いやと言えない ダメなあたしネ だから 今日まで だから 今日こそ

 健康的に起床、長めの朝風呂。ホテルを8時半過ぎに出て、向かった先は両国駅。ここで降りるのは初めて、目的地は江戸東京博物館です。初訪問なので、特別展「大浮世絵 歌麿写楽北斎、広重、国芳、夢の競演」が主目的ながら常設展の方も楽しみ。というか特別展、語彙力はどこへ行った! とツッコミたくなるタイトルですが、だってこんなのが揃っちゃったらそうなるじゃんしょうがないじゃん! という展示構成には息を呑むほか無く。歌麿美人画写楽は役者絵、等それぞれの絵師の得意ジャンル(粋)のみに絞り他を全て捨象したのは正解で(国芳のみ、武者絵と戯画との2種類が取られたため少し散漫に見えました)、ちょっと興味があるならこれが観たい、という絵が全部集まってるんじゃないかというベスト盤状態。歌麿なら「ポペンを吹く娘」、写楽なら「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」、北斎なら「富嶽三十六景 神奈川沖波裏」、広重なら「東海道五十三次 庄野 白雨」、国芳なら「相馬の古内裏」(がしゃどくろ!)、等々。
 特別展会場に15分前に到着したら列の3組目で事実上のトップバッター。歌麿は一の間、写楽は二の間、という感じでタイトルに登場する順番に一人一部屋、五つのブースに分かれた会場だったのですが、私は開場(入場)即ゴールに走って逆走観覧というやり方で、国芳(お目当て)と広重とは文字通り「無人貸切」状態で20分以上楽しめました。これだけで元は取れた。北斎写楽歌麿も、牛歩戦術みたいに順路通りにゆっくりゆっくり進んでいる人たちの後ろから遠く眺めるので良ければ観たい順番に観放題でした(身長が高いと、たまに得をします)。

 高床式倉庫を模した博物館の常設展はエレベーターで5階と6階。入っていきなり原寸大日本橋というのは知らなかったもんで呆気。大勢の外国人観光客が嬉々として写真を撮っています。徳川以来400年の歴史を網羅した常設展は大きく「江戸」ゾーンと「東京」ゾーンとに分かれ、日本橋を渡ると「江戸」ゾーン。400年前の江戸の町並みを精巧すぎる人形(一体一体が一点物)たちが行き交うジオラマコーナーが圧巻ならば、長屋・寺子屋・歌舞伎小屋・絵草紙屋・寿司蕎麦屋台等々を実寸大で再現した模型も見事。当時の庶民生活を具に学ぶことが出来る展示は外国人だけでなく修学旅行生(?)にも大人気らしく、学ラン・セーラー服姿の高校生たちが熱心にメモを取ったり、籠や火消し幟の体験ゾーンでキャッキャはしゃいだりと楽しそうでした。
 「東京ゾーン」は文明開化から21世紀まで。文明開化の街はジオラマ、浅草十二階こと凌雲閣も美しく再現されています(『絶望の精神史』の金子光晴はこれを「包茎」と呼んで卑しんでいましたが)。人力車や子どものおもちゃ等々、20世紀に入る頃になると展示品に次々と実物が登場。目移りしながら進んでいくと街は段々昭和の様相、戦争映画で観た一室(木造戸建て)、『鬼太郎』第1期・第2期で観た一室(団地)、と再現模型に見入ってしまいます。特に後者団地の一室は、3歳まで母君・父君と三人で暮らしていた大阪時代の記憶をうっすらと刺激されたり。80年代以降は家屋の模型はありません(現在とあんまり変わらないので?)が、流行のグッズ・服装や電子機器の変遷を観ると色々と記憶が呼び覚まされます。80年代の文化なんて高校生にとっては歴史の遺物だろうなぁ、と思ってたら学ランの生徒が「『今日俺』で観た!」と。成程、と思っていたら、セーラー服の少女がルーズソックスの展示を見て「ママの高校時代の写真、これ履いてた!」 マジかよ。
 序でではありますが、常設展の一部にひっそりと展開されていた企画展、永井荷風の特集も面白かったです。江戸切絵図と、その魅力を語る『日和下駄』の文章とを並べたところ、京大特講で当該の文章を授業したのを思い出し。

 2時間半たっぷり堪能(まだ足りないくらいです)したら、そのまま電車で渋谷へ移動、本日のランチは昨日の夜も一緒だった63回生Eくんと青山『LATURE』。彼とここに来るのは2度目ですが、前回はお店の定番メニューを悉く外したコース構成(何度目かの来店の私に気を遣って下さった結果)だったので、今回は名物をお願いしています。
 ①エクレア(猪油の生地・ブータンノワール・チョコ)
 ②松葉ガニ・カリフラワーのムース
 ③変わりブリ大根(ラディッシュで覆ったブリ焼き・大根のソース)
 ④パテ・アンクルート(パテに熊・猪・穴熊・鴨・野鳥、フォアグラと鹿のコンソメ
 ⑤鮟鱇のポワレ(ほうれん草)
 ⑥鹿モモ肉ロースト(赤ワインソース)
 ⑧クリームブリュレ・フロマージュアイス・パール柑(山椒・粉山椒)
 料理の名前は正式な物ではありません(写真を見て適当に書いてます)が、以上8皿、「食べたら減る」意外の欠点が一つも無く。特に、鹿モモ肉は初めて訪問した時に(オツカル様と一緒に)悶絶した物でその時と同じ感動を。

 ただでさえ月イチレベルで会ってる上に昨日しこたま飲んで喋った、という理由で会話の話題なんて無いんですけれども、ただただ「うめぇ!」「これ何!?」というやり取りだけで2時間半があっという間。Eくんが遠慮したのでアルコールは無しで、私は炭酸水、Eくんは1杯だけノンアルコールスパークリングを注文しています(店を出た後、これがグラス1800円だったと教えたら口からスパークリングしてました)。

 店を出て、「暇?」と訊いたら「暇」と答え、「歩ける?」と訊いたら「歩ける」と答える。こだまでしょうか。と言うわけで、リクルート(まだ入社前ですが)に二言は無い、歩けるんなら一緒に歩いて貰いましょう。
 E「どこまで歩くの?」
 私「水族館」
 E「どこの?」
 私「品川」
 E「……ここは?」
 私「青山……ってお前、何? 道、検索してんの? お母さんに怒られない?」
 E「母親と子どもは別人格!」
 Eくんのお母さん、『怒り新党』に「何でも検索するやつがムカツク(大意)」と投稿したらMC二人の共感を得すぎて番組に「殿堂入り」というシステムが生まれたというお方なんですね。
 E「お~、一時間くらいだ」
 私「暇と脂肪を消化しよう」
 E「マジか~」

 グーグルが1時間というなら実際は40分ちょっと、私は歩くのが人より早いしEくんはスポーツマン(ダブルダッチ)だからついて来られるので、後ろからついて来るEくんの「次の角、右」「そこは直進」とかいう指示に従いながら、ずんずん進みます。グーグルさんは最短距離を教えてくれている様子で、「こんな細い路地、抜けられるの?」みたいな裏小路も駆使、地元民しか通らない道なのか時々すれ違うご老人に訝しげにチラ見されているような気もしたり。でもって、下町裏小路を出たら大通りおされショップが建ち並んでたり、メリとハリとがすげぇなぁと歩きながら風景を楽しむ。
 私「麻布だ広尾だと、基本的にはハイソな人たちの街を通ってる訳だよね」
 E「そうですよね。何か俺たち、場違い感が半端ない」
 私「今、急に風が強いやん? 基本的に全部追い風なの、気づいてた?」
 E「えっ、街が? 街が貧乏人に出て行けって言ってんの?」
 私「お陰で早く着くから」
 実際、40分で着きましたもんね。追い風参考記録ですけど。ただ、まぁ、普通は歩かない距離を歩いた訳で、Eくんは腕につけている「何たらウォッチ」(←名前失念)の歩数計表示を見ながら、
 E「ワークアウトの表示になってる!」
 私「ワーク……って、無職? 無職って意味? 休学中のプーって腕時計にすら馬鹿にされるの?」
 E「違います! トレーニング!」
 成程、急ぎ足40分というのは「トレーニング」に分類される訳ですね。
 私「良かったじゃん、トレーニングだったら言い訳が立つ」
 E「何が?」
 私「E、考えろ。青山のフレンチから品川の水族館ってコースだぞ。こういうの、普通世間では何というか、知ってる?」
 E「……いーやーだぁぁぁっ!」
 私「そこに、アホみたいな徒歩40分の『トレーニング』をサンドイッチしたら」
 E「デート感が消えた!」

 と言うわけで、オッサンと若者の二人で「アクアパーク品川」を見物。ライトアップのクラゲからイルカショーまで堪能。イルカショーの始まる前、追加料金を払ったらイルカの頭を撫でたりのコミュニケーションが出来るというコーナー、のとこにお金持ちそうな家族連れが居たんですけど、飼育員のお姉さんに促されたお嬢ちゃんが怖々とイルカさんを撫でているその頭部から尾びれのほうに視線を転じると、
 私「あ~、絶賛排泄中ですねぇ。大きい方ですねぇ。垂れ流しですよねぇ」
 E「やめたげて、そういうこと言うのやめたげて」
 私「ショー、前の方で観る? 飛沫がかかって気持ちいいかもよ」
 E「ほんと、まじ、最悪」
 4月からリクルートのEくん、入社前に何病に罹ってんのか知らないけど、工夫を凝らした水族館の展示に頻りに感心しつつ「体験を売る」とか「ストーリー」とか言い過ぎです。ついつい、細部の尾籠で茶化したくなって。実際、最後尾の最後尾で見学しながら、イルカがジャンプするたびに二人で「「あ~」」ってなって「ストーリー」が台無し。

 品川から田町は近い。Eくんと別れてホテルに戻り、大浴場で湯浴みの後、今度の駅は代々木公園駅です。本日の夜は67回生我らB組出身(外進高1Aでも担任だったので、3年間担任をやりました)、Aさん(東大)・Mくん(東工大)のコンビと3人で福井料理です。名目は「『合格体験記』の依頼を引き受けながら仏恥義理したMくんの顔面を殴る会(with見届け人Aさん)」です。にしても、福井料理って何があるんでしょうね。飲んだことある日本酒も「黒龍」「梵」「白岳泉」「九頭龍」……くらいかな。
 代々木上原の改札でAさんと待ち合わせて、約束の時刻を5分過ぎてもMくんが現れず(Aさん曰く)「既読がつかない」という時点で、3年つき合った担任は(卒業後の半年の想像も含めて)色々お察し。忘れてるのか寝過ごしてるのかは知らんけれどもとにかく今は自宅で夢の中だな(Mくんは残念感はありますが卑怯な人間ではないので「殴る会」から逃げることはあり得ません)。取り敢えず2人で店まで歩きます。20分後に連絡がついて、そこから30分後には到着するというお返事、コース料理を注文してるのにざっくり1時間遅れるというのはあれですが、初入店の「四季ごはん 晴れ間。」の店員さんは笑顔で対応して下さいました(良い店で良かった!)。コース料理提供のリズムを完璧な調整で合わせてくれた女将さんに脱帽の多謝。福井料理はとても美味しくて(せいこ蟹の釜飯が最高でした)、全然知らなかったのですがAさんの実家が福井だということで女将さんとのお話も弾んでいたので良かった。
 Mくんが一時間遅れで到着した時には元担任は大抵酔っ払ってほよほよになってたから、正直Mくんと何を話したかはさっぱり覚えていないけれども、集合の遅れ方からどういう生活を送ってるのかは薄々想像がつくので問題ありません。あ、帰り道の電車駅プラットフォームで、「合格体験記」と今日の遅刻の分とを合わせて折檻しときました。因みに、Mくんへの連絡をAさんに任せっきりにして私からの連絡を怠ったのは幹事痛恨、次に誘う時(あるのか?)には、Mくんが嫌がるくらいしつこくメールしようかな。Mくん、20歳になったらお酒を飲む! って言ってたからその後ですかね。

 今日は終電ではなく22時過ぎという真っ当な時間(大学1年生が相手ですので)にホテル帰還。コンビニで買った缶ビールで軽く飲み直して、健康睡眠。