ありがたく おがむよな 休日の国

 「勤労感謝の日」なので、勤労の思い出を。

 就職初年度(2004年度)に担当した高3校内模試に小池昌代「背・背なか・背後」を出題(人生で初めて作った現代文の模試です)したら、それが同年(2005年2月)の東大入試(文系現代文第四問)で「ズバ的」しました。出典は岩波書店『図書』の2004年7月号、後に『黒雲の下で卵をあたためる』というタイトルのエッセイ集にまとまった連載ですが、東大の先生も私も雑誌連載時点で(推敲経て一冊の本になる前の段階で)入試・模試に使うというのは冒険だったんじゃないかと今では思います。因みに、東大入試はこの『図書』が大好きで、2010年代には今福龍太「風聞の身体」や蜂飼耳「馬の歯」などもここから出題されています。
 初年度で「ズバ的」ですからそれは褒められました。が、実情を明かせばこの「ズバ的」は下駄を履かせてもらって為し得たものです。完全な偶然ではなく狙って出したのは嘘偽りない事実ですが、狙って出すなどということができたのは私が前年度まで東大の学生だったからです(つまり、同じことはもう二度と起こせません)。
 要するに、2003年度、学内でよく小池昌代の名前を見たんですよ。講演だったり講義のゲストだったり。例えば、2004年の3月に講談社選書メチエからロバート・キャンベル編『東大駒場連続講義 読むことの力』という本が出版されましたが、これは東京大学比較日本文化論テーマ講義という2003年度の輪講、中に小池昌代・宮本久夫・藤井貞和「詩を読むよろこび」という鼎談が収められています。恐らく、彼女は藤井貞和のお気に入りだったんじゃないかな。当時大学最終学年という立場で遊び回っていた私の中で、小池昌代は「今、東大で熱い詩人」としてインプットされました。
 で、就職初年度に校内模試の文系現代文を作ることになったので、その年に発表された小池昌代の文章(詩ではなくて散文)を全部集めて読んだら、この「背・背なか・背後」(の前半3000字弱)だけが東大の文系現代文に使えそうなものだったのです。書き手をこの人と先に決めて同じ文章群を二人の作問者が漁ったなら、選ぶ文章が同じになったとしても全く驚くことはありません。先に「下駄を履かせてもらって」と書いた所以。
 因みに、「それは褒められました」(当時の高3学年主任の先生からはご褒美に携帯ストラップを頂きました)が、実際のところ私は殆ど喜びを感じませんでした。というより、逆に落ち込みました。東大と私と、同じ文章を出典に問題を作って、重なっている傍線部が1本も無かったのです。そして実際、東大の出題の方が遙かに鋭く本文の本質をついていた。具体的に言うと、私の作問は「下手」だったんです。比べたら嫌でも丸分かりです。最初に「ズバ的」を知った瞬間は「私って天才じゃ無いかしらん」なんて思いかけたもんですから、そこからの落差は、それはそれはもう。
 こっそり且つがっつり落ち込んでいる私に、国語科恩師先生だけが「まだ一年目ですから、これから勉強です」と声をかけて下さいました。今考えたら、読解力の不足もありますが、文章を見つけた時点で作問を終えた気になっていた傲慢が最も恥ずかしいですね。模試と入試とは本気で作る、勉強させられた体験です。因みにこの時の落ち込みは一年くらい引きずって、翌年度の校内模試で再び文系現代文を担当して出題した梨木香歩「群れの境界から」を恩師先生に褒めて頂いたことでやっと抜け出せました。
 今でも時々その時のことを人から言われることがありますが、それに対しては多少はにかみがちな表情を作って「偶然です」と嘘をつきます。「偶然」なのも嘘なら、「はにかみ」は大嘘も大嘘、穴があったらという黒歴史なんですが、自戒を込めて書いてみました。

 以下、本日の日記。

 ホテルにて健康起床、大浴場で湯浴み、8時台の西鉄電車でK市に戻りました。一旦自宅に戻って荷解きと母君へのお供え、そのまま学校に出て3時間だけの机仕事、健康で勤労出来ることに感謝しつつ。
 仕事上がりはタクシー移動、K市昼飲みの聖地「S」にて、健康で勤労出来ることに感謝しつつ、読書独酌。枝豆・茶碗蒸し・あら炊き・鶏もも揚げ・鍋焼きうどん。「日本酒チャレンジ」は北海道「男山」(生酛 純米酒)。

 西鉄K駅のスーパーで買い物をしてから徒歩(20分)で帰宅、あんまり酔ってなさそうなので書斎で机仕事と書き物とを2時間。1時間だけ仮眠をとってから入浴、再び書斎で作業を1時間、これで外は真っ暗です。

 11/23の「自粛お摘まみセット」。
 鰤刺し・浅漬け・小鉢2種。日本酒は昼に新しい蔵の物を飲んだので、夜はセラーの中の開栓済みを(今夜は「会津娘」)。ビールは「秋味」ですが、これのストックが無くなったら次は「冬物語」のシーズンです。小鉢のじゃがバターを雲丹烏賊で作ってみたら大変に美味でした(じゃがバターがというより、それを摘まみに飲む日本酒が)。

 明日も健康に勤労出来るであろうことに感謝しつつ入眠。