一冠の終わり

 本日、一昨年度(今担当している高2が中3だった時)の「城の崎にて」以来15ヶ月ぶりの小説授業を開始。小説は基本苦手、扱うのは非教科書教材、中島敦の最高傑作「文字禍」。授業3回、喋る内容も決めており、試験では東大2008年度入試現代文『反歴史論』(宇野邦一)を絡める、というゴールまで決めているのですが、何しろ朗読が難しいからここが勝負……と思ってたら、うちのクラスの某生徒、若者・老人・地の文、全てで声を使い分けて感心&爆笑必至の朗読テープが完成しました。老人の声は、そうですね、平泉成の声そっくり。平泉成が誰だか分からない人は、田中健の吹くケーナの作製を一手に引き受けている俳優だと言えば分かりますね。分かるわきゃない。
 まとにかく、朗読さえうまく行けば小説の授業なんて解説の中身がアレでも何とかなるもんで。

 放課後。実習T先生の最後のショートホームルームが終わり、「それでは号令を……」となった瞬間に、生徒Aが「ちょっと待ったーっ!」と紅鯨団風に。
 クラスの牽引生徒Bと、蹴球部代表のCとの2人による、T先生有難うセレモニー、プレゼントは寄せ書きと、みんなでカンパして購入した……勝負下着(赤)! 和やか拍手の中T先生の挨拶が始まったら、最前列に座っていた平泉成がおもむろに携帯スピーカーを取り出し。
 ……曲が流れ出した瞬間、全員爆笑しましたね。ベタの使い所を完璧に捉えた。って言われたら久石譲が怒るかも知れないけれども、もう「Summer」(菊次郎の夏)って曲がさ、2週間生徒と交流して信頼関係を気づいたと思ったらもうお別れの時がやってきましたという教育実習生が最後の挨拶をする時のために作られたものだとしか思えなくなりましたもん。
 笑いすぎて、T先生の挨拶、聞き逃しちゃったもん。

 学年・学校行事的には今日は午後の保護者会・クラス懇談会の方が大事だ、って言ったらT先生には申し訳ないけれども、まぁ実際仕事の労力的にはそうかな。学年保護者会で喋ることなんて、「教務部より」ってことで私情一切抜きのデータトークだけですからそんなに問題はありませんが、保護者の皆々様方へ向けて「顔を作る」というのと、「顔を維持する」というのが大変なんですよ。朝の授業では、午後の保護者会の仕事に持てる喜怒哀楽の全てを注ぎ込むから、小説の授業ですけれども一切の感情を封印して凪のような心持ちで喋ります、って宣言してますからね。放課後の「Summer」で笑わされて台無しだったけど。
 クラス懇談会では、文系クラスの様子(成績の見方)などをこれまた事務的にお話し。面白いこと(元気もののA組特有の事象)をサービストークしまくっても良かったのですが、あまり他のクラスと違うことをして文系A組「孤島感」を演出するのもなんだか、と思って今回はやめときました。こんな日記で色々晒しといてなんですけれども。

 T先生の慰労会と、保護者会・クラス懇談会の打ち上げを兼ねて、学年有志の飲み会。に、参加予定だった学年主任は急遽入った仕事で来られなくなってしまったので、ベテラン体育科先生の音頭で会を進めていただく。私は、途中1時間ほど抜けて、主任先生・学校と連絡を取るお仕事。からのど泥酔タイム! 絶品餃子屋「M」から、沖縄料理屋「A」の2軒。

 江口夏実『鬼灯の冷徹(9)』読了、★★★。『聖☆おにいさん』が抱える東西2大普遍にニッチな視点から対抗しつつ『アザゼル』を出し抜き第三極を狙う系漫画。パロるネタの知名度の関係上ボケの前に説明が不可欠というハンデを背負って、しかし気づけば巻数で『聖』を追い抜き。
 長田弘『なつかしい時間』読了、★★★★。「視点・論点」発言集。市村弘正が「残像文化」で述べた、「まだなお」の見届けが育てる「もうない」への想像力が「まだない」を創造可能にする旨。それをスケールの大きい時間尺度で実践・発信し続けているのが長田弘であり、高田宏であり……。