1人は気楽よ 気の向いた時に足の向くまま寄り道もできる

 コロナ禍は継続中ですが、国家統制による休校や、自主的措置としての時間差登校が無い今年度。大雨や事故で西鉄がストップすることもなく、当日の突発的な時間割変更が全く起こらない。今年の時間割業務はぬるゲーだねぇ、と思っていたら一つ変なの(というか、よく解らないの)がやってきました。
 ワクチンの職域接種。親玉大学で行われる職域接種、F校職員室も勿論対象になっているんですが、それに伴うちょこちょこした時間割変更が必要みたいなんですね。で、接種当日の当該の先生の時間割変更、なんてのはお茶の子瞬殺なんですけれども、「考えるべきなのかどうかを考えなきゃならないのかどうか解らずに困っている」(←面倒臭い)のは2度目の接種の後の副反応(?)というやつ。要するに、午前中接種の後の午後の授業とか、接種翌日の授業とか、出来るの? という問題。
 取りあえず、そういうのは全く考えずに機械的に授業を入れています(私も、接種翌日に授業・添削が入っています)が……?

 コロナ禍でスイッチの入った「1人旅のススメ」(by中島みゆき)、準備の際にはついつい「1人なら何回寝返り打っても~♪」と鼻唄(はなうた)ってしまう魂百(たまひゃく)感も我ながら心地よい未明のリビング。1泊2日ですので、着替えも荷物も最小限ですが、バッグはそれに釣り合わぬ大きなものを選びました。帰るまでにバッグをいっぱいにするのが旅行の主目的なのですから。
 授業無しの今日・明日を年休にして1泊2日の平日旅行。「密」の心配なんざ一切無い、と言ったら旅先の町に対して失礼かも知れませんが、何せ電車の駅も町の外から向かうバスの路線すらないという辺境の町ですんで。多分誰かがクイズにしているんでしょうけれども、「あの」長崎県で唯一、海に面していない市区町村です。波佐見町は焼き物の町で、焼き物の町だということは山奥にあるということで。旅の主目的は「自粛御膳」用の小皿の買い出しですが、棚田の絶景も見られるそうで観光も楽しみ。

 JRのK駅から有田駅(ここは佐賀)までは鳥栖乗り換えで1時間強。乗客の居ない特急列車(指定席)の中では、車窓を眺めながらUAの古いアルバムを聴いていました。有田駅から波佐見町まではタクシーで20分強、途中で佐賀と長崎との県境を越える訳です。福岡→佐賀→長崎、と緊急事態宣言下に2度の越境。

 K市を出発したのが7時ですから、9時過ぎには波佐見町中心部着。「くらわん館」という名の建物に波佐見中の窯元の作品が集まった売り場があり(早朝9時オープン)、そこを30分程見学して良さそうな窯を幾つかリストアップ(その場で買いたくなったものもいっぱいあったのですが、窯まで行けば安く買えるというのを聞いていたのでここでは自重しました)。

 佐賀は有田ではなく、長崎は波佐見を選んだ理由は何か。
 幾つかあるんですが、何はともあれとにかく安さですよ。値段が全然違う。「くらわん館」をざっと見て回ったら、自宅にある小皿と全く同じものが2つありました。それと知らずに私か母君かが買っていたのでしょう(母君はそれとご存知だったのかも知れませんが)。或る資料には日本の家庭用の焼き物の13%は波佐見焼きだと書いていたくらい「普段遣い」向き、大量生産で値段もリーゾナブルです。だからこそ日本一の登窯(観光の目的地の一つ)もあるわけです。お芸術価格の有田焼とは出自も歴史も違い、私に相応しいのがどちらかなど考えなくても解ります(私にとっては波佐見焼きもかなりの贅沢品なんですけれども)。
 もう一つの理由は、向田邦子のエッセイ「食らわんか」の影響です。もう何度か作った豚鍋のレシピと共に、あの名文からは「食らわんか茶碗」の歴史も教えて貰いました。その「食らわんか茶碗」の産地(の一つ)として有名なのが波佐見だと知ったので俄然興味が湧いたんですね。有田から波佐見へのタクシーの中で運転手さんと話をしていて、何故有田ではなく波佐見なのかを問われた時に向田邦子の名前を挙げたら、それは知らなかったので是非読みます、とお礼を言われてしまいました。運転手さんはかなりの波佐見焼き推しでいらした様子。あの文章には、「くらわんか舟」(船上で船乗り相手に惣菜を売った売舟、ここで使われた丈夫で安価な焼き物が食らわんか茶碗)では食べ物以外にも売られたものがあるというやや微妙な記述があったのが気になりますが、まぁ読み飛ばしてくれますよね……。

 一週間前から予約していた「観光タクシー」は9時半のアポイントメント。以前、宮崎県は綾町を回った時に使ってこれは便利と味を占めたサービスが、波佐見町ではもっと安価に提供されていました(2時間で3600円)。土地に詳しい運転手さんの解説を聞きながら名所を回れるのはひとり旅にピッタリ(勿論、複数人数で利用すれば金銭的には更にお得です)。前回の綾町は坂道が多くて(特に大吊橋までの道は車以外では不可能だと思われ)タクシーが有難かったのですが、ここ波佐見町ではそれ以上の有難さ、というか観光タクシーじゃなかったら(例えば自家用車とかレンタルの電動自転車とかでは)観光は殆ど不可能に近いんじゃないかと思いました。
 何しろ、行きたい場所が天然の棚田と、焼き物工房密集の中尾山です。地元民か余程の玄人かでなければ移動は無理だろうと思われる道の細さとくねり具合と、更に急勾配の上がり下がり連打です。

 午前中2時間の観光タクシー。先ずは鬼木の棚田に行って貰いました。2箇所の展望台から眺める棚田は絶景、人生初の体験です。6月水無月は「水の月」、田んぼには水が引かれて輝いています(運転手さん曰くもう少し立てば稲が育って戦ぐ風景が見られるとのこと)。大部分が水田ですが、頂上付近には茶畑が広がっています。お茶の葉を触れるほどの至近距離で見たのは初めて。
 その後、焼き物の里と言われる中尾山地区へ。嘗ては馬が行き交ったという細い道を進めば、江戸時代から昭和初期まで使われていたという登窯(中尾上登窯)跡。山の傾斜沿いに33室の窯が並んでいた跡が160mも続いています(山登り往復の間、タクシー運転手さんには下の道で待機して頂きます)。頂上部の31番目・32番目の窯が再現されており、壁のボタンを押せばスピーカーから登窯跡についての説明が流れてきました。280年間に渡って大量の陶磁器製品を全国各地へ送っていた日本一の登窯、江戸当時では世界最大級の規模だったとか。

 タクシーうねうね、煙突を見たりコンクリート塀に陶器が埋め込まれているのを珍しがったり。登窯の下にある「中尾山交流館」では、山にある18の窯元の作品が全て展示販売されていました。案内のおば様の説明を独占、行きたい窯元を2つ決めた後、それ以外の窯元の気になる製品(ビール用の小さな陶器2種)を購入。コロナ以前は全国どころか海外からも大勢の客が来ていたとのこと。
 最初に向かったのは「一真窯」(ギャラリーショップ「とっとっと」)。白磁にカンナ手彫りの美しさに惹かれた中でも値段を見ずに絶対買うと決めたのが28cm(ほぼ八寸!)のスクエアプレート。直接料理を載せても良いし、他の食器を上に置く台にも使えるとの説明、完璧。しかも、別売りで14cmのスクエアプレート(7cmスクエアに4分割されていて、4種類の肴を置けます)や、7cm×28cmの横長プレートなど、パズルのようにはめ込める皿もあるというのですから。頭の中で、波佐見焼き(偽)八寸プレートの妄想が広がりまくりです。他に、冷奴のお皿が欲しかったのにぴったりだったブルースプレッドボウルも購入。K市から来たとショップの方に言ったら、K市のカフェバー「S」がここのお皿を使っているということで店のチラシを貰いました(まだ行ったことのない店ですが、今度行ってみようかな)。因みに、今回訪問した窯やギャラリーの中で、私以外の客がいたのはこの「とっとっと」だけでした。
 次に向かったのは「筒山太一窯」。「交流館」のおば様曰く、中尾山でいちばん高い所にある窯元ですが値段は高くないから安心して、とのこと。確かに(運転手さんを待たせているので)早足で歩いたら息切れしそうな山の路地。「当方(あてっぷ)通り」だとか「桜坂通り」だとかの標識も全部磁器で出来ています。ここの窯元は工房の中に小さな売り場スペースが。太一氏と思しき方が直接応対してくれました。欲しかったのは、金彩釉の施された食器で、小さなボウル(小皿?)・焼酎グラス・茶碗の3種類を購入。更には、膨大な種類がある釉薬の置き場から窯の中まで、解説付きの見学までさせて頂けました。
 因みに、中尾山の工房で直接商品を買い求めたら、一般小売価格(町の中央部で買ったりオンライン通販で買ったりする値段)の3~4割引で購入できます。滅茶苦茶お得。

 2時間はあっと言う間、町中央部のギャラリーをもう1箇所回って貰えるということだったので、「和山」というお洒落食器を扱っているお店に寄らせて貰い、豆皿・小皿を購入。その後、町の中央部にある「西の原」という施設の前で降ろしてもらいました。
 「西の原」での目的は昼食。お洒落カフェ「モンネ・ルギ・ムック」でランチのココナッツカレー(お皿は勿論、全て波佐見焼です)を食べました。店先にはタオルを曲げて作ったてるてるワンコ(てるてる坊主の顔の部分が犬になったやつ)が。波佐見の昨日は雨で明日も雨だそう、合間の晴れはワンコのご利益かも知れません。

 とぼとぼ歩いて町中央部の「やきもの公園」、ここは今朝最初に到着した場所で、大きな公園内には古今東西の窯が再現されており、写生道具を首から下げた園児たちが観光案内の方に先導されて楽しそうです。暫く散策した後、朝も訪れた隣接の「くらわん館」に。ショップ内で(学校で仕事中の)事務嬢さんとやり取りをしつつ、お土産皿の買い出しを。
 戦利品を整理しつつ、近くのカフェで一休み。既に時刻は15時を大きく過ぎていて、買い物・観光はこの辺りで打ち止め。カフェの店員さんにタクシーを呼んで頂いたら、やって来たのは先程の観光タクシーさんでした。車で20分強、町郊外のホテルにチェックイン。有田からのバスも無い町に何でこんなにお洒落なホテルが(今回は割引7000円ですが、正規なら1泊30000円弱です)、と失礼なことを考えてしまう私。長崎キヤノンの本社がある関係から、出張宿泊の客は多いと運転手さん談。

 チェックイン。すっかり重くなったバッグを漸く手放すことが出来ました。ホテル徒歩2分の場所に天然の温泉施設があるというので、湯浴みとサウナとを目当てに直行(ホテル利用客は無料)。シャワー→室内湯→シャワー→サウナ→シャワー→露天風呂→シャワー→サウナ→シャワー、と色々梯子しながら1時間弱。お湯はとろみがあって蓴菜気分、サウナ2回はそれぞれ12分。スッキリしました。浴室内には大きな張り紙で「黙浴」の文字、新しい言葉がどんどん、中島敦風に言えば野鼠の様に生まれていきます。

 6/17は「自粛御膳」をお休み、波佐見町の中華居酒屋「点心屋台 くまや」で黙食黙酌黙読。
 キムチ・麻婆豆腐・水餃子・よだれ鶏。ビール・紹興酒
 日記に「をお休み」と書くのは久々、歓喜、なれどご時世柄福岡からの旅人(予約時に出身を伝えた上でOKを貰いました)が長居は出来ないので、開店と同時に入って1時間で出ました(常連さん続々でした)。後はホテルで飲み直しです。帰りのタクシーでセブンイレブンに寄り道して貰い、波佐見町の地酒「六十餘洲」の小瓶とお惣菜を少し。このお酒は「日本酒チャレンジ」踏破済み(67回生文化委員長Mくんと飲みに行った中州「せいもん払い」で取り扱ってた記憶)。

 部屋で読書独酌、健康睡眠。愉しい一日で御座いました。