旧里や臍の緒に泣く年の暮れ

 さて、ど早朝起床で5時学校入り、生徒・友人用の年賀状のデザインを作成・印刷したり、新学期の時間割変更をまとめたりとちょこちょこ仕事。昨日同様都合で学校に呼び出していた生徒の顔を見たりしながら。職員室は、ちょっと立ち寄る、程度の先生が何人かおられるだけで閑散。年末ですね。途中、卒業生某氏が現高3に(大学進学後の)寮の案内状を配ってほしいと職員室に。私が居ないと職員室無人で完全駄足だったんですけれども、某氏は私のtwitterのフォロアーで私のtweetを見て職員室在を知ったからいらした、と。初めてtwitterが仕事の役に立ちました。
 夕方前の新幹線で小倉の実家に帰り、私のリクエストで夕食はおなべ。「梅の花」から配送されたおせち料理をあけるのは明日。「紅白」を録画して「ガキ」を観ました(3年赤組田中タイキック、はくっそこんなんでと思いつつもやっぱり大笑いしました)。

 大学時代(1999年の終わり)にネットで日記を公開し始め、移転を繰り返しながら足かけ14年、このはてなブログが4箇所目になります(1箇所目、2箇所目は消滅していますが、3箇所目のココログ日記はまだ読めるようです)。その間、私の肩書きと環境とは(東大教養学部→文学部→F高教員と)大きく変化し、書いている内容は昔と今とではやや違う物になっていますが、書き方(文体)と、主たる想定読者がTQC東京大学クイズ研究会)の17・18期の10人程度であることとは殆ど変わっていません。というか、書いている内容もそんなには変わってないか。お金を自分で稼ぐようになったことと、遊び相手が同世代の大学生から年下の中高生に変わっただけで、本と酒を中心に据えた生活は不変ですもんね。
 で、その日記において、年末大晦日にその年の総括の意味で、その年に味わって感動した本や音楽、具体的に言えばその年に発売された「CD」「漫画」「書籍」、及び前年までに発売された「書籍」のベスト5を(主に自分の為に)晒すというのも、多分2002年くらいからず~っと続けています。もう十何回目になるんですね。

 先ずは今年発売のCDから。アーティスト名五十音順(以下も作者名五十音順)。
A.KANA-BOON『DOPPEL』
B.研ナオコ『シングルA面コンプリート』
C.渚ようこ『ゴールデン歌謡・第二集~エロスの朝~』
D.松任谷由実『POP CLASSICO』
E.矢野顕子『峠のわが家』
 最高の作品は渚ようこのC。ライブ音源複数の鉄板レパートリー「新宿マドモアゼル」の初スタジオ録音が入っている所からも本気度が伺えるカバー集、「アクエリアス~輝く星座」「手紙」(何とスキャット!)など選曲が嬉しい中、最も素晴らしかったのは唯一のオリジナル「時空の恋人~ハレクリシュナ」、ラーガな怪しさとエキゾな歌声に幻惑必至でもう何回リピートしたか分からないほど。KANA-BOONのデビューA、最近よくある系のバンドと言ってしまえばそれまでですし、歌詞も(発想は面白いけど)やや弱いと思いますが、勢い一点買いで(実際、買って1ヶ月経って一番気に入っているのは非公開の歌詞が聴き取れずに意味が全く分からない「A.oh!!」です)。研ナオコのBは「愚図」以降全く雰囲気が変わってしまう前の初々しさ、東宝時代の7曲が初めてCD化されたという事実だけで素晴らしい(欲を言えば「B面コンプリート」も欲しいですが)。ユーミンのDは「ひこうき雲」のリミックスが蛇足(だと直観しているのでまだ観て・聴いてない)ですが、事前の視聴で「地味だな~」と思っていた先入観が「地味」ではなくて「滋味」だったのだと覆された深さに静かな感動。ラスト2曲「シャンソン」「MODEL」は、もう彼女の遺言だと思って良いんじゃないでしょうか(ちょっと前の上野千鶴子との対談で70歳までは行けると仰っていたのでそんなことはないと思いたいのですが……)。1986年旧作の再発売Eは、ボーナストラック(アウトテイク)と聴き比べて改めてその作り込み具合と完璧さを確認。
 他に印象に残った作品があんまり無いから5作がする~っと選べました。後は、NOKKOの新作に幾つか好きになった曲があるくらいかな。

 今年発売の漫画5作品。
A.川原泉川原泉傑作選 ワタシの川原泉
B.木下晋也『つくりばなし』
C.久保保久『よんでますよ、アザゼルさん。』
D.松田奈緒子重版出来!
E.山下和美天才柳沢教授の生活
 「アゼザル」は何年か前にも選んでて2回目、繰り返しますけど鳥山明手塚治虫の両方に同時に喧嘩を売った「メカ編」にひたすら感動です。Aは既読のものばかりですが当然の如く良、Eも今更の鉄板ですけれども最新刊に教員の話が入っていたのに個人的に感情移入。純粋に2013年の作品、と言えば『並盛りサラリーマン』の笑いが更に温かくなったBと、安野モヨコ働きマン』を彷彿ですがそれが主人公の熱血天然のせいでする~っと笑って読める(でも感動ポイントもありの)Dということになりますね。
 漫画では、お仕事ものの2作品(全然方向性が違いますが)OYSTER『光の大社員』と佐々木倫子『チャンネルはそのまま!』が終了。別格の萩尾望都萩尾望都-愛の宝石-』もありました。ちょっと落ちるけれども、佐藤健太郎魔法少女オブ・ジ・エンド』の勢いも凄かった(内容もそうだし、年間4冊発売っていうのも)。

 今年発売の、漫画以外の書籍5冊。
A.飯間浩明『辞書を編む』
B.内田樹中島岳志平松邦夫・イケダハヤト・小田嶋隆・高木新平・平川克美『脱グローバル論』
C.長井英治『日本の女性シンガー・ソングライター
D.葉室麟『さわらびの譜』
E.森博嗣『つぼやきのテリーヌ』
 国語教師とクイズ人必読のA、F校出身者の活動「ルームドナー」が年若いイケダ氏によって紹介されそれが内田樹氏を感動させたシーンが印象に残ったB、完全網羅ではないものの女性シンガーソングライター好きにはたまらない(主観への偏り方が絶妙な解説が面白い)C、受け持ちの文系生徒に「敗者の頑張り」が描かれた良著を貸して欲しいと言われて真っ先に頭に浮かんだD、そして「話を聴く」ことの大切さをたった2ページで簡潔かつ完璧に言った「上からの声も下からの声も聞けない人間になるのは何故か?」にやられた(こういう風に言えば良かったのかと腑に落ちた)E、の5冊。
 他には、よしもとばなな『スナックちどり』、山田詠美『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』の小説2冊、そして堀井憲一郎ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎』の合計3冊が素晴らしくて、8冊を5冊に絞るのに悩みました。

 昨年以前発売(今年の文庫落ちも含む)の、漫画以外の書籍5冊。
A.上田三四二無為について』
B.幸田文幸田文対話(下)』
C.藤田省三全体主義の時代経験』
D.山本夏彦『私の岩波物語』
E.吉行和子『浮かれ上手の話し下手』
 AとCとは再読。Aの中の「武器について」は半世紀前の名文、12月に高3文系の校内模試に全文出題しました。そうしましたら、又聞きですが解き終わった後でとある優秀な生徒が「文章がす~っと納得出来すぎて解答で言分けするのに難渋した」旨仰ったという話に感動(感謝)すると同時に申し訳なくも思い。名文を出題する功罪ですね(内田樹さんの言だったか、入試に出題しやすい文章の条件には適当に「悪文」であることがあるのです)。書く人B、演ずる人E、共に「それしか出来ない」と仰る円熟の女性の文章に打たれる経験。最も面白かった本は夏彦翁のD、この記憶力がもたらす情報量を普通の人が書こうと思ったら本の厚みが2倍~3倍くらいにはなるんじゃないかと思うんですけれども、その表現の精米歩合がすっさまじいんですよ、もうキレッキレ(あ、日本酒が飲みたくなってきた)。