トーキョー・バビロン

 ホテルの部屋には無料の新聞。普段なら読まない社の朝刊でしたが、1面トップが大学入試に関するトピックだったのでそこだけ流し読み……しようとして、やっぱり直ぐに(冒頭の4文を読んでから)やめました。
 【大阪大(大阪府吹田市)は6日、2017年2月に実施した工学部や理学部など6学部の一般入試(前期日程)の物理で出題と採点にミスがあり、本来なら合格していた30人を不合格にしていたと発表した。全員を追加合格とし、希望者は今年4月に1~2年生での転入学を認める。他大学や予備校に通うなどしているとみられ、授業料などの補償や慰謝料の支払いを行う。大阪大は、2度にわたり外部から「誤りがある」との指摘を受けたにもかかわらず、適切な対応をしていなかった。】
 以上が4文抜粋ですが、どうでしょうか。具体的には3文目「他大学や予備校に通うなどしているとみられ、授業料などの補償や慰謝料の支払いを行う」。これ、非文(文法的誤りを含む文)だとまでは言いませんが、普通、前の文を受けてこんな文を書きますかね? 文の中で主語が一転二転するのにその両方を省略して、なおかつ「みられ」と助動詞「られる」を投入するって、もう読者を混乱させる(どうしようもない違和感に襲われるようにする)ことだけに注力したとしか思えません。古文かっつーの。
 これ、書き手が下手なんでしょうか、それともこれが新聞では許される「新聞あるある」の書き方なんでしょうか。実際、情報だけなら伝わりますしね。「読者は『てにをは』や文法など無視して拾い読み・流し読みしかしてないんだから情報さえ伝われば文体なんてどうでもいい」という姿勢なんだったら、いっそ関心してもう二度と読まないだけなんですけれども。
 あ、蛇足ですけれども、ニュースの内容そのものも酷いですね。私も入試業務に関わる仕事をしている(中学・高校入試では出題も採点も事務作業もしている)ので分かりますが、ヒューマンエラーは(あってはなりませんが)、ある。気づいたときに蓋をしないという一点が大切なのだと思います。

 朝食バイキングが1400円(それをタダで食べられる)とか言われたら、そりゃ食べるじゃないですか。実際、サラダのトマトを食べて驚きました。バイキングのトマトがこんなにみずみずしくて美味しいと思ったのは初めてかも知れません。根が卑しいのと小皿がいっぱいあるのが好き(松花堂弁当など最高です)なのとで、バイキングなんて形式に出会ったら一通り食べずには居られないもので、朝だけで1㎏と言わず太ったんじゃないか、という分量。

 さて、本日は、第5回「想像力、無限大∞ 高校生ビジネスプラン・グランプリ」の最終審査会です。メンバー4人(舞台に上がってプレゼンをするのはB組の3人)を引率して、先ずはお茶の水から赤門へ……迷ったのですがタクシーを2台呼んで分乗しました。9時30分に赤門の前に集まって、お世話になっているK先輩(昨夜の壮行会の幹事)による写真撮影があるのです。待ち合わせがあるなら歩く時間を極力無くした方が良いという判断だったのですが、驚いたのはホテルにタクシーを呼んでもらったら「迎車料金」なるものが取られるという都会の文化。1台につき500円弱払ったんですけれど、なめくさっとんなとしか思えない制度です。九医と東大理系との選択肢がある生徒の心から、東大がどんどん蒸発していきます。

 赤門前でバシャバシャと写真を撮り(これはどうするんだろう、市の広報とか、或いは同窓会の会報とかに掲載されるのかな)、会場入りする時にはイベントスタッフにバシャバシャと写真を撮られ(これはイベントのFacebookにどんどんアップされるそうです)、巻き添えで私まで写真に入らないと行けないのがちと辛く。メンバーの某くんもそうらしいのですが、写真に撮られるの、嫌いなんですよねぇ。
 さて、その「会場」なのですが、赤門を潜って右、を見たらそこに私が見たこともない近代的なビルがあってその名も「東京大学 伊藤国際学術研究センター」。その地下にある「伊藤謝恩ホール」(もの凄い「伊藤さん」推しだ!)が会場なんですね。500人くらい入れる(多分、クラシックなどのコンサートもできる)ホールみたいです。こんなん建てる金があったんだぁ……ってそりゃ「伊藤さん」なる人の私財に決まってます。

 先ずは、ビル3階の控え室に5人とも案内され、そこでスタッフに渡されたフリップが5枚。見れば、「5年後のあなたへのメッセージ」とあって、成程「ビジネスプラン・グランプリ」ですからね。高校生がビジネスの世界に打って出る(大学卒業を一つの目処とした)5年後あたりの自分を想像しろ、という話ね……と、納得しかかって、ふと疑問が浮かぶ。「ん、5枚?」
 メンバーは4人、フリップは5枚。差し出したスタッフ氏に問うて曰く「何故5枚なんです?」、スタッフ氏答えて曰く「先生も書かないと」、私驚いてタメ口で「僕も書くのっ!?」
 まぁね、「想像力、無限大∞」がキャッチコピーですからね(私、今回「∞」が「むげん」と打って変換できるって気づくまで、ずっと「関ジャニ∞」って変換してから4文字消してましたからね)。ノリとか雰囲気とかはある程度想像してましたけれども、まさか引率教員までがこんなのに巻き込まれる程だとは思いませんでした。5年後の池ノ都先生へ、「厄年なんてぶっ飛ばせ!」

 さて、リハーサル(省略)を経て午後から開始の本番。一般客(ビジネスマンがいっぱい!)や高校生(ファイナリスト10校以外に、セミファイナリストの10校も招待)を前に早速プレゼン開始……の前に、主催者代表挨拶ですね。公庫の一番偉い人はついこの間まで財務省のかなり偉い人だったそうで、挨拶では麻生財務大臣が常日頃からこの「ビジネスプラン・コンテスト」を高く評価しているということを強調されておりましたが、引率教員は頭に浮かんだ「天下り」の語がぐるぐると回って話を聞くどころではありません(よく知らんけど)。

 気を取り直して10組のプレゼンテーション。先ずは強調、これが大変素晴らしかった。日記の文体のせいで全てが下らないもののように見えてしまったらいけないので、再度強調、10組とも素晴らしい内容でした。
 正直、「高校生のビジネスプラン大会なんて意識高い系の回転寿司だろ~」って先入観、ありました。でも、以下の10プラン全てが、地域社会の問題に真摯に対峙し、頭と手と足とを使って解決策を練り実現しというプロセスを踏んでいたんですね。机上の空論ではなく現実に根を張っていたのです。
 ①「デニム着物@国の重要文化財in倉敷」による『普段着感覚の和装街歩き聖地化プロジェクト』
 ②「棚田の未来を守れ!~棚田用自律型稲刈り機『弥生』~」
 ③バナナに秘められた魔法の力!~フィリピンの未来を救うために~
 ④ワンタッチで便利を作る~ファスナーを使ったカスタマイズ商品づくり~
 ⑤クラゲ予防クリームの開発
 ⑥青い森のほくほくカボチャ~メガソーラー農園化計画~
 ⑦子どもパワーで商店街を変える! コストをかけないWin-Winビジネス!~すべてがワンコイン、子どものまち(まちなか職業体験)~
 ⑧魅せる耐力壁への挑戦~「鹿沼組子」による耐力壁~
 ⑨Bridge~学生と社会のマッチングサイト~
 ⑩オール室蘭が本気で作り上げたB級グルメ

 グランプリ②、準グランプリ⑤、特別賞⑥⑧⑨で、残念ながらF校(⑦)は入賞は果たせませんでした(ですが、多分10位ではないと思います)。入賞の発表はどれも素晴らしく、というか⑤は研究段階で内閣総理大臣賞を受賞している、⑧・⑨は既に実用の段階に入っている、②はJALを始め多くの企業との交渉を進めている、と他とは次元が違っていました。こんな中に、幾ら市内の商店街の人々の協力を得たとは言え、突貫工事・観念先行の感が否めないF校が食い込んだんですから、これを私は素直に凄いことだと思います。

 10組の発表が終わった後、突然投げ込まれた来賓挨拶が面白かった。
 とある若手衆議院議員小泉進次郎になりたい! と顔に書いてあるようなの)が、開口一番「感動をありがとう!」タイプのスピーチを披露したんですけど、築5年の会場の舞台で「私も13年前に正にこの会場でビジネスプランのコンペに参加したという思い出」とか嘘ついてて、んまに息するみたいやなぁ、と生徒と失笑。リアルタイムでオンラインに映像が流れてるのにねぇ。

 その後、ゲストによる特別講演があったのですが、同じ年代の人間なのに(先の政治家とは)誠実さがこうも違うかという内容で楽しかったです。後援者は「Spiber株式会社」の取締役兼代表執行役のS氏。
 氏の研究は社名の通り「クモの糸」。同じ太さならば鋼鉄よりも遙かに強いクモの糸(構造タンパク質素材)を、次世代の工業用基幹素材として普及させるための研究・開発を行っているんですね。2018年はその実用化が本格化する所謂「元年」なのだとか。
 慶応大学由来のこの会社を立ち上げるに至った氏の中高の経歴は、ストレート慶応ボーイが受験要らず時間無限の中学時代に「自分は(人は)何故生きるのか」という哲学的問いにとりつかれたところから始まりました。生きる意味はない、ならばせめて幸せに生きたい、そのためには自分の周囲が幸せであるべき、という考えを「修身斉家治国平天下」的に広げていけば、自然と生きる目的は人類に資する(氏は「平和のため」と強調されました)研究開発に至る訳で、それが「クモの糸」という基幹素材の開発に繋がったという流れ。
 だからこそ、講演後の高校生による質疑応答では「この技術は軍事に応用できるものでは」というのを衝いて欲しかったところ。嘗て開発に失敗してきた無数の先行研究の中に米軍によるものがあったという一言に質問のヒントはありました。研究と開発と経営との「三足のわらじ」を履く先輩に対する最も誠実な質問の一つはこれで、恐らくF高「男く祭」の講演だったなら確実に誰かが聞いていたはず(私、メンバーをけしかけようかと思ったくらいです)。

 コンテスト授賞式の後は交流会……ですが、これはF校生が最も苦手とするタイプのイベントで生徒たちは苦労していた様子。私は、会で出される食べ物は口にするなとだけ厳命していました。
 解散は19時過ぎ。可哀想に上京までして観光が秋葉原電気街15分と、本郷キャンパス安田講堂三四郎池)15分だけだという生徒たちに、せめて美味しいものでもと移動した先は水道橋。夜の暗闇からうっすら東京ドームが見える(これも観光?)ドームシティそばの水道橋「菩提樹」で、豚カツを奢りました。昨日の壮行会といい今日の最終審査会といいメンバーにとっては勝手の解らぬ「異界」での体験続きで(っつか、4人中2人は九医志望でビジネス関係ないからねぇ)疲労は大きいでしょうが、一様に「得るものがあった」と言ってくれたので引率も一安心。あ、でも、一言。きみらがデキャンタで飲んでる黒ウーロン茶、3つ注文したから計2000円だからね。

 生徒4人はタクシーに乗せてホテルへ戻し(課題テストの勉強、してるかなぁ)、私は電車を乗り継いで帰還。部屋で缶ビールを1本だけ飲んで、就寝。
 朝はバイキングがっつりでしょ、昼は支給の弁当でしょ、夜は豚カツ屋でしょ、そら太るわいな。