人間は犬に食われるほど自由だ

 「人間は犬に食われるほど自由だ」とは、藤原新也メメント・モリ』(写真集・詩集)の一節で、かつてどこかで国語科恩師先生が絶賛しておられた記憶があります。しかし、私はその境地には届かない、何しろこの一節がどうしても詩ではなくキャッチーなコピーにしか見えない。換言すれば、無人称一般に対して語られた言葉としてふむふむ面白いと頷くことは出来ても、私という一人称に差し迫った事実を語ったものとして身にしみて感じられる訳ではない。この本では、写真の中の人間よりも、息を呑むほど美しい自然の風景の方に身体が惹かれてしまうんですね。読み返し読み返ししているうちに、いつかこの言葉がコピーではなく詩だと思える日は来るのでしょうか。藤原新也メメント・モリ』読了、★★★★。

 午前中は職員会議。
 お昼、後期で某大医学部に合格した高3女子(才女)が職員室を訊ねてこられたのでご挨拶。面白かったのが、個人面接20分間の、
 女「後半10分はクイズの話でした」
 私「履歴書に『クイズ研究部』と書く欄があったの?」
 女「はい。面接官の方が興味を持たれて、得意ジャンルを聞かれたのでお菓子って答えて」
 私「お菓子」
 女「そうしたら例題を出せって言われて、パウンドケーキの問題があるじゃないですか(注:バター砂糖卵小麦粉を1パウンドずつ使うのでパウンドケーキ)。あれを出したら、そんな世界があるとは面白い、って喜んで下さって」
 私「合格~、って」
 女「私、今日ほどクイズ研究部に入って良かったと思ったことはありません」
 私は、緊張の面接で得意ジャンル聞かれて「お菓子です」って返したその瞬発力に才を見ますが。
 私「住む場所は決まったんですか?(←敬語)」
 女「大学から数分の所に寮があるんですけれども、窓を開けたら一面の墓地でちょっと迷ってます」
 私「医者ならメメント・モリ?」
 女「心がけますが、毎日お墓はいやです」
 私「大体、大学直近で広大な墓地って、医学部棟というか病院から見えたりしないの?」
 女「そこなんです。見えないように工夫して立てられていました」
 この返事は実際に歩いてみたってことかな。返答といい行動といい賢すぎです。
 寮を躊躇う理由には本を置けないスペースの狭さもあるという読書好きの彼女には、林達夫『歴史の暮方』をプレゼント。

 終業後、快速列車で博多へ出て、F校を退官なさった超ベテラン柔道先生と「太郎源」で飲み会。待ち合わせに向かう駅構内である先生から電話で25日の飲み会に誘われ諾、これで本日23日~30日までの8日間は連投で飲み会が入ってしまいました。3月中に「もりき」に行くのは昨日が最後だったんですね。明日辺り電話でご挨拶しとこ。

 「太郎源」には約束の10分前に入店。カウンターの端に腰掛け、先ずは作るのに時間がかかる佐賀牛ステーキのサラダを先に注文。定刻にいらっしゃった柔道先生とビール2杯と柔道先生お気に入りのゴマサバとを注文してから乾杯。突き出しのタコ酢から美味しい。
 柔道先生は、63回生が中3の時に私が突然担任として配属されたBクラスで副担任(というか実質的な担任)を務めて下さいました。初対面の(ちょっと難しい)生徒たちとどう接すれば良いか分からずおたおたしている私を助け導いて下さった恩義は生涯のもので、63回生の卒業を見届けることなく御退官を迎えられた先生に定期的に彼らの様子(進学)を報告するのは私の務めです。
 「お二人はお知り合いだったのですか」と大将に驚かれた私たち二人ですが、私は年に数度、柔道先生は「連れ合いと毎月のように」通っておられる常連です。元々は、63回生が中3修学旅行から帰って解散した後、私が是非にとお連れして気に入っていただいたのが最初で、今では柔道先生の方が足繁く。先生お気に入りのマグロのカマ焼きは、人気メニューにつき予約の時点で取り置きをお願いしておりました。
 話題は、63回生の話、最近のF校の話、そして、「カウンターのこの場所にいつも連れ合いと座るんですよ」と入店してから何度も何度も口に出された「連れ合い」の方との日々のお話。滅多に外では呑まないと仰るのですが、日本酒が強いのは現役当時と全然変わらず……。

 ……タコ酢、佐賀牛ステーキサラダ、ゴマサバ、寄せ豆腐、以上一人前。鮪カマ焼き、牛タンステーキ、白菜漬け、以上二人前。瓶ビール3本、日本酒一升。それを二人でシェア、したらそら激太りもするやろ。電車とタクシーとを乗り継いで帰宅、即就寝の前に自宅の体重計に乗って絶叫しましたよ。
 でも、幸せな夜でした。