日々それぞれ 想いを清映す つづれの模様

 早朝起床、母君にHさんの炊き込みご飯を差し上げてから入浴。旅行準備……とは言っても、近場の山口に1泊2日(実際に自宅を離れるのは30時間弱)ですので大した荷物は不要。但し、温泉街をよく歩きますしお風呂にも複数回入りますので、タオルとTシャツとは3枚以上準備しました。CDは2枚、乗り物での移動中は中島みゆき「心音/有謬の者共」、温泉街散策中は街を流れる音信(おとずれ)川に因んでおおたか静流『おとづれ』(去年に引き続き、故人を偲んで)。コンビニエンスストアが存在しないエリアなので、忘れ物がないかは二重三重に確認が必要です。

 本日から2日間は完全に年休。高3が外部模試受験で授業が無いのを利用して、この時期(9月中旬~下旬)の恒例にしたい長門湯本温泉に1泊2日です。新幹線で新山口まで出れば、駅前から乗り合いタクシー(乗客は9人まで)が1時間で温泉街まで運んでくれるという、車を持たない人間には大変有難いルートで。9月を恒例にしたいのは、この時期にエリア内の萩焼5陶房(作家8人)の作品をフューチャーした「うつわの秋」というイベントが開かれており、その中に私の「推し」の陶芸家さんが居るからです。
 JRのK駅を10時4分に出る新幹線で博多、駅弁(「やまや」特製のもの)を購入して乗り換えた10時36分発の新幹線で新山口まで40分弱、車内では少し早い昼食を。長門湯本には昼食を食べる場所が少なく(僅かに3箇所)、食堂「恩湯食」は去年行きましたし、瓦蕎麦「柳屋」は火曜定休ですし、残る1軒は夜の独酌で予約をしているのですね。
 11時15分に新山口のバス乗り場(乗り合いタクシーは大きな車両なのでタクシー乗り場ではなくバス乗り場から出発)に発車5分前に着いたところ、9人乗りの乗り合いバスが(私を含めた)予約組で埋まっており、予約なしの飛び込み客のために2台目の手配がなされている最中でした。連休明けの平日だから余裕だろうと思っていたのでかなり意外。2年前も去年もタクシーはスカスカでしたが、「うつわの秋」の知名度が上昇してきた証拠でしょうか(そう言えば、昨年から、福岡と長門湯本とを直接結ぶバスが毎日出るようになっています)。因みに、1台目に乗った9人の乗客、私以外は還暦だって若造に見えるだろう人生の大ベテランばかりでした。

 温泉エリアを見下ろす高台にある大駐車場(音信川沿いの道は歩行者優先で地元民以外の車は通りません)でバスを降り、竹林が美しく整備された大階段を川に向かって降りていくと、エリアの中心「恩湯広場」に。過去2年は食事つきの旅館(一人客OKの「原田屋旅館」)に宿泊したのですが、今日は素泊まりのホテル泊(「ホテル」と言っても、部屋は畳敷きでチェックイン時には布団が敷かれているタイプ)。今日の宿は昼から荷物を預けるなどというサービスが期待できない(実際、到着直後に電話をかけても誰も出ませんでした)ので、チェックインの15時半までは全ての荷物を手に提げて移動することに。
 先ず嬉しいのは(ちょっと暑いのはありますが)天気が良いこと。一昨年、昨年はどちらも台風が通過した直後の訪問で、音信川が茶色い濁流だったのです。透明な川の穏やかな流れを見るのも、名物の飛び石で(橋を使わずに)川を渡るのも、今回が初めてです。正直、荷物よりも、傘と湿度と靴に染み込む水との方がお散歩の邪魔になりますもんね。

 エリア中央にあるの「恩湯」は2020年の町おこしでスタイリッシュな施設に変貌しましたが(正直、地元の人からは不評だったんじゃないかな)、湯船から見える源泉は注連縄で祀られており厳か。深さ1メートルの湯船で温湯(38℃)に浸かりながら、岩場からお湯が染み出す様子を眺めるという、多分全国でも珍しい入浴体験が出来る場所なのです。入湯料は前より値上がりしてるような気がします。驚くなかれ強気の990円(大人)。
 その「恩湯」の休憩スペースが「うつわの秋」の中心会場で、前述萩焼5陶房の作品が展示販売されています。他に、エリア内の喫茶「cafe&pottery音」が展示販売会場に(本当はもう1箇所あるのですが、火曜定休のため断念)。

 さて、その5陶房8人の中で、私の「推し」なのは田原崇雄氏という方でして、「田原陶兵衛窯」の第13代田原陶兵衛氏のご子息、1982年のお生まれなので私の2つ下です。3年前に訪問した時に何となく窯の直売所・及び前述の喫茶「音」を訪問したら、そこで展示販売されていた幾つかの作品に一目ぼれしてしまいまして。その時に購入した茶色の(ペラ掛け? という模様が施された)長方形皿は煮魚や刺身やを乗せてその後ずっと愛用していますし、ビールタンブラーもぐい飲み(持ち手が工具の形になっているユニークな作品)も見るだけで楽しい気分になりますし、3年経っても上達しない自炊をそれでも諦め(投げ出さ)なかったのは崇雄氏の作品のおかげだと言っても過言ではない……ということは、或る意味(比喩ではなく)私の人生を大きく変えて下さった方だということになります。だから「推し」です。
 先ずは喫茶休憩がてら「音」へ行き、展示されていた碗に早速射貫かれてしまいました。昨年購入したビールタンブラーと同じ柄、両手に包んで心地よい。これにきりざいをいれたり、常夜鍋のとんすい代わりにしたり、と思い浮かべる用途はやや罰当たり気味ですが……アイスコーヒーを運んできてくださった店主さんに聞けばお値段は10000円(税抜)。他に、黒い丸小皿2000円に、箸置き(ネジの模様の工具シリーズ)500円も気になります。店主さんに他の会場・陶房を回ってからまた来ますとご挨拶をして店を出ました。

 その後、先ずは「恩湯」(喫茶から歩いて5分弱)に浸かってからだと、1日利用券1500円を購入。旅先では最初に神社にご挨拶、という感覚で注連飾りの源泉を眺めつつ30分湯船でぼ~っとしている内に、あのお碗、在庫が2つしかないと店主さんが言ってたな、というのがどうしても気になってしまい……
 ……結局、風呂上がりに「音」へ戻って(店主さんに「お帰りなさい」と言われました)、お碗・小皿・箸置きをまとめて購入しました。12500円に消費税を合わせて、13750円也。その後、「恩湯」会場の作品を30分程鑑賞。作家8人の作品を全部見たら、やっぱり自分は崇雄氏の作品に惹かれる心になってしまっているというのが分かります。ただ、この会場には先のお碗ほどに触れるものがなく、電話でアポイントメントを取ってから温泉街郊外の陶房に出向くことにしました。今日は、まだ、ペラ掛け模様のお皿を見ていません。

 温泉街を音信川沿いに歩いて街の入口を出て、少し歩いたところにある高級旅館「大谷山荘」を更に超えて単線線路沿いに歩き、山間へ連なる道を10分ほど歩けば三ノ瀬(そうのせ)と呼ばれる地区にたどり着きます。車に踏み潰された蛇がペラペラのカピカピになってるようなアスファルトの田舎道、左右の田畑には彼岸花、来る季節が毎年同じなので当たり前ですがここはいつでも彼岸花が咲いているというイメージがあります。
 陶房にはお父様(13代目)もご子息(崇雄氏)もいらっしゃいませんでしたが、ペラ掛けの小皿(既に持っている茶色・黒ではなくオレンジ色)を1枚購入出来ました。3000円(陶房では消費税おまけ)の皿1枚を買うだけの客なのに、登窯を見学させて頂いたりお茶を御馳走になったりと、有難いおもてなしを。結局、今回の収穫は4点ということになりました。

 再び「恩湯」近くに戻って「恩湯食」で休憩(ペリエを注文)。「恩湯」で2度目の入浴を楽しんだ後、15時半丁度にホテルにチェックインしました。10畳の和室に荷物を下ろして一気に身軽、日本茶を1杯飲んで、スマホを充電しながら無課金パズルゲームで少し遊んで、16時から夕方の散歩へ。
 大寧寺の旧参道は、単線線路を踏切無しで渡るところがちょっと怖いですが(「とまれみよ」の看板はあります)、三ツ辻と呼ばれる道標だったり、赤ずきんを被った多くのお地蔵様だったり、見所のある山道です。大内氏終焉の地として知られる曹洞宗名刹、境内は広々としており、山口県三奇橋の一つ(自然石を組んだだけの橋)を渡ることが出来るなど散策も楽しく。
 ホテルに戻った後、歩きに歩いた汗を流す場所には、部屋風呂でも大浴場でもなく本日3度目の「恩湯」を選びました(ホテルのタオルを持ち込んで)。1度目・2度目は1人で貸切状態でしたが、夕方の3度目は恐らく地元の方であろうお爺様お2人と一緒で、湯上がりの脱衣所で観光客らしき若者2人とすれ違いました。

 夜はホテル徒歩1分の場所にある「さくら食堂」へ。ここの焼鳥が美味しかった。ガリと大葉とをトッピングしたトマト、ご当地の魚介「平太郎」の網焼き、を突き出し代わりにビールを飲んで、山口地酒に移ってからは長州鶏(K市とは違って長門の焼鳥は基本的に鶏、鶏と野菜と以外には豚バラとエツ蒲鉾の串があったくらい)をメニュー制覇の勢いで。今回の旅行計画中に初めて知ったのですが、長門市は日本有数の焼鳥圏なのだそうで、「さくら食堂」は市街最有力店舗の姉妹店なのだとか。18時前の店内は、カウンターが私を含めて3人、小上がりに中国系の3人組、奥座敷に地元のご家族1組、となかなかに繁盛。
 K市の焼鳥と最も違うところは、卓上に塩・一味・胡椒などと同じ扱いでガーリックパウダーが置かれているところで、もうガンガンに振りたくって食べるそう。郷に従いつつ、内心では「Guiltyが過ぎるだろ……」と。ですが、焼鳥アフターに豚骨ラーメン食う土地からの旅行者にツッコむ権利はないかも知れません。

 「さくら食堂」を出て徒歩3分(宿泊ホテルを通り過ぎて歩きます)、瓦そば「柳屋」の2階が「BAR NAGATO」で、軽い飲み直しのつもりで初訪問。川の見えるオーセンティックバー、お呼びでないのは分かっていますが旅先の蛮勇、突き出し(?)の玉葱ポタージュにビビりながら、ベテランのバーテンさんに(滅多に飲まない)ウィスキーを1杯だけ飲ませていただきたいとお願い。「普段は何をお飲みで?」と聞かれてタラモア・デューを挙げたら、その近くだというグレンダロッホ(13年)という瓶が出てきました。ストレートとチェイサーと別に、常温の水とスポイトのセットが出てきました。話には聞いたことがありましたが初体験、「ワンドロップ」で香りが立つんですって。
 因みに、昨夜(祝日の夜)はこのバーで13代田原陶兵衞氏のトークイベントが行われたそう。そこに田原崇雄氏もお出でで、マスターから「明日(今日のこと)は用事があって出て行くと言ってましたから、陶房には居なかったでしょう?」と言われました。エリアが狭い。因みに、雨災害で現在全線がストップしている美祢線長門湯本駅を含む)はそのまま廃線の可能性もあるそうです。
 お話ししている内に興が乗って、最後はデザート代わりのフルーツカクテル(キウイ1個を丸ごと使ったもの)を注文しました。

 ライトアップされた夜の音信川を散策してからホテル帰還、部屋の冷蔵庫には近くの個人商店(コンビニ代わりなのかな)で購入したクラフトビールが2本、豆菓子も少しだけ買ってあります。軽く飲み直してから、健康的に入眠。