鹿男あをによし

 昼休みに新校舎初の避難訓練。だったのですが、余りのグダグダっぷりを校庭全校集会で消防署の方(←訓読み)から注意される。「おはしも(押さない・走らない・喋らない・戻らない)」の徹底を、と注意される様子を全くである、みたいな顔して見守る教員ですが。先日行われた職員会議で出された避難経路(教員考案)の第1案で、校舎外の陶芸教室から避難する生徒を一回燃え盛る校舎の中を経由させて校庭に向かわせていたのは内緒の方向で。

 さて、今更感溢れていますが、4月末「男く祭」の感想作文、傑作紹介。高2A某氏、タイトルは「とある備品Pの怠惰な一日」(「P」とはプロジェクト、要は「係」ってことね)。全文一気にどうぞ~!
 【もし今目の前に去年の自分がいるとして、お前は来年Pに入ることになるぞ、と伝えたとしても、目の前のそいつは鼻で笑うだけで決して信じやしないだろう。Pなんていうのは学園祭を心から待ち望んでいて己の手で成功に導いてやろうという信念やら気概やらを持ってる輩がやる代物だぞ何言ってやがんだてめえ、と叱責を受けること請け合いだ。僕自身、何の間違いだか保健委員会に所属しているものの本来部活動や委員会活動などに勤しむ奴ではない。Pでの活動なんてもってのほかだ。そして、そんな甲斐性の無さ故に入会の依頼を断るのも手間だからと二つ返事で引き受けたのが保健委員。何の間違いだか、この言葉がこれ程似合う入会はそうはあるまい。しかしこんな経験はこれが初めてではない。
 あれは僕が中学二年生の時、先方は何を考えているんだかHR委員長に僕を指名してきた。そしてその時も拒否が厄介そうだからほいほい快諾したものだ。それにしても、こういう風に自分の過去を省みると、今までは自分のことを甲斐性無しと見做していたが案外横着で怠惰なだけかもしれないと思えてくる。
 閑話休題、そんな経緯で保健委員会の末席を汚すことになった僕だが、後にある事実を知り驚かされる。なんと、保健委員になることは取りも直さず備品Pになることだったのだ。そして僕はその事実通りエスカレーター式に備品Pとなった。もっとも、自身のその怠惰な性格故にPというああも怠惰とはかけ離れた組織に組み込まれたのだから皮肉なものだ。さて、理由はともかくPとなった以上はPとして労働せねばなるまい、というのがPとしての僕の考えだった。しかし人間思ったことを全て実際に行えるなんて都合のよいことはなく、僕は備品移動の時になってようやく労働に着手したのだった。
 仕事内容は階責、階の責任者だ。驚きだよまったく。自分が何をすればいいかを当日まで何も知らないような人間を責任者にするなんて言語道断だ、横紙破りも甚だしい、中枢の連中は正気なのだろうか、などと思いながら手際よく仕事内容の確認をする。自分が責任あるポストについた程度のことで動じる程伊達に無精を決め込んでいない。どうやら備品移動が上手くいっているかの確認だけでよいらしい。なるほど、正直こいつには何もさせたかないがさすがにそれは不憫だと思って責任者だとおだててその実猿でも出来る仕事をやらせるわけか、などと穿った考えを巡らせながら担当の階へ向かう。
 東棟三階、普段高校三年生が使用しているフロアの責任者を仰せつかったわけだが……これは僕への挑戦状あるいは嫌がらせだろうか。三年生というのは畏怖の対象でしかないわけで、そんな人達が群を成して行うことは僕には一切の例外なく暴動との区別がつかない。ましてや暴徒達の動向をうかがい不備があれば指摘するなんていう厚顔無恥なまねが出来るわけがない。つまり、今から暴動が起こると分かっていながらもそれが自分では鎮圧できるものではないことも把握しているのだ。うわあ、こんな辛い仕事猿じゃ出来ないな、なんて今さら前言を撤回しても責任者を辞退することは出来ず、むなしくも放送が備品移動開始の旨を伝える。暴動が始まるぞ、逃げよう、いやそんなことをしたら後で怒られる、もうだめだ祈るしかない…
 そんな葛藤から十五分が経った頃、机の移動が終わった。豈図らんや、暴動どころかどこよりも首尾よく、そして粛然と進捗するではないか。しかしそうか、彼らは最高学年、すなわち備品移動を最も多く経験している世代なのだ。この程度の仕事ぶりは必然の結果かもしれない。そして、備品移動は椅子の移動、パイプ椅子の移動と経過を辿り、後は解散の指示を待つだけとなった。
 もう仕事は終えたも同然で何も解散の指示をぼけっと先輩に囲まれて待つ必要はないわけで、僕は上の階、同級生が大勢で戯れてるであろう領域へ歩みを進める。踊り場に着いた時点で異常に気付く。やけに騒がしい。そりゃ静まりかえってるとは思っちゃいなかったが、この盛り上がりようは想像の遥か上をいっている。この喧噪の根源は四階に上がるや否や判明した。
「性感帯バスケット、うなじ!」
 高校二年Aクラス、どうやらそこの問題児達が聞いたことのない遊びを満喫しているらしい。
 僕は階段を下りた。気を張る上級生よりも気が置けない同級生、と思って来たものの、あんな気が知れない蛮行を興じる族のそばにいるのは気が進まない。大人しく解散の号令を待つことにする。
 二十分後、中学生が手間取ったらしいが無事に備品移動は終わり僕は本部へと戻った。今日はお疲れ様でした、という労いの言葉を聞いてさっさと帰ろうと思っていた矢先のことである。P長はそれが当然であるかのように、この世の理に則っているかのように、何食わぬ顔でこれからの作業を始めた。僕の脳内は疑問符で埋め尽くされる。え? 今から帰るんじゃないの? なんだよクリップボードって、ロッカーの封鎖なんか事務員にでもさせてろよ、と今回ばかりは憤懣やる方ない思いだったが理由を付けて帰るのも煩わしいと……】