秘訣教えよう 皆プチャヘンザッ

 先日の高3授業で虹のコンキスタドールの「THE☆有頂天サマー」の歌詞を示し、そもそもタイトルからして「ザ・うちょうてんさまー」なのか「ズィ・うちょうてんさまー」なのかが分からないんですけれどもという前置きつきで、解釈難攻不落の箇所であるところの「この『(にゃん!)』って部分の意味が全く分かりません、国語教師腹見せて敗北宣言です、誰か知ってたら日本語訳を教えて下さい」と伏してお願いしたら、放課後の職員室デスクに匿名でB5用紙が置かれ、達筆にて「吾輩は猫である 知性はもうない」と大書されており。完璧な訳であるとともに、アイドル業界の本質をワンフレーズで衝いて見事。
 というエピソードを本日の授業でお話しして、話題は虹コン3rdシングル「THE☆有頂天サマー」のカップリング曲にして初期の代表曲「トライアングル・ドリーマー」のことへ。「この曲は、一風変わった(百合属性の、と言うか迷って自重)三角関係を描いた歌詞なんですけれども、先日来これを聴きながら、そういえば今年の高3にはまだ一次試験の歴史を代表する三角関係小説を読んでもらってなかったということに気づきまして」という枕とともに問題を配付。88年共通一次(追試)とやや古いですが、出典は芥川龍之介「秋」。
 大阪で暮らす信子(姉)が、東京に新居を構えた照子(妹)・俊吉夫妻の元を訪れて修羅場、何故なら俊吉は姉妹の従兄弟で信子は俊吉の元カノ。三角形の恋は俊吉の気まぐれ(天然のたらし)のせいで微妙なバランス。ざっくり言えば泥棒猫とボロ雑巾の姉妹喧嘩、解説はキャットファイトの実況中継、面白くならない筈はない。

 【「照さんは幸福ね。」信子は顎を半襟に埋めながら、冗談のようにこう言った。が、自然とそこへ忍びこんだ、真面目な羨望の調子だけは、どうすることもできなかった。照子はしかし無邪気らしく、やはり活き活きと微笑しながら、「覚えていらっしゃい。」と睨む真似をした。】
 「照さんは幸福ね」「覚えていらっしゃい」のやりとりは、新婚数学先生をからかう国語教員の姿に置き換えればすぐ分かる。「ひゅーひゅー、お前なんやー、『保健だより』の健康の秘訣が食事と睡眠てー、普通かー。普通の幸せかー。二人で食べたら美味しいかー。並んで寝たら安心かー」というからかい半分の祝福の……「裏に忍びこんだ真面目な羨望の調子!」で生徒大笑い。

 本来なら午後は東大理系現代文特講、京大現代文特講、という流れなのですが東大組は冠模試を受ける為に特講中止。というわけで、5・6限に京大特講をやればお仕舞いです。
 その前に、冠模試の国語の問題を見せていただく。第一問の出典は少々古い(有名な)本で、私が準備した④校内模試の問題とは被らず安心。これで、3つのうち2つはクリア。ですがそれにしても何でこの本を今更出典に、と一瞬考えて思い出した。秋模試の問題を作るなら春、この本、今年の春に文庫落ちしたんでしたね。
 続いて、京大特講を事情があって休まなければならないという某生徒。はいはいとプリント・資料をお渡ししようとしたら、「友達に頼んで授業を録音していいですか?」と。初めて言われましたよそんなこと。で、反射的に固辞! 夜明け方のゲイバーのママみたいな声で知ったようなことをくっちゃべってる音源を真面目な高3に聴かれる、なんて想像するだけで生き地獄です。板書をルーズリーフに丁寧にまとめ、それをお渡しすることで許していただきました。
 特講は解答欄だけで30行、いつもの50分を70分に延長してギリギリ、という04年野上弥生子。明治以降の日本の女流作家の頂点が、ローマに国費留学する息子(野上素一)に宛てた手紙から、彼女の有名な「教養」定義について問うた問題。名作だと思いますが、難しい。彼女が漱石を終生師と仰いだことを知っていれば、「逆コース」から「現代日本の開化」を想起できたかも知れません。「え、普通、高校生ならそのくらい知ってない?」と思った方がいらっしゃいましたら、今はそういう時代ではない、ということです。というわけで、今日は朝から一日漱石山脈。

 夜は、某卒業生のお母様から新居祝いをいただいたお礼の一席。T-falの湯沸かし、魔法瓶、マグカップ、そして「注ぐだけ」の飲み物一式。12年間K市に住んでいますが、薬罐すら買ったことがありませんので、家でお湯が沸くという生活は初めてのことです。冷暖房無しの書斎での仕事が捗ることになりそう。でもって、魔法瓶を使うのも生まれて初めてなのですね。お母様からも、TwitterでアドバイスのJTCYさんからも、「保温力舐めんな、T-falの熱湯をいきなり注いだら上唇の安全は保証できんぞ」とのアドバイスを頂き。
 内祝は、予め買っておいた焼き菓子のセット。私の教え子であるところの56回生Yくんの実家が徒歩圏内のケーキ屋さんで、卒業生のお母様にお渡しするならそれが良いだろう、と。

 さて、二人で向かう先は最近どはまりの小料理屋「A」。今週3度目の訪問です。お店をお一人で切り盛りの女将さんと、本日同席のお母様とがママ友でいらっしゃるということで紹介されて、その料理の質に感動したのです。一昨日は56回生Tくん、58回生Fくんと我が儘をさせて頂いたので、今日はお土産に「山の壽」の純米吟醸(4合瓶)の雄町を持参。筑後のお酒を中心のラインナップですが、女将さんが「山の壽」をご存じなかったということでチョイス。行きつけのK酒店で、定番の純吟(ラベルは日の丸)を買おうかと思ったのですが、限定の雄町を勧められ(白地が黒に変わります)たのでそっち。
 「甘いですね」と女将さん一口の感想。そうなんですよ、米から作った水が甘くない筈がない。私が、好きな日本酒の甘さを駄菓子とか絵の具に譬えると「もりき」マスターは「???」の顔なのですが、女将さんは「分かるような気がします」と。息子さんが大学一年生だということで、男の子を育てたお母様には、おそらく「子どもの舌」が分かるのかなぁ、と。

 瓶ビール(飲み物1杯)に小鉢3つのセット料金が2000円。本日はセロリ漬け、ポテトサラダ、そしてエビの香りがむんむんのブイヤベース。お猪口くらいのサイズのもずくにも煮込んだ滑子が混ぜ込まれているように、家庭料理の細部に神様が宿ってて口福。こんなお料理で育てられたご子息はさぞ母親想いの……と、ここで女将さんが昨日の出来事の愚痴。お母様がお店の厨房で忙しく立ち働いている間に、息子氏がまだ会ったこともない(というか存在すら知らなかった)彼女を初めて家に連れ込んでお泊まりさせた、と。翌朝起きて来たところを大説教、というエピソードを、また同行のお母様(ママ友)が煽る煽る。「何でそんなに煽るんですかっ、もうこちらの炭、赤々と熾ってますから!」

 さて、本日は「新居祝いのお礼の」一席。今日は絶対に料金を払う! と決意の財布準備。前回みたいに「最悪でも割り勘」とか譲歩したら絶対押し切られて奢られちゃうから、今夜こそ私が払うぞ首を洗って待ってろ~! とやや下品なくらいに意気込んで出かけて……今夜もばっさり返り討ちにあいました。いつの間に会計が終わったのか、結局一銭も払わずに帰宅。
 大人の女性の身のこなしは鮮やか過ぎて目にも止まらぬ。もしかして、こないだの虹のコンキスタドールの振り付けも、動体視力がついていかなかったオッサンなんじゃなくて、私がアイドル以下のお子ちゃまだっただけなのかも。