ここは遙かな砂の惑星

 上京旅行は埋めなくてもよい暇を味わうのが目的、ということで夕方までの予定も前日に決定しました(夕方からは矢野顕子さんビルボード、と61回生飲み会)。
 その前に、池袋の新文芸坐で「新藤兼人平和映画祭」、その後は渋谷アップリンクで「ホドロフスキーのDUNE」と映画三昧で行くことに。前者は行きの新幹線内の電光ニューステロップで知り、後者はまっぴぃ・オツカル様の絶賛を聞いて。

 先ずは「新藤兼人映画祭」。戦中生まれがほとんど、は言い過ぎながら客層は高め。もうすぐ34歳の私より若く見える人は、300弱の観客(満員御礼)の中に数えるほどしかいません。聞けばこの映画祭、年若い一人の女性が立案企画なさり数えるに3回目だそう。手作りのイベントらしくマイクの不調や時間不足など諸々の綻びはありましたが、上映された2本の映画はよかったし(新藤兼人監督「原爆の子」、石田優子監督「はだしのゲンが見たヒロシマ」)、菅原文太からの激励メッセージも力強いものでした。というか、時間不足の原因は、森達也加藤登紀子他による60分の「シンポジウム」でお登紀さんが一人で40分喋り倒した挙げ句仕事を理由にさっさと降壇したということに尽きるんですが。力の入ったスピーチで内容は深かったのですが、夢中になりすぎて森氏はちょっと怒っておられたし司会者(企画者)は戸惑っておられたし。

 続いて、渋谷「ホドロフスキーのDUNE」。先ずはアップリンクという映画館の形態に驚き。40席くらいしかないんですね。ソファ席だったり椅子席だったり座席の形もバラバラ。大きさ的には金持ちの家のルームシアターって感じで、よく知りませんが多分椅子とかスクリーンとかどけたらイベント・パーティースペースに使える、ってことなのかな。映画は、アレハンドロ・ホドロフスキー監督1975年の未完のSF大作『DUNE』の企画立案からお蔵入りまでの顛末を描くドキュメンタリー。ダリ、ミック・ジャガーオーソン・ウェルズピンク・フロイド……等々の出演者を監督のカリスマと情熱(っていうか狂気)で集める(っていうか巻き込んでいく)王道RPG的展開と、間違いなく後世SF映画に影響を与えたと分かるストーリーボード・デザイン画・絵コンテ(ギーガー!)の魅力(っていうか気持ち悪さ)、そして何よりホドロフスキー監督自身の彼岸っぷりに、90分魅入ってしまいましたよ。私、「スターウォーズ」も「2001年宇宙の旅」も観たことがないほどSFからは遠い人間なのに。後日、池ノ都「ホドロフスキーが原作をレイプするって連呼してたのが面白かったね。レイピン! レイピン!」 オツカル「デビット・リンチ版の『DUNE』が愚作だったというのをすごい嬉しそうに語る顔もよかったね」

 渋谷から徒歩で(っつっても結構遠いんですが)ビルボード東京、矢野顕子トリオ(WILL LEE & CHRIS PARKER)のライブ。ピアノ近くの座席を予約して、特等席から鑑賞です。
 ①ごはんとおかず ②YES-YES-YES ③Never Give Up on You ④ISE-TAN-TAN ⑤Just the Two of Us ⑥All The Bones Are White ⑦ラーメンたべたい ⑧飛ばしていくよ ⑨Long Distance Love ⑩在広東少年
 矢野顕子ボーカロイドにした傑作打ち込みアルバム「飛ばしていくよ」からの曲がほとんどで、セットリストとしては地味(というか意外性がないもの)ですが、演奏は素晴らしかった。矢野さんの声は可愛い、ですけれども喉は相当に野太い。何度も言ってますが、あの「エロかっこいい」というフレーズは(言葉自体は矢野さんに似合いませんが)この人の音楽と声とを指す言葉なのだとと思う。
 ①をピアノとキーボードとを同時に弾きつつ歌唱する姿を観て、ファンになった頃に「ミュージック・フェア」で観た時の感動を思い出す。小田和正の曲は嫌いだけれども矢野顕子が歌えば別(②)だし、途中で歌唱とバックの演奏がずれるミスに矢野さんが歌いながら「どうやって終わらせよう?」と焦り顔だった⑩のラストがアドリブで見事に決まったのも格好良かったし。これは来年も上京に絡めて絶対に観に行く。

 ブルーノートのライブ鑑賞ですがお酒はなしにして、渋谷で21時に待ち合わせの卒業生(61回生)2人と「漁十八番」(屋号あやふや)で飲む。
 東大文系浪人中に現代文の添削をした返礼に酒を奢れと呼び出しては全額払うという天丼を続け、この先ちっちゃい仕事を依頼する時に断れない雰囲気を作るという流れ。とりあえず、来年2月に我らが63回生が東大受験をするときの文系駒場会場下見の案内はきみらにやらせる、とか。