そして孤独を 包み込むように

 本日から1泊2日で山口は長門湯本温泉に旅行。
 いつの間にこんなに温泉が好きな人間になったんでしょう。東京以外の旅行には全く興味が無かった私です(東京行きも、買い物と飲み会と展覧会とだけが目的でした)が、年1回の(入試業務最終日の)超ベテラン体育先生とのドライブ1泊2日(温泉とご当地名物料理とを堪能)を10年続ける内に近場の温泉旅行に身体が馴染んで行き、コロナ禍で東京に行けなくなったのの反動でそこかしこを跳び回るようになりました。

 7時台にK市を出発する新幹線、博多で乗り換えて更に1時間で新山口駅(追い越しの待ち合わせなど、駅に停車している時間が長い新幹線でした)。台風のニュースは聞いていましたが、果たして新山口駅での白板連絡で、在来線が全てストップしている(昼過ぎに解除)ことを知りました。曇天ながら雨も風も無かったので意外。
 ただ、私は偶然にも新山口から長門湯本温泉までを電車移動ではなく乗り合いタクシー移動と決め事前に予約しておいたので全く問題は無く。助手席含め8人が乗れるワゴン車は、新山口駅から1時間程で長門湯本温泉の駐車場に到着します。揺れも無く快適。乗り合った乗客は地元の女性(人生のベテラン)お一人で、かかった料金は片道2000円です。

 杖立温泉と同じく、この長門湯本温泉も街の中央を川(音信川、おとずれがわ)が流れていて、その両側に建物が並ぶという構造(杖立ほどの細路地蜘蛛の巣迷路ではありませんが)。
 先ずは、街の中央部にある立ち寄り湯「恩湯(おんとう)」へ。昨春改修再オープンされたという木造平屋造り(全面ガラス張り)のお洒落な建物、入湯料は800円で、タオルとバスタオルとはオリジナルの物を買い取り。10時半の時点で男湯貸切でした。住吉神社と一体化した浴室、深さ1mの浴槽には39℃弱のぬるめのお湯が源泉掛け流し、浴槽に立ち湯(?)すれば、岩盤から源泉が湧き出している様を眺めることが出来るのです(住吉大明神を祀る社を兼ねている場所なので注連縄で囲われています)。これは魅力的、とろりんとしたお湯の中につい長居を。入浴後の休憩スペースも広々として快適(250円のラムネを飲みました)。

 入浴中から、断続的に雨が降り始めました。以降、基本的に傘をさしての移動になります。
 11時。お昼は瓦蕎麦の店「柳屋」。入店時に検温、住所連絡先その他を記入。瓦蕎麦1人前、セットの米はつけず、代わりに地ビールを1本(何せ、酒類提供禁止の福岡を見限ってやって来たんですから)。
 12時。郊外の深川に萩焼の窯元が5軒。その中で、唯一窯のホームページを持っていた「田原陶兵衛工房」へ。日本庭園、工房と直売所。十三代目・田原陶兵衛氏の作品は値段の桁が一つ違っていてとてもとても手が出ませんでしたが、売り場担当の奥様のご案内で、工房の職人さんの作品(いちばん安い)、及び十三代目の息子さん(田原崇雄さん。将来の十四代目?)の作品(そこそこ高い)を幾つか購入。豆皿、八寸用の料理も置ける御猪口他、自分用と事務嬢さんへのお土産用。崇雄さんの手による御猪口(一目惚れ)は専用の桐箱に入って6000円でした。そうしたら、工房にいらした崇雄さんにもお目にかかれた上に、十三代目自らが登窯を案内して下さるという僥倖にも。焼き方の詳しい説明を伺いながら、写真をばしゃばしゃ撮りました。
 到着後僅か2時間程度で、既に来た甲斐を感じまくりです。

 13時過ぎに、宿泊の予約をしていた「原田屋旅館」へ。チェックインは15時なのでまだですが、手荷物や購入品が多く雨も降っていたので、フロントで預かってもらえるようお願いしました(部屋まで運んで下さいました)。明治創業の「ザ・旅館」! という感じの施設で、入口に「××様ご一行」の手書きボード。「池ノ都様」も勿論書かれていて、どうやら本日の宿泊客は4組の様子。

 旅館から15分ほど歩いて、街外れの大寧寺へ。大内氏滅亡の地として知られる曹洞宗の古刹は庭園がとにかく立派。雨の中、大内氏・家臣の墓や、山口三大奇矯の一つ「岩盤橋」(江戸期、石を積み上げて作っただけの橋で、雨もあって渡るのがかなり怖いです)などを観ながら1時間のそぞろ歩き。
 稲荷もあり、こちらではお詣りの後で合格祈願の鉛筆(五角形なのは「あるある」ですね)や、同窓同僚数学へのお土産(お嬢様お二人への「女の子御守」)を購入。敷地内のおキツネ様はみなマスクをしていて可愛かったですが、吊り目が布マスクというのはどうしても『変態仮面』を連想してしまいます。

 14時、お土産ショップ「おとずれ堂」で買い物をしたら、併設のギャラリーで「次世代の陶」と題された小さな展示会が。萩焼の窯元の、40歳前後の「次世代」が5人集まって活動をしており、中には先程訪れた工房の田原崇雄氏(私より1歳下)も。ご縁ですね。先程実際に工房を訪ねたお話をきっかけにギャラリーのご主人と話が弾み、萩焼の作品の保存の仕方(使い方・洗い方・乾かし方)のアドバイスも頂けました。先程の直売所には売られていませんでしたが、藝大彫刻出身の崇雄氏には、持ち手の部分が工具になっている変わった意匠のぐい飲み・マグカップ等があるそうです(フラグ)。

 15時、再び「恩湯」に浸かって汗(雨?)を洗い流し、15時半過ぎに宿にチェックイン。
 100年レベルの老舗旅館、ロビーのマッサージ器(古い!)やジュークボックス(70年代!)を見るだけでその年季が分かります。アメニティは僅かに歯ブラシのみで部屋には冷蔵庫もなく(ロビーに共用のものがあり)、隣の部屋の話し声がうっすらと聞こえるような壁(TVを点けるのも憚られますが元よりそのつもりはありませんので無問題)。冷房は確りきいてて、トイレは洋式・ウォシュレット付きの最新型でした。この、畳6畳の居心地が良い。風呂場は古さを感じさせる待場の温泉感(「恩湯」のモダンさとの対比!)でしたが、お湯はぬるめのとろっとろ。後述の食事は、豪華ながら家庭的で文句なしです(夕食・朝食とも)。

 夕方、食事前に旅館をふらりと出て(雨は上がっています)、地元の未踏破の蔵のお酒を買うべく近所の酒屋に行った帰り、道すがらのカフェ「音」に何となく立ち寄ったら、陶器の販売ギャラリーが併設されていてまたまた田原崇雄さんの作品群と出会う。これはもう、御縁以外の何物でも。
 自家製の(相当生姜のきいた)ジンジャーエールが出来上がるのを待っている間に展示を見て、先程「おとずれ堂」で聞いたばかりの持ち手が工具になっているぐい飲みが目に飛び込んできた瞬間、値段を見ずに購入を即決しました。実際には、決めた直後に値札が視界に入って1分悩みましたが(工房で買った御猪口より高いです)、これを厄年の自分への誕生日プレゼントにすることに。

 8/9は「自粛御膳」をお休み、滞在先の長門湯本温泉「原田屋旅館」の部屋食。
 御飯・前菜3種・河豚刺・刺盛り・茶碗蒸し・茄子田楽・天麩羅・貝鍋・フルーツ。
 403蔵目・山口「山頭火」(本醸造)。
 404蔵目・山口「かほり」(純米吟醸)。

 食事と寝具とを担当して下さった仲居さんがめちゃめちゃ明るい方でした。良い感じに酔っ払ったところでお布団まで敷いて下さるのに思わず「我が世の春だ」と呟いたら大笑い。「こんなんで春だなんて、お客さんお一人様ですか?」「死にに来たわけじゃないんでご安心を」 また大笑い。一人客を泊めさせてくれる旅館、そうは多くないんですよねぇ。

 健康睡眠。