思い出す 秋の日 一人ぽっちの夜

 本日のF校は昨日生徒に一斉メールが送られた通り、2時間遅れの開始で3~6限の4限授業。JR九州の復旧作業がそのくらいかかると見込まれたため。私は時間割を組んだ時点で用済みではありますし、職員室内の時間割掲示白板の訂正等の作業は昨日の職員室で終わらせていたのですが、やはり当日朝に行うべき細々とした作業・連絡事項等はありますので、旅行出立前に学校に立ち寄ることに。
 4時半起床。1泊2日なので旅行の荷物は軽く(帰りは陶器で重たくなります)、朝風呂を溜めている間に、着替え・本・CD・サプリメント・洗面具等を小さなバッグ1つに。入浴後に着替えて(私服です)、タクシーで学校まで。7時に学校入りして1時間程事務作業を。管理職の先生に労いのお言葉を頂戴しましたが、連休明けの平日2日を年休にして遊びに行く不良には勿体なく。学校からJRのK駅までも贅沢にタクシー移動。

 K駅から新幹線で博多駅。一旦ホームから出て、博多口徒歩3分の所にあるコロナの検査所へ向かいます。PCR検査の時間はありませんが、一応気休めに抗原検査(15分で結果が分かります)だけでも受けておこう、と。県民無料。防護服のお姉さんから手渡された書類に必要事項を記入してキットと交換。鼻の奥に細い棒を差し込んで検査液につけ込みます。以前、薬局で買った検査キットを自宅で試したことがあったので、やり方は大体分かっています。結果は陰性で、簡易の証明書も貰えました。私が検査をしている15分の間にやって来たスーツ姿の男性(私より一回り上くらい)は常連(?)らしく熟れた所作、お姉さんとのやりとりも最小限。
 博多駅の「コメダ珈琲」で40分の時間潰し。アイスコーヒーを注文したらサービスのモーニング(パンその他)は必要かと聞かれたのに驚きましたが、昼食を旅行先で摂るつもりなのでお断り。その後、新幹線で新山口駅へ。新幹線は動いていますが、新山口駅は11時の時点でも在来線が全てストップしていました。確か、昨年夏の訪問時も台風を追いかける格好の旅行になり、在来線ストップで新幹線だけしか動いていなかったような気がします。薄氷渡り。

 在来線が動いていなくても大丈夫なのは、新山口駅からは1時間で長門湯本に到着する乗り合いタクシーが出ているから(料金は片道2000円)。連休明けの平日、而も台風通過の直後ということで他に人が居ないかなと思いきや、私を含めて4組5人の乗客。女性2組3人は「うつわの秋」目的なのかなと推測しましたが、大学生にしか見えない若い男の子が1人で乗っていたのは意外。
 今回の旅行は長門湯本温泉1泊2日、目的は街を挙げてのイベント「うつわの秋」で作家・田原崇雄氏(13代目田原陶兵衛氏のご子息)の作品を購入すること。昨年の訪問時に田原氏の作品に惹かれたことがその後の自炊生活を一変させた、謂わば人生の路線変更のきっかけになった街に2度目の訪問です。

 12時に温泉街着。広々とした駐車場ですが車は疎らで、狙い通りではあるのですがお祭り(連休スタートで10日間程度)の最中と思えばやや寂しい印象。左右数百本の竹に囲まれた「竹林の階段」を降りれば温泉街、目の前を流れる「音信(おとずれ)川」は台風直後の濁り方で、左右の岸も泥の汚れが目立ちます(街の人たちが清掃の最中でした)。人通りは殆ど無し。
 先ずは、階段を降りた広場(恩湯広場)にある食堂「恩湯食」にてランチを。先客1組2名、私が3人目の客(私が食事をしている最中に3組目)。地元野菜のマリネと、長門名物の鶏を使った温かいうどんを注文。広場に面したガラス壁は全て開放されているのですが、涼しいを通り越して少し寒いくらいの気温です。マリネもうどんもとても素敵な陶器に入っていたのですが、店の人に伺えばこれは長門湯本萩焼ではなく他県のものだそうで残念。
 「恩湯食」を出たら川沿いを歩いて徒歩1分の場所に今夜のお宿「原田屋旅館」。昨年も宿泊した老舗旅館です。入口扉を開けて女将さんらしき方と目が合った瞬間に「池ノ都様?」と聞かれたので今夜の宿泊客は私だけなのだと知れました。チェックインまで数時間あったのですが、旅行鞄を預けて抗原検査の陰性証明書をお渡し。

 その「原田屋旅館」から歩いて3分の場所にはカフェ「音」が。ここが「うつわの秋」の第3会場なので、食堂から梯子でアフターコーヒーを楽しむことに。チーズケーキセットを注文。
 地域5つの陶房の作家が一堂に会する「うつわの秋」、今年が3年目のお祭りに初訪問です。町内3箇所の会場で、各作家さんたちの作品を展示販売。その他「うつわ」に因んだ各種イベントが催されており、例えば川床で作家さんたちにお茶を点てて戴く「川床喫茶」というイベントに事前申し込みをしていたのですがこれは台風の影響で当日中止の決定が残念。また、第2会場になっているショップが火曜定休なので訪問できるのは第1・第3会場のみです。
 しかし、この第3会場「音」は私が狙っている田原氏の作品を中心的に扱っているカフェなので、ここが開いていれば私的には上々。実際、昨夏の訪問時に購入して以来手持ちの食器の中で最も愛用しているお皿(刺身や小さな煮付けが乗るくらいの長方形の茶色い皿)はここで購入したもの。「ピラ掛け」と呼ばれる手法で粘性の強い釉薬を網状模様に施したデザインがユニークでお気に入りなのです。今日は、同じ「ピラ掛け」の黒い皿(正方形)があったので、入店してまだ席に着く前に店主さんに「購入させて下さい!」と迫る落ち着きのなさでした。コーヒーをじっくりと抽出して戴いている間に店内に陳列されている作品を鑑賞。持ち手が工具になっているぐい飲みは田原氏独自のユニークな作品、これは昨年訪問時に一つ購入しています。同じデザインのペーパーウェイトがあったのを買おうかと迷って今回は断念しました(予算内で食器に集中しようと思います)。ここでは、先に書いた黒い皿と、可愛らしい箸置きとを購入。

 第1会場は街の象徴とも言える「恩湯」の休憩スペース。ガラス張り畳敷きの会場内に作家さんごとの展示スペースが設けられています。一応全員の展示スペースを一通りは眺めたのですが、半ば先入観なのかどうしても田原氏の作品が光って見える。陳列台の前に正座したまま30分程熟考して、7角形のデザインが面白い藤色の小皿と刻線カップ(ビールタンブラー)とを購入しました。後で聞いたらレジのお兄さんが作家さんのお一人だったそうで、田原氏以外のスペースを等閑に付すような態度だったかと少し後悔。
 街を訪問してまだ2時間しか経っていない内に「うつわの秋」に関する用事はほぼ終わってしまいました……が、第1会場を出てから「本丸」が残っていることに思い至り。そうだ、陶房にお邪魔すればいいじゃん。温泉駐車場から歩いて5分の場所に有名な「大谷山荘」、更に10分歩いた(温泉街からは離れた)場所に、350年の伝統を誇る「萩焼・深川窯の里」があります。5つの陶房の中の一つ「田原陶兵衛工房」の次代が田原崇雄氏、電話をして尋ねたら店を開けて下さるということだったので勇んで歩きます(本来なら小走りになるところですが、手には陶器の入った紙袋を提げていますので慎重に)。

 「工房」で出迎えて下さった(恐らく13代目の奥様らしき)女性に崇雄氏の食器を拝見したいこと、「うつわの秋」の会場に出ていないものがあれば嬉しいこと、をお伝えしたら「それなら本人に直接聞きましょう」とまさかの言、確かに「本丸」だからあり得ない話ではないのですが、本当に電話一本で作家さん本人がやって来て下さいました。「推し」を前にして俄然挙動不審になる私。
 スマホに保存していた写真をお見せしてお皿のファンであることをお伝えしたら大変喜んで下さって、新作のお皿を沢山見せて下さいました。その中の「Tシリーズ」と名がついたお皿(同型の大中小3枚を同心円状に重ねられるデザイン)を購入。その後、崇雄氏に陶房の登り窯を案内して戴き、「深川窯の里」の歴史や近年の(温泉街とタッグを組んだイベント等の)取り組みについて30分程詳しいお話を聞かせていただきました(昨年の訪問時にはお父様に案内していただいた私、贅沢極まりないですね)。最後に登り窯の写真……に、崇雄氏に入って戴く図々しさ(地下アイドルのチェキのノリ)。

 歩いて「原田屋旅館」に戻り、再び荷物(陶器)を預けて出かけます。ここからの町歩きは、CDウォークマンを取り出してイヤホン装着。
 夏に旅館の予約をした時点ではこんなことになるとは思いも寄りませんでしたが、先日、おおたか静流さんが旅立たれました。音信(おとずれ)川の畔を、5月発売の静流さんの最新作『おとづれ』を聴きながら歩きます。20年前静流さんの声を評して「音が景色を変える(大意)」と書いたのは椎名誠ですが、まさに。沁沁とした寂しさとともに身を以て知りました。
 音信川沿いを歩いて脇道に入るとそれが参道、歩いて歩いて街の外れに「大寧寺」。境内を散策して、稲荷神社にもお詣り(合格祈願の鉛筆を買い込みました)。約1年ぶりですので、石組みの奇橋やマスクの狐等々、大体の場所は全部覚えていました。帰り道では5月に倒産した老舗大型ホテル「枕水」の廃墟を巡るなど前回の訪問ではやらなかったことも。

 「原田屋旅館」にチェックインして先ずは旅館の大浴場へ。何しろ本当に私一人のために整えられている(旅館入り口の「様プレート」は私の1枚だけでした)のですから贅沢の極み、微温湯なのをいいことに30~40分くらい浸かってしまいました。
 その後、旅館の下駄を借りて外に出て向かったのは「恩湯」。温泉の梯子なんというのは初めてかも知れませんが、この街に来て「恩湯」に浸からないという選択肢はあり得ません。900円という強気の価格設定ですが、泉源の真上に経った温泉(1メートルの深さ)に岩盤から湧き出るお湯を見ながら入浴でき、観光体験付きだと思えば納得のお値段。こちらも40分独り占めの入浴でした。
 湯冷ましの町歩き。前回の訪問時は夕食を18時にしていたので出来なかったのですが、今回は19時でお願いしたのでライトアップされた街並みを歩くことが出来ました。これまた『おとづれ』を聴きながら。

 9/20は「自粛御膳」をお休み、旅行先の長門湯本「原田屋旅館」で上げ膳据え膳の絶頂感。
 河豚を口にするのは前回この宿に訪問した時以来1年超ぶり。今日は単独客の私に対しあらゆるサービスが女将さん手づから、最高のホスピタリティでした。女将さんから尋ねられるままに長門湯本滞在の感想を話し……
 ……たら、私の「推し」の田原崇雄氏は「娘の同級生」で、そのお父様の田原陶兵衛氏は「私の同級生!」なんですって。楽しいですね。
 ビール1本、日本酒は山口「五橋」から「東洋美人」、ダメ押しに寝る前のビール1本。

 健康睡眠。

 あ、知らなかったんですが、陰性証明(今朝の抗原検査陰性レベルでもOKと言われました)があれば、今は5000円offな(県から宿泊施設に補助がおりる)んだそうです。而も2000円分の商品券(県内使用限定)まで貰えるとか。ラッキー。