別るる後にも やよ 忘るな

 「池ノ都」などという珍名だとそういうこともあるのかも知れませんが、西小倉小学校1・2・5・6年生の時に私の担任をお務めだったN先生が、母君の義兄(伯父も池ノ都姓です)が運転するタクシーに偶然お乗りになったというご縁で、伯母を介して、私に先生のご住所と電話番号とが伝えられました。
 小5の時、クラス全員が1枚ずつの紙に先生のお顔とメッセージとを書いて、それらを製本したもの(拙い手作りでしたが)をお誕生日のプレゼントにした記憶があります。その時が50歳でいらしたので、今は82~83歳というところでしょうか。電話は流石に不躾ですので先ずはお手紙ですかね。先生は漢字にお詳しくて非常に達筆でいらした(小学生時代の通信簿「あゆみ」を取り出して確認しました)ので、下手による文字をお届けする失礼は気が引けますが……。

 本日は職員研修会が9時から。未明から書斎で仕事をして、学校にはタクシーで8時50分ギリギリの到着です。本来、職員研修会は9~11時に前半、13~15時に後半、という2部構成(つまり2日間で4部構成)というのが基本なのですが、今年度は本日初日が土曜なので研修会は前半のみ(つまり、土・月2日間の3部構成)。第1部のテーマは「ICT」で、となれば私には殆ど興味のない話になるのですが、それでも他の先生方がどのような仕事をなさっているのかというのを知るのは益のない話ではないので、内職その他をせずにご担当の英語先生の発表を粛々と聞いていました。

 最近、定期テストや校内模試の採点をPC上で行っている先生が散見されており、一体何をやっておられるんだろうと不思議に思っていたのですが、「デジ楽採点」というシステムがあるのだそうです。専門の用紙を解答用紙にすれば、設問ごとの全生徒の答えが画面に一覧として表示され、設問ごとに得点を設定してマル・バツ・サンカクをつけていけば、瞬時に集計までやってくれる、のだそう。
 AIが生徒それぞれの文字を全て判定して、記号式・単答式・記述式全てを完全自動で採点してくれる……とかいう夢のような機械だったら良いなぁなんて阿呆なことを考えていたんですが、結局人間の手で1題ずつマル・バツ・サンカクをつけていくということなのね。だったら、正直私の場合はペーパーに赤ペンでマル・バツをつけていった方が早いな、と。
 実際、高3の授業では、解答数が10題ちょっとのセンター評論・小説(1題50点満点)は、毎回数字を書かせた解答用紙を全員回収して手でマル・バツ採点です。マル・バツをつけて、得点を計算して、名簿に点数を転記する、という一連の作業は、1クラス40人なら5分程度で終わりますから5クラスでも30分弱。わざわざ値段の高いマークシート用紙を使って機械採点をするまでもありません。1題ずつの得点データが瞬時に判るという点だけは魅力かも知れませんが、それもペーパーで採点している時に生徒個人・クラスの好調不調が「触覚」で判るあの感覚と引き換えにすべきものかどうかは怪しいですし(まぁ、新しいものへの挑戦に臆してるだけ、って言われりゃその通りなんですけど)。

 昼食は後輩数学先生の車で人気うどん店「T」へ。明太ぶっかけ蕎麦。学校に戻って午後は国語科の会議がありました。

 本日は18時30分から市内の焼鳥「Y」で卒業生飲み会。67回生Fくん(一橋4年)、Tくん(山医4年)、Nくん(情報系企業で社会人)、という卒業生3人と学年主任地理先生との飲み会に、地理先生のご厚意で私が後から交ぜていただいた格好。幹事はNくんだそうです。
 16時過ぎに西鉄まで出て、文具も売っている書店で便箋・封筒のセットを購入。小学生時代の恩師・N先生へのお手紙を、西鉄近くの老舗喫茶店「M」の珈琲を飲みながら書くことにしました。便箋の手紙など書く機会は滅多にない私に、30年のご無沙汰をお詫びしつつ小学校卒業後の来歴をまとめて最後は先生へのお礼に着地するという文面を書く、などという芸当が出来ますかしら……と、自信がないくせに便箋の「白」には下書き一切無しで対峙する猪突の国語教師。小学校時代、色々な言葉・漢字を教えて下さったN先生(小学校ですので全教科ご担当でしたが、私の中では「国語の先生」という記憶)ですから、知ってる語彙は取捨選択せずに使ってよいという点だけは助かりました。途中で1字間違えたら便箋1枚が丸ごと反故になるという(TV黎明期のドラマ・アニメCV収録みたいな)緊張感の中で、書いては丸め書いては丸めしながら、1杯目はアイスコーヒー、2杯目はホットと注文を続けて。18時の閉店ギリギリまで90分超粘ったところ、便箋4枚を書き終えて手紙の着地点も見えました(5枚目の最後の行まで使いそうです)。残り1枚は明日の私に委ねて喫茶店を出て、徒歩で向かえば目的の焼鳥「Y」には開始時刻の15分前には着きます。乾杯直後の机につまみがあった方が良いから、取り合えずサラダと赤鶏のタタキだけ注文しとけば良いよね、とか計算しながら到着した「Y」……

 ……の店員さんに、いきなり「18時半からN様で5名? ありませんねぇ」と突き放される(私、結構な常連なんですけど)。あれ、今夜の幹事ってNくんでしたよねぇ、だったら普通名前はNだよねぇ、と戸惑いつつ、若しかして他の参加者の名前かと思いFくん、Tくん、地理先生のお名前まで出して全滅した段階でとりあえず一度店の外に出ました。丁度そこへ地理先生が到着なさったので事情をお話しし、先生も事態がつかめないと仰るので直接Nくんに電話を掛けました、ら。
 私「ねぇ、Nくん、今日、誰の名前で予約入れてるの?」
 N「えっ、Aですけど」
 私「は? A? 誰よそれ?」
 N「今日、A(67回生)も来たがってたんですけど都合で来られなかったから、せめて名前だけでもと思/」
 私「だったらそれを予め参加者に伝えとけやどポンコツがっ!!」
 本当はもっと下品なスラングが口から出そうだったのですが、店頭・往来だったので咄嗟の我慢。この瞬間の私が、手に小学校時代の恩師へお届けしたいお手紙を提げていたというのも自制がきいた理由なのかも知れません。仰げば尊し、わが師の恩。

 私が叫んだ電話の向こうでわっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ……と大笑いだったコミュ障Nくん、誰が育てたらこんなポンコツになるんだ高3の担任は誰だよ、と一瞬思いましたけれどそれは考えるまでもなく私(B組)で、となれば私じゃない進学した大学が悪い就職した企業が悪い、と責任を転嫁しつつの乾杯です。でもって、何だかんだで私は後から合流の脇役ポジなので、注文の補佐や会話の相槌に徹して120分を過ごしました。
 2軒目は私が幹事。電話をしたところ1軒目の焼鳥「Y」から歩いて10分のブルワリー「T」のテーブルに空きがあったので、軽めのスナックと注ぎたてクラフトビールとでお話の続き。最後は終電に間に合うようタクシーを手配して、私以外の4人がタクシーで(市内の地理先生ご自宅経由で残り3人を西鉄K駅に送る手はずで)帰還、私は40分程度を歩いて自宅まで。

 汗をかいたのでシャワーを浴びてから健康的に入眠……していた裏で、卒業生23歳3人が結局終電を逃していたという事実を後で地理先生から知らされました。