思い出す 夏の日

 久々に8人2卓の麻雀は7時前に終わり、ホテルに戻って仮眠、を9時の電話で起こされる。九州にいらっしゃる生徒某氏から。
池「おはようござます。なんでしょ?」
某「……あの……、夏休み中に受けに行く外部模試の受験票を、寮に忘れて……」
池「あ~、はいはい。趣味みたいに財布を落としたりなくしたりするユーの例のあれですね。私は今東京ですので、進路指導室や予備校に問い合わせてみますね。後々の電話をお待ち下さい」
 因みに、その後8日に某に電話して。
池「どうも遅くなりまして。先日の受験票の件ですが」
某「はい」
池「再発行してもらいました。試験開始30分前までに会場の予備校に行って、受付でF高の生徒証明書を見せて受験票を受け取って下さい」
某「……あの、生徒証明書……この間落としてなくした財布の中に……」
池「うわぁ」
 「徹底」を「撤底」って書き間違えそうなくらい底が抜けてていっそ頼もしいな。

 シャワーを浴びた後、ノープランでホテルを飛び出し、気の向くまま電車を乗り継ぎ浅草駅で降りる。5年間東京で大学生活を送っといてなんですけれども、人生初浅草。「こち亀」は全巻読んでるけど全く知らない町に、気まぐれで立ち寄ってみました雷門外人多し。
 仲見世の作りと店員とそれを珍しそうに覗き込む外国人観光客が「ぴったんこカンカン」で観た通りだ~、みたいなこういう「確認観光」がお好きじゃないので私は名所に行かないんですけれども、さりとて穴場珍品私だけが知っている的なものに対しても「そこまで」感を拭いがたい人間ですので要するに外歩きに向かない。今回の浅草も汗だくでさんざっぱら歩いていちばん感動したのが「マルベル堂」で見た研ナオコのプロマイドです。

 電車で神保町に移動して、こっちは古本街逍遥渉猟で趣味も実益もアモルフな状態。この店は岩波新書、この店は講談社教養文庫、この店は教養文庫、この店は……と絶版新書・文庫を中心に二十数冊を漁る。この後巣鴨まで歩くつもりなので嵩張らないように抑えて。で、そうですよ、巣鴨まで歩きましたよ。神保町からお茶の水から本郷三丁目から東大の正門、から以前住んでた巣鴨(というか千石)のビルがあるところまでず~~~~~~~っと歩く。一時間とかいうレベルじゃなく歩く。お前は暇か、と問われたら満面の笑みで首肯。
 何をしに東京に来てるって暇を感じに来ている訳ですから。就職生活(即ちK市での日常)はこれ全て暇潰し、暇の定義は「生命維持即ち食う寝る以外の時間」であってその全てを与えられるお金と交換しますっていうのが「就職」の定義ですから(個人的かつこれを書いてる今のノリにおける意見です)、K市で過ごしててちょっとでも暇があったら教科に関する作業に充てます。けれども東京! 東京に来ている間は、暇を潰さなくていいんですよ。潰そうにも仕事道具が手元にないから。この環境をね、往復新幹線とホテル代とで8万とか払って買ってる、って言っても過言じゃないくらい。なんて贅沢な命の洗濯なんでしょう(っつっても、神保町で買った本は全部仕事に使えるんですけど)。

 千石駅を通り過ぎて巣鴨、のとげ抜き地蔵へ。ここの古奈屋には(お懐かしやみつえお姉様にお教えいただいて以降)よく通いました。行列に並んでたら、隣の韓国料理屋のおばちゃんが「ウチの方が良いよ~、そっちは高いだけで大したことないよ~」って人気店を露骨にディスりながら客引きしてましたっけ。さて、とげ抜き地蔵からは路線バスに乗ってそのまま池袋。このルートは初めてで、窓の外の街風景を眺めながら。
 ホテルに荷物を置いて、シャワー。着替えて向かう先は池袋西口、居酒屋「八丈島」。

 58回生Tくんとさし飲み。「八丈島」の名物(?)を戴きながら、ご就職決定ですかそれは御目出度う御座いますっていうか大企業やなとか、剣道の調子は如何ですかというかあらあらF校の××先生とは剣道繋がりでお友達でいらっしゃったんですか、とか色々近況を伺う。
 歩き疲れ飲み疲れで、Tくんを夜の池袋に置いたまま(呼ばれてやって来た3人目に押しつけて)お先生はホテルに帰還、健康睡眠。