千切れた ふたりだけの 腐れ縁が重い

 5時過ぎの自宅居間。外は雪。路面凍結。しかし、西鉄電車は停まっていない(ホームページで確認)、私は体調不良ではない(実は、21日の夜に二次会で合流した先生のうちお一人がその後インフルエンザを発症)、ということで入試代休の本日は予定通りに福岡市へ出ることへ。『ローマ展』がメインですが、その後博多駅で映画を観る計画もあります。

 雪は殆ど止んでいますが道路は凍結、未明の車はどれもノロノロ運転で、歩行者(革靴)の私も恐る恐るの移動。自宅前のバス停に、チェーンの音を響かせながら西鉄行きのバスが到着したのは、予定時刻を20分過ぎた頃でした。出勤ラッシュの快速電車で西鉄福岡まで移動、二日市を過ぎたあたりからは雪の影響が全く見えなくなっており、酷かったのは筑後を中心としたエリアだけだったということが知れました(福岡ではずんずん歩けると判って安心)。

 『ローマ展』の開館時刻は9時30分、会場となる「福岡市美術館」には(ど平日で客が少ないだろうから)15分前から並ぶとして、8時に西鉄赤坂駅に到着して駅近くの喫茶店でモーニングを摂れば時間的にはバッチリ……という計算は合っていたのですが、目当てにしていた喫茶店が臨時休業だったのは運が悪かった。どっかしらにあるだろうと期待したカフェが大濠公園駅周りに見当たらず、渋々公園入口にあった「ミスド」に入りました……ら、ここがいきなり「大当たり」の店舗で。
 レジ横にはジュークボックス、そして客席中央には稼働中のメリーゴーランド。調べたら、バブル期に次々とオープンした「21型店舗」、現在もメリーゴーランドが稼働している店舗は全国に3軒だけしか残っていないのだそうです。入店時は「カフェ1軒見つからんってどういうことだよど田舎でもあるまいし」と心の中で毒づいていたのですが、80年代の店舗内装がそのまま30年超残された(閉店もせず大規模改装もせず)というのは、程々に客は来るけど都心からは遠いという塩梅の良さが原因なのでしょうか。
 小学6年生の長期休み、母君から与えられた1日500円の昼食・おやつ代を2日分貯めて、1日おきに魚町(←ローカル)の「梅の花」(現在は閉店)で800円のランチを食べていたというのは嘗て書いたことがありますが、その帰りに「ミスド」でショコラフレンチが1つ買えたというのを、童心にかえった序に思い出しました。

 『永遠の都 ローマ展』、東京・福岡2会場で開催のこの展覧会の、福岡会場でだけカラヴァッジョ『洗礼者聖ヨハネ』が公開されるということで、平日ど頭訪問ジャストのタイミングを探っていたのです。想像通り雪予報極寒の大濠公園は人通りも疎らで、15分前到着の私が一番乗り、開場までの15分で私に続いたのは人生のベテランご夫婦が1組だけでした。
 カピトリーノ美術館のコレクションを選りすぐり、①ローマ建国神話の想像、②古代ローマ帝国の栄光、③美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想、④絵画館コレクション、⑤芸術の都ローマへの憧れ、⑥特集展示(カピトリーノ美術館と日本)、という全5章+特集展示という会場構成。とにかく私が観たいのはカラヴァッジョだったので、会場入りして直ぐに近くの係の方に「順路自由でいいですか?」と伺い「どこからでもご覧ください」の言質を頂戴した後は、脇目もふらずに④絵画館コレクション、に直行。カラヴァッジョを30分間独占しました。
 『洗礼者聖ヨハネ』、やっぱりエロい、どエロいよ……。子羊を抱き寄せる裸体の見返り美丈夫、本邦初公開なんですって。光の当たり方がどうだとか描かれているのは本当に聖ヨハネなのかとか色々解説が書いてありましたが、いや、もうこんだけエロかったら別にそんなのいーじゃん、と。ポーズ(子羊の抱き寄せ方、振り返り方)がエロい、筋肉がエロい、肌がエロい、そして何より目(表情)がエロい。まさかまさかの撮影OKだったので、全身像、胸部から上、顔のアップ、等ばしゃばしゃ。
 30分間確り堪能した後、最初に戻って順路通りに観て回り(説明感想略。カラヴァッジョさえあればいいの)、最後に『聖ヨハネ』を10分延長(?)してから会場を出ました。図録は購入していませんが、葉書サイズ・A4サイズの『聖ヨハネ』とカラヴァッジョの評伝集(平凡社ライブラリー)を購入(チケットは現金オンリーでしたが、グッズはカードOKでした)。

 グッズを購入している最中に館内放送、常設展示のボランティアガイドさんによる案内(無料)が10分後にというのに飛びつきました。2年前に「ふくやま美術館」で参加したのが楽しかった記憶。すると、60~70代の男性の方を、私一人が独占するという展開になりまして。
 で、先ずはご挨拶をとお互いの来歴(職種)を話したところ、なんとガイド氏が偶然にもF高の先輩(私の3つ上)のお父様だったということが判明。ガイド氏は保護者時代に、ご趣味の小説を国語科の某先生に添削していただいた経験がおありになる等、F校への思い入れが随分お強いご様子でお話が弾みました。ガイドコースは本来は3点の絵画作品について40分程で解説を受けるというものだったのですが、私と二人きりだということもあって結局コース外を含む様々な場所(というか、常設展示を中心とした館内全域)を、たっぷり90分かけて案内していただきました。御縁ですね。

 大満足で美術館を後にし、地下鉄で博多駅に移動。本来なら30分~1時間程の余裕をもって到着してカフェにでも、と思っていたのですが美術館が楽しすぎて結局到着したのは上映開始とほぼ同時でした(CMの途中で入場)。水木チルドレンが年跨ぎで未体験だったのはお恥ずかしいですが、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(PG12。眼球フェチにはたまらないグロあり)を鑑賞。公開から既に2ヶ月、しかも平日の昼過ぎだったのですが、客席は3~4割の入りです(人気は本当なんですね)。以下、ネタバレ回避を心掛けつつ、感想。
 秀、★★★★★。『鬼太郎』はそもそも水木翁の漫画原作の段階で「公式」概念が曖昧な作品で、且つ翁自身が幾つもの平行世界を描いてもいますから、今回の映画(アニメ第6期沢城鬼太郎の世界)の脚本・演出全ては一つの世界線・解釈としてアリの立場。「けんかはよせ」と「反戦」とのイズムへの敬意が充分に見られたのでそれで良し、だと思います。父夫婦の来歴詳細の描写を省略したのも、後日譚(父・水木の再会から鬼太郎誕生まで)をエンディングの無音漫画描写で済ませたのも、水木の体液描写を上半身からのもの(汗泪鼻血鼻水涎吐瀉物)に限定した(女性だったら他に母乳というのもありますね)のも、補完ばっち来いという二次(三次? 四次?)創作への配慮なんじゃないかな、と想像(父にも水木にも、創作系乙女が萌え狂う属性がみっちりと詰め込まれていました)。パンフレットを買う癖を持っていないので詳しい設定や裏話は知らないのですが、凹凸バディ物のハイライト、水木が父へ吸いかけのタバコを渡すシーンで、タバコに火を点けたのがつるべ火(作中で固有名を呼ばれる本当に数少ない妖怪の一種)だったというのにもちゃんと意味があるんだとしたら熱いですね……あ、「ハイライト」も「遊び」も言葉遊びではなく。水木が吸っていた銘柄は勿論「Peace」です。
 昔から私、「煙草(タバコ)」という語を口に出したり文章に書いたりするの、ちょっと恥ずかしく感じてしまうんですけど(分かる人、居ます?)、今回はしょうがないですね。

 K市に戻って夜は小料理屋「U」。17~19時で店・女将さんを独占(天気が荒れてますからね)、帰宅後に軽く飲み直し。

 服部昇大『邦キチ! 映子さん Season10』読了、★★★。
 碓井ツカサ『異世界居酒屋「げん」(11)』読了、★★★★。