夜が始まる のけぞる背中に 喝采の渦

 5時半起床、入浴、着替え、旅行準備(荷物のチェック)。7時半過ぎに自宅前の停留所からバスに乗って、花畑駅を7時53分に出る西鉄の急行に乗りました(花畑駅でニモカに6000円のチャージ。上京中の電車・バス移動はこれで賄えると思います)。これまでの上京では、JRから博多まで新幹線で出てから「のぞみ」に乗りかえるか、西鉄から高速バスで空港に出てから飛行機か、という2つの手段のどちらかで、西鉄電車・地下鉄の乗り継ぎで空港に向かうのは初めてです。
 初めてと言えば、旅行での上京中に夜が独酌(酒アリの『孤独のグルメ』)なのも初です。大学生に奢るなんてのはとても無理、社会人だって誘いにくい、という「お高い」店を一度だけ体験してみようと思い、予て興味のあった代官山の割烹を選びました(「ジップロック・チャレンジ」では値段設定を30000円にしています)。今年いちばんの贅沢。

 福岡空港には離陸予定時刻の30分前に到着したのですが、30分前だと手荷物検査場は「優先レーン」に回されるとのこと。有難いっちゃ有難いですけど、30分も前に到着してるのに「遅い!」と言われるわけね、と若干釈然としない思いも。上は、黒のTシャツの上にジャケット、更にコートという3枚(旅行中は、Tシャツだけを着替えます)。手荷物検査ではジャケット・コートは脱がないといけないのですが、ジャケットの内ポケットには20万近くの現金を入れたジップロックが入っているので、脱ぐ時は少し緊張。
 朝・昼は食べないつもりでしたが、夜のお高いお店で空酒というのも危ないかと思い直し、飛行機に乗る前に軽食とお茶のペットボトルとを購入(予定外の出費、506円)。「おにから」という名称のおにぎり弁当(かしわおにぎり・卵焼き・竜田揚げ)だったのですが、「から」が「唐揚げ」の略だというのに暫く気づきませんでした(だって、竜田揚げだったから)。飛行機は快適とまではいかないながら恐怖感を覚えることはなく。乗車率は50%程度。機内サービスのドリンクはコンソメスープを選択。読書及び『ユーミン乾杯!!』。

 羽田着の後は、品川駅乗り換えで宿のある池袋に向かいます。モノレールを使わず品川駅に向かうのは、駅構内にある「サザコーヒー」でHさんへのお土産を買うため。到着直後にお土産というのが定着しています。コーヒー豆を3種類アソート、箱代・郵送代を含めて5483円。「ジップロック・チャレンジ」をしているので値段の記録が細かい(レシートを捨てないというのは人生で初めての経験です)。
 池袋に移動してホテル(北口繁華街の中)に荷物を預け、小さな(博多織の)手提げバッグだけを持って出発。本日の観光は上野です。科博の『和食展』はチケットを予約済みだったのですが、コンビニで発券する時の手数料(110円)を考慮に入れておらず、これは本日予定外の出費ということに。

 科博の特別展『和食』、自炊を始める前だったら行かなかったかも知れませんが、これは行って正解の楽しい企画でした(ここを皮きりの巡回展らしいのですが、福岡に来るならもう1回行ってもいいかな、というくらい)。以下、雑感列挙。
 食は土地の風土(自然・生態系・気候条件)によって決まるので、展示は先ず日本全国の水の硬軟分布からスタート(料理人の平野寿将氏が『馳走 そったくいと』を広島で開店した決め手は水だったと聞きましたが、確かに広島は分布図の中で周囲と際立った異なり方をしていました)。その後、日本人が食材とする動植物の展示。キノコは食べられるものと毒キノコとを比較展示していたり、マグロは7種全部が展示されていたり、20mの昆布が宙を舞っていたり、色々楽しく。人はこんな物やあんな物まで食べるというのだから貪欲極まれりであることよ、などと思いつつ。
 後半は、縄文以来の歴史の中で日本人の食がどう変わってきたかを概観。歴史上の偉人の食膳や『豆腐百珍』等レシピ本のメニューを再現していたり、式庖丁の実演映像があったり。江戸期の鰻蒲焼き・初期のライスカレーが予想と違う姿をしていたのにちょっと驚きました。
 昔、『マジカル頭脳パワー!!』の所ジョージがカリフラワーの名前を思い出せずにず〜っと「ブロッコリーの白いの」と繰り返し続けるというシーンがありましたが、日本伝来の順序からしたらブロッコリーこそが「カリフラワーの緑いの」と言われるべきだったんだなぁ、とか阿呆みたいな感想が浮かぶ43歳。終盤の全国雑煮再現モデルには(隣の幼児が引くほど)興奮してガラスケースにかぶりつきました。
 自然科学・人文科学・社会科学のアプローチを駆使した展示の最後は、カレーライスは天ぷらは焼きそばはカップラーメンはアンパンは……和食だと思いますか? というアンケートの集計結果。展示全体を通して、日常の中で内面化され忘れていた「和食とは何か?」の問いを訪問者個々人の中に喚起する、という目的があったならば、今回の企画は「科学」であると同時に「芸術」でもあったと言えるのかも知れません。

 さて、上野では隣にある西洋美術館の『キュビズム展』の梯子を考えていたのですが、入口の大行列を見て断念(チケット代で想定していた2000円は浮きました)、池袋に移動して聖地「ジュンク堂書店」本店へ行くことにしました。「ジュンク堂」へは本当は明日訪問するつもりだったので、ここでの収支は明日の日付のノートに記載です。
 ジュンク堂は先ず1階の新刊・話題書展示コーナーをチェック、続いて地下1階のマンガを見て、エレベーターで最上階に上がってから1階まで下っていくといういつもの流れ。仕事用の本と趣味用の本とは境が判然せず。欲しかった本や気になった本を適当に籠に入れていったら、今回は収穫がやや少なめで会計が(想定していた)20000円を超えず……もしかしたら、無意識に欲望を抑えたのかもしれません(だとするならそれは本意ではなく)。購入した本は大晦日に自宅に到着するよう配送手続き。あと、どうでもいいですが、店内で1円を拾ったのもきっちりノートに記載しなければ金額が合わなくなるので、後から支出欄に「-1円」と。

 ホテルにチェックイン、入浴。夜の予約はお店の開店17時と同時なので、16時半というまだ明るい時刻にホテルを出発です(と、思っていたら、17時前にはすっかり暗くなってしまいました。年末ですね)。目的地は渋谷、そこから明治通りを恵比寿方面に10分も歩いたら予約した店はあります。懐石だとK市の「G」と比べてしまう(そして「G」が勝ってしまう)ので、今夜の『孤独のグルメ』は割烹を選びました。

 上京旅行初日の夜は、お一人様で贅沢なお店へというコンセプト(私から私への一日遅れのクリスマスプレゼント)で、代官山の割烹「いっさい喝采」へ。オープンキッチン陰翳照明コの字木彫カウンター洋楽BGM、お洒落店内でビブグルマン割烹コースに日本酒ペアリング。
 メニューは以下。淀丸大根風呂吹き(ポルチーニ味噌)、和牛握り、虎河豚湯引(土佐酢ジュレ)、白子天麩羅、お造り7種、サーモンレアカツ、ローストビーフ、土鍋ご飯・鰻蒲焼き・味噌汁・漬物、甘藷ブリュレ。
 ドリンクは瓶ビール(熟撰)1本の後で日本酒に移行。「みむろ杉」〜「作」〜「赤武」〜「〆張鶴」〜「天狗舞」〜「天明」の6銘柄が提供され、90ccグラスだったので全部で3合です。
 私以外に4組、計5組で平日夜が満席の人気店(お店は2部制で、2部も満席だそう)。他4組は、飲食業界忘年会3人組、インバウンドカップル、お嬢様大学生女子会3人、常連風の20代ご夫婦。店主氏は元はアメリカの和食店ミシュランの方だそうなので当然ながら、和装の女将さんからバイトの若者(目が行き届いていて優秀な感じ)まで全員がイングリッシュOK。日本酒は全て女将さん(笑顔と人当たりとが良い感じ)の差配でした。
 貧乏性なもので、周りの客の殆どが、大根の出汁・味噌だったり寿司のガリだったり刺身のつまだったりどうかしたら土鍋ご飯だったり、を残して皿を下げさせるのに吃驚。私が一番乗りの客だったのですが、2品目の肉寿司の皿にガリが残ってる状態でバイトくんが下げに来たから思わず「待って……!」と袖に縋ってしまいお互い恥ずかしくなるなど。でも、特にご飯は勿体ない。私も普段土鍋で米を炊くんですが飯粒には執着があり、独り客の旅の恥ですから貰ったお茶で土鍋の中を洗って食べました。
 コース13500円(12月は繁忙でコースのみの予約受付。普段は単品があるそう)、ドリンク約6000円で会計は20000円弱。味は乙の上、K市いちばんの「G」にはやっぱり及びません。日本酒の揃いはこっちの方が断然上ですが。総じて満足。因みに、Facebookの投稿で「2万弱って代官山なら安い方なのかなぁ」と書いたら、在東京のF校同期から「代官山でも高い」と指摘がありました。私の周りは日本酒ではなくリストのワインを注文していたから、客単価はもっともっと高くなるんじゃないでしょうか。怖。

 池袋に戻って、コンビニでビール梅酒つまみを買い込み、部屋で本を読みながら飲み直し。読んでる本は古川ロッパの戦後食随筆(河出文庫)で、観光の『和食展』と合わせて今夜の『孤独のグルメ』の気分を高めてくれました。

 本日の「ジップロック・チャレンジ」、結果。飲み直しつつヒリヒリしながら計算して(酔っぱらってるから計算を間違えがち)、収支と残金とが一致したら小さなガッツポーズ。
 【設定】
 ①名目「旅行準備」/設定「1000」/支出「942」
 ②名目「ニモカ」/設定「5000」/支出「5000」
 ③名目「空港まで移動」/設定「2000」/支出「1000」
 ④名目「キュビズム展」/設定「2000」/支出「0」
 ⑤名目「いっさい喝采」/設定「30000」/支出「19790」
 ⑥名目「お土産珈琲」/設定「8000」/支出「5483」
 【予定外】
 ⑦名目「ブランチ」/設定額無し/支出「506」
 ⑧名目「発券」/設定額無し/支出「110」
 ⑨名目「コンビニ」/設定額無し/支出「1902」
 ⑩名目「拾得」/設定額無し/支出「-1」
 【結果】
 設定「48000」/支出「34732」