わらいじぞう

 早朝起床、大浴場で湯浴みの後、ホテルを出発。池袋泊ならホテル徒歩3分にお気に入りのネカフェがあってそこに吸い込まれるのですが、今回の宿泊は田町です。真っ直ぐに駅まで、山手線で上野まで。

 上野の科博、開館15分前に到着したら一番乗りでした。平日ではありますが冬休み、幾ら何でも一番乗りは無いわ……今回の特別展、そんなに話題になってないのかなぁ、というのが入る前の印象。
 で、入ってから「然もありなん」と思いました。特別展「ミイラ~『永遠の命』を求めて~」、悪くは無いんですけれどもパンチに欠けるのはやっぱり「物」が少ないからでしょうか。いつもの特別展と比べたらどうしても「空間を贅沢に使っている」印象が拭えず。一応、図録は購入して高1Aの学級文庫に。物が物だから当たり前ですが、展示の録画撮影が一切禁止だというのも科博の特別展としては珍しいですね。SNSでの積極的拡散を募るのは科博の常套手段で、今回は展示室と展示室の間の廊下に「ミイラマスクチェンジャー」なる機械がひっそりと設置されているの「だけ」がそれに当たるよう。プリクラみたく顔写真を写したら、それをエジプト黄金マスク風にアレンジしてくれます(一応、撮影して画像を保存。ミーちゃんハーちゃんなんで)。

 いつもの科博なら2時間以上滞在するところですが、今日は(常設展も観なかったので)1時間で出ました。次の約束は昼に虎ノ門ですが、時間が余った分は池袋寄り道で聖地「ジュンク堂」本店。1時間程の背表紙読書店内逍遙、籠は一応一杯になりましたが、次の約束(移動)がある時には(お金ではなく重さの問題で)本を取る手に時々躊躇が混じります。だから、やっぱり宿は池袋が良いんですね(今回は、予約の都合で池袋が取れなかったので田町になったのです)。

 12時に虎ノ門経産省ルーキーの63回生Tくんに「サラ飯食べようぜ!」と話したら乗ってくれて、そこに一橋大学Iちゃんが加わって3人のランチです。
 経済産業省の本館入口には「原発反対」のデモが数人居ます。
 私「カンパ、して良い?」
 T「(苦笑)」
 私「仲良くするな、って上司から言われてるの?」
 T「いえ。内定式の時にはここでシャッター押して貰いました」
 私「図々しいな!」
 Tくん、会話にこういうくすぐりを入れるタイプの子だったかしら。さて、そのTくんが選んだ「サラ飯」は愛媛料理「かどや」で、ランチの「宇和島鯛めし御膳」は1980円。こんなの毎日食べられる訳ない、っつーか一回だって行こうと思う価格帯か? と訊けばやはり恩師(←誰も言わないから自分で言う)お招きの背伸びランチだそうで。カウンターで掻き込むタイプのランチ飯ではなく会食の個室、わざわざ午後に年休まで取ってくれたそうです。多謝。

 Tくんとの話題は勿論お仕事のことで、普段の仕事って何やってるの? という素朴な疑問。オッサン(私)と大学生(Iちゃん)とで社会見学してるみたいな構図です。書いて良いか判んないので委細一切省略ですが、取り敢えずアポ無しで突然企業に電話して「経産省ですけど」と切り出すことがあるってのは面白かった。「詐欺だと思われない?」と訊いたら、「皆、意外と信じますよ」と偽者みたいな答えが返ってきました。あ、あと、取り敢えずTくんには、テレビカメラが入った議員とのやり取りの場で「持ち帰ります/持ち帰ります/持ち帰ります」と狂ったみたいに繰り返して呟いたり「持ち帰るとは申しましたが」みたいな詭弁未満を項垂れたまま垂れ流したりする仕事をやれと言われたらその場で自害して果ててね、とお願いしました。
 Iちゃんは、正に東奔西走で就活の真っ最中。こちらもデリケートな話題なので委細一切省略ですが、志望のマスメディア(主にラジオ)に到達できるよう祈念。っつか、Tくんも企業就活やってたんですね。人も羨むあんな企業に内定貰ってたって話に、Iちゃん、羨望も忘れて尊敬しきってました(良いやつだ~)。

 ランチの後、Iちゃんは所用でお別れ、品川まで徒歩移動して珈琲を1杯飲んでからTくんともお別れ。さっきの「かどや」でビール1本飲んだのは余計でした(昨日の学びは何だったんだろう)。

 電車を乗り継いで品川から吉祥寺。目的地はギャラリー・ショップ「にじ画廊」、ここで「Pu Pu PI Doo 水森亜土展」が行われており本日が最終日ということで飛び込んだのです。
 たくさんのグッズや劇団公演の古いポスター、そして最近描かれた絵画作品が所狭し。2階の展示スペースはF校の教室1室分もない空間ですが「かわいい」でぎっしり埋め尽くされています。グッズだけではなく絵画作品も購入可能、展示された絵の下にタイトルが書かれたパネルがあり、それに丸い形の小さなシールが貼られているのが購入予約済みのもの。なのですが、可愛らしい女の子の絵、セクシーな美女の絵、愛おしい天使の絵、等々が殆ど売れ尽くされている中で、一点だけ、音符とハートマークとに囲まれて佇むお地蔵様、「な~む~」というタイトルの油彩にだけ、丸いシールが貼られていなかったのです。
 昨日飲んだ56回生「いつメン」と随分前に上野のジャズバーで亜土ちゃんのライブを観た時に何故か電話番号を尋ねられ、去年母君が旅立たれたその夜に突然「先生、大丈夫?」とお電話があったという逸話、画廊のスタッフの方も驚かれながら「ありそうだと思います!」と仰っていました。その亜土ちゃんが描かれたお地蔵様(な~む~)が、展覧会最終日まで私を待っていて下さったのです。即決で購入を決めました。絵を買うなんて、というかこんなお高いものを買うなんて、勿論人生初のことですが、どうしても母君のお位牌の隣に飾りたくなったんですね。上京恒例「人生初」をここで使いました(現金の持ち合わせなどあるはずなく、近所の三井住友銀行まで走りました)。作品は、後日自宅に郵送されてくるそうです。

 吉祥寺駅前の古い古い銭湯「いづみ湯」に。さっきは思い切った買い物をしたものじゃ、もしや昼に飲んだビール1本が気持ちを大きくしてくれたのかも知れぬのぅと、汗と一緒に昼間の反省が毛穴から流れ出ていきます。1時間経っても充実感ばかりで不安後悔の欠片も湧いて来ないのは、間違いなく正しい買い物だった証拠。
 吉祥寺から神泉までは井の頭線で、急行と普通の乗り換え。待ち合わせまで松濤美術館で過ごします。松濤美術館サラ・ベルナールの世界展 パリ世紀末ベル・エポックに咲いた華」。最近ここでルネ・ラリックBunkamuraミュシャ展があったばかりですので、展示の数々には既視感があるものも少なくなく。だけに、女優本人が彫刻その他の創作に秀でた人物であった(初耳)というその作品群が特に興味深く。1時間程滞在、図録を買ってから退館。

 松濤美術館から神泉駅までは徒歩5分。駅前で待ち合わせた相手は63回生我らA組のEくん・Bちゃん。この日記では、卒業生男子は「くん」、女子は「さん」という呼称を使っている(若干後ろめたい)のですが、今日のお昼のIちゃんみたく、渾名が「●●ちゃん」だった人はつい「ちゃん」づけをしたくなったり。
 Eくんは最早月イチレベルで飲んでますけど、海外留学等忙しくしている(4月からは外資の人らしい)Bちゃんと会うのは数年ぶりです。選んだお店は昨夜の「うつらうつら」の姉妹店、こっちが元祖の神泉「ぽつらぽつら」。前菜(八寸)と野菜テリーヌとが絶品。和洋折衷の創作料理に日本酒を合わせて。

 後日、飲みに行った先でEくんに叱られた話。「ぽつらぽつら」は日本酒(と国産ワインと)のお店、私は冷酒派なんですけれども、年末の寒い時期ということで1合だけ熱燗を注文してEくんとシェアしたんですね(Bちゃんはそんなにお酒が強くありません)。で、私はぜ~んぜん覚えてないんですけども。
 E「先生がね、熱燗の徳利を俺の手の甲に当てて、俺の顔見て『ね、あったかいでしょ?』って言った。恋に落ちるかと思ったわ!」
 私「知らんがな」
 E「相手お前やぞ!」
 私「お前て」
 経産省Tくんも滅茶滅茶羨ましがってた年上彼女とお別れした(あ、書いちゃった)傷も癒えぬばかりの教え子を、私、軽く傷つけてしまったようです。反省はしません。

 2時間で退店した後は、3人で渋谷まで徒歩移動。割と気に入ってもう3度入ってるのに未だ屋号を覚えられないとある居酒屋の4人テーブルで飲み直し。おしぼりは4つで、ここから加わったメンバーはブラック出版某社の見習い丁稚ボーヤとして絶賛修行中の63回生Mくん。今日も仕事帰りの彼を加えた4人で乾杯して(Mくんは下戸なのでコーラです)、まず最初にやったことは本にサインを貰うこと。昨年、編集者としてMくんの名前が初めて載った本、R-指定『Rの異常な愛情 或る男の日本語ラップについての妄想』、昨日のタワレコで平積みされていたやつを2冊購入して鞄に入れておいたのです。Eくんに1冊、Bちゃんに1冊、編集者Mくんのサイン本を謹呈。Mくんからは、インタビュアーとして錚々たる文化人に会った時の緊張感を伺い(これまた委細一切省略)。

 カラオケ嫌い(?)のEくんが離脱した後(ここで雑に扱ってるのは、この人とは明日のランチも一緒だからです)は、Bちゃん・Mくんというバンドマン2人とカラオケ3次会。卒業生とカラオケに行って腹から笑って面白いと思った初めての相手がMくんだった(バンドマン絶対座らないの法則!)んですけど、今日も今日とて素晴らしい熱唱でした。私は、オツカル様相手に披露する令和の名曲、折坂悠太「朝顔」をもっかい練習して(「平成」も歌ったっけ)、後は井上陽水「東へ西へ」・遠藤賢司「カレーライス」・菊地正夫「スタコイ東京」という半世紀前の3曲で若者をキョトンとさせました。満足。

 終電でホテル、健康睡眠。