小さな旅館で一泊することにした なんだかとっても素敵な夜だった

 フロム・ミー・トゥー・ミー。脱厄年の誕生日を自己プロデュース、そうとても悲しいけどそうなぜかとても自由。本日から1泊2日の温泉旅行、目的地はK市から電車で90分の近場ですが県境は跨ぎます。初訪問の武雄温泉は佐賀県、ということはちゃんとした旅館に泊まれば朝食に温泉湯豆腐が出てくる訳です。万太郎「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」は殆ど辞世の句と言われていますが、脱厄年で湯豆腐が一番の好物である私にとっては再出発の句、8/8の誕生日を湯豆腐の朝食から始めるため(だけではないですが)の独り旅です。

 電車出発時のK市(8時半過ぎ)は雨模様、天気予報によれば武雄は昼頃から晴れるとのことです。車内ではCDウォークマンを取り出してUAの新譜『Are U Romantic?』を聴きます。CDウォークマンを取り出した途端、近くの女学生2人組の一人が笑いを堪えながらこちらを指さしたのが解りましたが全く気にしません(っつーか、これが何かを知っているならあなたは大したもんだぞよ)。UAといえば6年前の前作『JaPo』(ポリフォニーがモチーフ)では最早地上の人ではなくなってしまったと言って過言では無いくらい遠くへ行ってしまってましたが、岸田繁~Kj~ハナレグミ~JQ~中村佳穂~マヒトゥ・ザ・ピーポー……の6氏が「おおきなかぶ」みたくうんとこどっこいしょして、何とか彼女を地上に引き戻そうとしたのが今回の新譜、★★★★。聴いている内に、外がどんどん晴れていきました。

 10時過ぎに武雄温泉駅着、温泉街は駅から徒歩15分で、辰野金吾設計の有名な楼門が聳えるその極々近くに今回の宿泊宿「扇屋」があります。予め電話で伺えば荷物だけ預かって下さる(チェックインは15時)ということでしたので、先ずはフロントで荷物を預けがてらご挨拶をして、それからタクシーを呼んでもらいました。旅館の食事は(特に「扇屋」は料理旅館を謳っていますので)量が多いというのが相場ですので、先ずは早めの昼食をということで、タクシーの目的地は武雄でも人気だというラーメン屋です(運転手さんはしょっちゅう行くと仰有っていました)。

 宿からタクシーで15分南下したらラーメン「来久軒」。開店11時の15分も前に着いてしまいましたが駐車場には既に2台が停まっており、名簿の記入は私が3組目でした。11時ジャスト開店でその5分後には50席超の店内は満席、外には小さな行列が出来ています。人気は本当。「特製ラーメン大盛り」(1050円)、チャーシューに生卵、ネギ。豚骨スープは濃厚どクリーミー、これはK市でもあまり覚えが無いレベルで、強引にどこかを引き合いに出すならもう閉店した「丸福ラーメン」(花畑→国分)になるでしょうか。そのどクリーミーに更に卵黄トッピングというのは私には酔狂に思えますがここは郷に入っては。柔らかい細麺はスープによく合いますが、やっぱり生卵は蛇足かな……と隣席に目をやったら、常連然のオジサマが白飯にスープと卵黄とを乗せていてこれが「正解」だと直観しました(卵黄を割った後で手遅れでしたが)。

 「来久軒」から北に100mの場所に「御船山楽園」という自然公園(庭園)があります。1845年に武雄鍋島家の鍋島茂義が完成させた「萩の尾園」が元になっており、標高210mの御船山の断崖を借景に数十万の植物が咲き誇る、武雄を代表する人気スポット(全部タクシーの運転手さんの受け売りです)。ただ、その大庭園はさくら・つつじ・もみじの名所なので8月の今は完全に季節外れ、チケット売り場の方に「何も咲いてませんが?」と確認されるほどでした。花らしい花は殆ど終わりかけた紫陽花、紅葉の葉に一部少しだけ色づきかけたものがある、くらいの「過渡期」の訪問。ですのでどうやら客は私だけのよう、大庭園ALONE。山肌峻厳に見下されつつの山歩きは愉しく、最後には五百羅漢の洞窟があるなど結構な満足感を得られましたけれども。

 道が分かれば両の足で歩けばよい、と温泉街まで徒歩20分、道を折れて更に15分、「塚崎の大楠」は市では知られたパワースポットです。舗装無しの細い山道を登るのは骨でしたが、旅行先の長歩きは私的「あるある」なので無問題、但しシャツは既にグチョグチョになっています(まだ13時前ですが)。

 「塚崎の大楠」から徒歩5分強、「武雄神社」は(境内に色とりどりの和傘を配置するなど)インスタ映えの見所をプッシュしまくりで、夜のライトアップは「チームラボ」と組んでるとかなんとか。コロナ退散の願掛けの後は、御神木である(こちらもパワースポットとして知られる)大楠を拝みます。大楠、根本から下部の大きな虚(うろ)にかけて階段が設えられているということは嘗ては近づき触ることも出来たのでしょうね(現在は枯れ枝落下の危険を理由に15mほど離れた所までしか近づけません)。
 それにしても、神社敷地内はずっと環境音楽雅楽)が流れっぱなし、サウンドスケープ演出なんでしょうが、御神木までの参道と御神木周りとの音響なんて最近のシネコンかっていう迫力で却って雰囲気を削がない? と心配になる程。このねなからましかばとおぼえしか。

 タクシーを呼んで「武雄温泉物産館」へ。ここで何かお土産が買えないかと期待したのですが正直やや期待外れ。色々な物は売っているんですが殆どが生鮮と惣菜、観光客より地元の人が買い物に訪れるスポットのようでした。そして、ぶっちゃけ武雄にはお土産になりそうなものがあまりありません。
 徒歩20分で再び武雄温泉駅へ。この駅構内にお土産屋・観光案内所がある、とネットで調べていたのですがこれが今は閉鎖中だったのが痛かった。それもその筈、現在の武雄温泉駅は来る9月の新幹線開通に向けて工事の真っ最中なんですね。新幹線だから関係無いかも知れませんが、開通の暁には在来線ホームでICカードが使えるようにはして欲しいところ(有田に続いて今回も、駅で現金を支払って証明書を貰いました。K市帰還後にK駅でICカードのリセットをお願いしないといけません)。あと、新駅舎内に出来るらしい「武雄旅書店」なるショップ、図書館が「アレ」な街だけに若干の不安も湧きます……(とTwitterで呟いたらノダシュー氏が直ぐに調べて下さいました。やっぱりCCCだそうです)。

 歩き過ぎて身体が限界に近づいていますが、温泉街に戻った時点で時刻は14時過ぎ。チェックインまでもう少し時間を潰さないといけない……と宿に向かって歩いていたら、宿のはす向かいに小さな喫茶店があったのでアイスコーヒーでもと思い入店。そうしたら、喫茶「coffee shop喜蔵」は色々な種類のコーヒー豆の量り売りもやっている店舗だったので、Hさんへのお土産は数種類のコーヒー豆の詰め合わせ(お土産兼お中元)にすることにしました(いつもなら「サザ珈琲」の通販ですが)。アイスコーヒーにしてもらった「楼門ブレンド」というのが美味しかったのでそれを200g、一番高い種類の豆を200g、最後はお店の方オススメのモカを200g、豆のまま袋詰めした3つを箱に詰めて貰いました。
 温泉街の通りにはお土産屋さんが無く、地元密着の(だと思われる)和菓子屋が1軒あるだけです。「もりき」マスターご夫妻へのお土産はここになるかなぁ、など当たりをつけながら宿へ。

 宿泊は料理旅館「扇屋」、露天風呂付の洋間。
 CDデッキからJAZZが流れる室内、暖炉にテラスという非日常空間。露天風呂だけは純和風で総檜丸型、184cmの私が足を伸ばして肩までつかることのできる大きな浴槽です。浴槽の脇には豚の蚊取線香、匂い共々懐かしく。8時間保つ保温機能、設定温度は38度と温め。結局このお風呂には、夕食前・夕食後・夜明け方・朝食後、と4度の入浴をすることになりました。チェックインから食事の世話まで、全て部屋付きの仲居さん(専用の内線番号あり)がお世話して下さいます。
 旅館内の内湯は入り口の木札を裏返しで「空き/使用中」を示す貸切風呂が3箇所、15時のチェックインの後で一番風呂を2箇所梯子しました。

 内湯を2箇所梯子したら16時。その後、旅館の下駄を履いて先程の和菓子屋に行き、名物の「百合羊羹」なるもの(白あん・百合根)をマスターご夫妻へのお土産に購入。旅館に戻って部屋付きの露天風呂、計3回の入浴で1時間以上湯の中につかっている計算です。
 「料理旅館」だけあって夕食は豪華そのもの、料理長は『料理の鉄人』に出演して鉄人と引き分けた(ために延長戦で番組史上初の2週跨ぎになった)方だそう。

 8/7は「自粛御膳」をお休み、武雄温泉の料理旅館「扇屋」で部屋食の懐石を。
 メニューは月替りで品書きは以下の通り。
 ・食前酒(梅酒)
 ・先付け(長芋素麺/雲丹・叩きおくら・じゅん菜・青柚子)
 ・八寸(紫蘇俵結び・出し巻き卵・姫栄螺の旨煮・赤海月の中華和え・鞘隠元胡麻味噌和え・稚鮎の南蛮漬け・合鴨の治部煮・甘海老唐揚げ)
 ・椀(牡丹鱧清汁仕立て/じゅん菜・素麺・冬瓜・穂紫蘇・茗荷・梅肉・青柚子)
 ・向付(大トロ・障泥烏賊・真アラ・鮑・鯵・金目)
 ・煮物(夏野菜の炊き合わせ/小芋・蓮根・牛蒡・南瓜・小茄子・絹さや・車海老・蛸の小倉煮・おくら・茗荷・青柚子)
 ・焼物(黒毛和牛ステーキ・焼き野菜一式・大蒜チップ・胡麻酢・青柚子胡椒)
 ・揚物(夏の掻揚げ/芝海老・穴子・玉葱・コーン・アスパラ・抹茶塩・檸檬
 ・御食事(とうもろこし御飯/佐賀県産棚田米上場コシヒカリ・赤だし・香の物)
 ・水菓子(フルーツのコンポート・ミント)
 味もボリュームも見た目も良、舌脳腹眼が悦びました(ビールの後は、佐賀の日本酒「能古見」「東長」「鍋島」を堪能……の後で1杯だけ芋焼酎も)。

 露天風呂付個室のグレードも料理も、背伸びして選んだ甲斐のあるクオリティで、厄年最後の日に贅沢をさせて戴きました。冒頭に書いた通り、8/8の誕生日は湯豆腐付の朝食で最高のスタートが切れそうです……
 ……ただ、それでも多分、私はK市の懐石「G」の方に軍配を上げます。明日、8/8の夜は「G」のカウンターを独りで訪問、(グランドメニューに無い)特別なコースをお願いしています。これが偶然にも今日の「扇屋」の夕食コースと同一料金になったので、必然的に両者を比較することになってしまうんですよねぇ。

 なんてことをぼんやりと考えながら露天のお風呂でゆったり。お酒のせいか逆上せちゃったのか、何時頃にベッドに入ったのかの記憶は定かではありません。