夜の蝶に捧げた 最後は Yes? No?

 午前中の書斎で仕事をしていたら、珍しく事務嬢さんの方から昼飲みのお誘いがありまして。今日は午前中で一日が終わるな、と覚悟を決めて家を出ます。1軒目は、事務嬢さんの提案で「梅の花」。この「梅の花」という提案がもう、夜までコースを示唆しているんですね。ここの店はアイドルタイムが1時間しか無く昼の営業が16時までなので、そこまで粘ったら夜の飲み屋が開くまでは1時間という計算です。

 単品にするかコースにするか少し迷います。単品だったら好きなものだけ頼める代わりに割高、ランチコースは一通りそろってお得だけれど酒には不要なものがついて来る(米・デザート)。今回は、事務嬢さんの提案で(珍しくランチのある平日の昼飲みだということもあり)コースを選択。お運びの方が最初に運んで来られるお茶をさりげなく脇へやりつつ、コースと瓶ビールとを注文します(お茶の扱いをご覧になったお運びの方が「こいつら、飲むな」と悟られたのが伝わります)。13時に乾杯。学校のこと、生活のこと、あれこれ喋りながら、2時間半はあっという間。誕生日だからということで事務嬢さんが奢って下さると仰ったので、私はアプリのポイントで3000円だけ払いました。

 やっぱり16時近くになったねぇ、と店を出て、時間つぶしは事務嬢さんの(アカペラサークルを通じた)お知り合いが開いている喫茶店「Z」、からのブティックお買い物(私は横に立ってるだけ)。
 その後、是非ご紹介したい店があると言われ、文化街にあるディープな小料理屋「T」へ案内されました。F校とは関係ない飲み仲間に紹介されたというそのお店、御年85歳の女将さんとヘルプの方と2人で8席のカウンターを回しておられます。17時から深夜まで。カウンターの前には大皿に乗った家庭料理がずらりで、それが全部食べ放題。飲み物もフリー、カラオケも歌いたい放題、それできっちり3000円だというんだから凄いシステムです。
 入店前の会話。嬢「ただし、一つクリアするべき点がありまして」 私「ほうほう、それは?」 嬢「女将さんが死ぬほど口が悪い、どんな客でも叱られ倒す!」 私「あ、僕、そういうの大得意ですから」
 女将さん、元々は杖立温泉でいちばん大きなホテルの大女将だったそうで、それを引退なさってから遠く離れたK市でお店を始められたとのこと。日本髪に着物姿、止まり木に座る時は正座、一人称は「あちき」という癖の強さです。楽しい。食べっぷりが悪かったら「食べんね馬鹿タレ!」、カラオケが途切れたら「歌わんね馬鹿タレ!」、ちょっとした言い間違いも聞き逃しません、という感じ。私は前述の通り「そういうの大得意」ですので、以前訪れた杖立温泉がどんなに楽しかったかを滔々と語り、ちょっと形が崩れたという紅ショウガ入りの卵焼き(これ、凄く美味でした)を全部平らげ、カラオケで50年以上前の曲を次々に歌い(最初は北原謙二「若い二人」だった記憶)、女将さんの昔話に「こんなの初めて(聞いた)!」と派手に相槌をうち、……帰り際には店の外に見送りにこられた女将さんから両手で腕を握られて「絶対また来なさいよ!」と。

 文化街飲み会が1軒で終わるはずもなく、再び是非ご紹介したい店がある、と事務嬢さんが歩くのにへいへいと着いていくと、スナック「S」の看板。ここって、お姉ちゃんが横について喋んないといけないお店じゃないですか。私「え、何で?」 嬢「それが、こないだ飲み屋で偶然隣同士になってめちゃくちゃ気が合ったのが、ここのママさんだったんですよ」
 足と喉(酒・カラオケ)とで築く人脈が半端ないな、と雑居ビルの階段を上りながら。事務嬢さん、そのママさんからもの凄く熱心に「うちの店でバイトして! 絶対人気が出るから!」と口説かれたそうです。入店して目が合ったママさん、第一声が「バイト?」でしたもんね。
 客が我々二人だけだったので、ママさん・チーママさんの二人はず~っと我々の横につきっぱなし。お二人とも我々よりちょっとだけ上という世代のようで、チーママさんの風貌は90年代中頃の工藤静香そのものです。でもって、我々もそうですがこのお二人が滅茶苦茶酒が強くて瓶ビールががばがば空くのね。会計が心配です(3軒目も、誕プレだと言って事務嬢さんが払って下さいました)。

 「S」を出たのは深夜。結局、10時間は遊んだことになります。
 私「静香(←チーママさん)の静香感、凄かったですね!」
 嬢「そうそう、30年くらい前の静香!」
 私「最近の静香もあれくらいの静香らしさを思い出して欲しいもんですよね」
 流石に「もう一軒!」は無理で、タクシーで帰宅。日付を跨ぐ前には就寝、というか失神でした。