そっとのぞいたら 帰りたかったの

 4連泊のホテルは朝食つきプラン。今日は昼食も予約済みなのでスルーしようかと思ったのですが、せっかくだからコーヒーだけでもと1階のレストランへ。コロナ仕様のビニール手袋付き和洋バイキング。コーヒーだけというのもあれだからサラダくらい、と葉野菜とポテトサラダ(ジャガイモだけの真っ白な冷菜)とを皿に載せてテーブルへ。で、サラダのポテトを一口食べて、私、絶句してしまいました。これ、小学生の時に大好きだった、今は無き北九州厚生年金会館の中のレストラン(店名失念)の、ハンバーグステーキの付け合わせのポテトとソースの味が全く同じです(あちらは重ね焼きにいしていましたが)。30年ぶりの再会に感動して、思わず給仕の方に「このポテトは毎朝ありますか?」と食い気味に訊ねてしまいました。毎朝、少なくともサラダは食べようと決意。

 入浴後に部屋で休憩、出発は9時で、五反田駅前から六本木ヒルズまで走る都営バスに乗ります。9時半着のバス内は閑散、ヒルズが動き出すのは10時なのかと想像、実際私の目的としているイベントも10時開場です(時間指定の予約チケットを購入済み)。
 車窓を眺めながら、25年前を思い出します。昨晩一緒に飲んだでっくんは、東大からではなくF中時代(もう少し厳密に言えば、校舎は違いましたが小学校時代のZ塾)以来の付き合いで、F校時代には寮生活を共にしていました。その高校時代、四半世紀前の年末の風物詩といえばユーミンのニューアルバム発売(実際には、96年辺りから売り上げは減少し、アルバムの発売時期にも乱れが出始めていましたが)。で、12月の発売が、第4回定期テストの勉強時期と重なるんです。そこで、発売日に購入したアルバムをでっくんに試験最終日まで預けておくんですね。一度でも聴き始めたら夢中になって勉強どころではなくなるので。
 で「あのねぇ、自分から預けといて、そんなに恨みがましい目をします?」
 私「恨み? 滅茶滅茶感謝してるよぅ」
 で「……本当は?」
 私「辛い! 苦しい! せめて歌詞カードくらい読ませてくれてもいいじゃん!」
 で「ダメです」

 六本木ヒルズ東京シティービュー」にて開催中の『YUMING MUSEUM』。ファンとしてアーティスト70年を辿りつつ、あの曲この曲に彩ってもらった自分自身の来歴を振り返ることのできる至上の体験でした。
 入口直ぐに置かれたグランドピアノ、その周りにはユーミン直筆の歌詞・曲の制作メモが散っています。歌詞は、その後発表されたバージョンになる前の推敲段階のものが読めて貴重。ファンにはあまりにも有名な螺旋階段抜けだしエピソードの鬘、舞台衣装からロボットの象までのツアーアーカイブ、『Shangri-la』に参加したサーカス団メンバーからの祝福メッセージ(ロシアからのものとウクライナからのものとが交じって切ない)……ランチを予約した12時までの2時間ではとても足りないボリュームです。自宅デスク再現コーナーで古語辞典は岩波だと知ったので、早速私も真似する……かはともかく、購入は絶対ですね、とかいろいろ。笑ったのは、70年代中頃に出演したTV番組(多分『セブンスターショー』)のスタッフに送ったという直筆の手紙。ユーミン喉ちんこが無いというのは有名ですが、手紙の中でその自らを指して「ダミ声ディープスロート」と命名するなど毒舌は若い時からだったのね、と。展示コーナーの最後には、各界著名人が好きな1曲を紹介するボイスメッセージのコーナーも。ユーミンの歌声をバックにそれぞれが思いの丈を語り尽くす中、羽生結弦氏だけは「春よ、来い」のイントロジャストの長さに原稿を合わせ、「是非、聴いて下さい」の結び直後に歌が始まるという完璧なDJを務めていて、やっぱ凄ぇわ、と思わされました。
 因みに、荷物入れのバッグは一昨日の清水ミチコさんの公演で購入したみっちゃんトートバッグ。罰当たりにも程がありますが、近年お二人は雪解けの模様なので、まぁ。

 ランチは「東京シティービュー」隣接のおされバー「THE SUN & THE MOON」にて、人生初のアフタヌーンティーユーミンコラボのフード・カクテル(「サーフ天国、スキー天国」「ダイアモンドダストが消えぬまに」「恋人がサンタクロース」等々のウィンターソングからのインスピレーション)を、東京タワーが見える窓際の席で、ユーミンをBGMに。至福……でしたが42歳の胃には重かった(何せフードは6段盛り!)。多分、今日が今年イチ肥る日ですね。夜は63回生と和食コースですが、多分酒以外入らんな、胃袋小宇宙のEくんに頑張ってもらおう……
 ……と思ったんですが、ヒルズから東京タワー経由で御成門駅まで1時間程歩いて、鮨詰め状態の「科博」の特別・常設展を2時間歩いて、ホテルで1時間お風呂に浸かったら、何とか「昼ご飯は素うどんだった」くらいの体感にまで行き着きました(足はかなりの疲労)。

 御成門駅から上野駅へ。目的は、「国立科学博物館」の特別展『毒』。年内最終日、平日16時の館内はちびっ子と保護者とで鮨詰め状態。42歳183cmは、ちびっ子たちの後ろから覗き込むように展示を見回りました。
 結局写真撮影をしたくなるのは動物ばかりだ(植物菌類鉱物、解説ボードなどではなく)というのに私の興味の程度など現れていますが、それでも楽しかった。ジャガイモの芽、ハウスダスト、酒や煙草などの嗜好品……我々は生存(衣食住等の肉体維持)・生活(余暇及び精神活動)両面において様々な毒(裏返せば薬)に取り囲まれているという事実を出発点に、環境(自然・人工)世界における毒の様態様々、そしてそれを利用研究時には創造すらしてきた人間の知の歴史を概観する展示。
 前述の通りちびっ子の後ろから覗き込む形、剥製等の展示はともかく、目が悪いために解説の文字が遠くからでは見えない部分が多々あって悔しく。総花的という言い方でまとめてしまったらそれこそ「毒」ですが、それだけ毒の世界は広大だということなのでしょう。因みに、新型コロナウイルスの影響下で現今の人類の興味を集めている「ウイルス」は、今展示では定義として「毒」に含まれていません(という、冒頭近くの解説も面白かったです)。

 五反田のホテルに戻ってゆっくり入浴、夜の約束は大塚駅、相手は63回生「いつメン」(高2~3年で私が担任を務めた卒業生)です。お店は、上京時に度々訪れる和食「みや穂」。おつまみコース4500円(サラダ・小鉢3種・お造り・椀物・焼き物)はK市価格でも通用、質・量ともに申し分なく、最初の有機野菜サラダだけで赤星が2本空くレベルです。その後は日本酒三昧。
 お店は最高だったんですが、予約時の私の(3人の職業がもたらす突発的事態を想定しなかった)判断ミスで集まり自体はグダグダでした。リクルートEくん、みずほ銀行Tくん、財務省Mくんの4人でのコース予約だったのですが、官僚は仕事でドタキャン、行員は1時間弱の遅刻。料理は4人分を3人で分けました。その後、池袋で飲み直そうかと移動した(ここから仕事上がりのMくんが合流)のですが、「知音食堂」「韓二郎」「中国茶館」と連続3軒断られた辺りで私の方が音を上げてしまって、結局1軒で解散することに。
 今夜「みや穂」で全額払った分は、次に会う時にEくんたちがリベンジ支払いしてくれるんですって。因みに、私と別れた後の3人は近くの「鳥貴族」で阿呆ほど飲んだくれたそう。「鳥貴族」(←行ったこと無い)なんだったら、俄エイターとして参加すれば良かったかしら。

 ホテルに戻ってコンビニ惣菜で飲み直し、就寝。