば遠くからだしばれないから……あっ、××先生、お疲れ~っす!」

 「A」のママさんからは、「最低な先生じゃないの」とからかわれました。最高の2次会でした。Kくん、何の益もないオッサンからの誘いに対して、「行く理由がないから断る」じゃなくて「行かない理由がないから行く」という選択をする辺り、かなり魅力的な性格だし、得することも多いんじゃないかな、と推察。