カニカマの夕べ

 本日から、博多で1泊、東京4泊の旅行です。ご仏前のお茶とご飯とを毎日交換することが出来なくなるので、5日以上賞味期限がもつもの(カロリーメイトや野菜生活、プリッツなど)を籠に盛ってお出しするという親不孝者。5日分の着替え、アメニティやサプリメント、本にCD、身軽を心がけても手提げの旅行バッグは結構な重さになります。持ったまま街を歩くのは面倒くさい。

 というわけで、K市から博多駅まで新幹線で移動した後は、直ぐに徒歩圏内のホテルに出向いてフロントに荷物を預けました。さてお昼はどうしようかと思ったら、ホテルから徒歩2分の通りがかりにちょっとした行列。どうやら11時開店のラーメン屋を待っている様子だったのに、旅の身の気まぐれで自分も並んでみたら……入店まで30分近くかかってしまいました。初訪問、「一幸舎総本店」です。
 ラーメン屋の麺は店が推している筈の「普通」を頼むのがベストだという信憑を持っているのですが、その体で注文したらこのお店の麺は私には硬過ぎました。それなのに周りの多くが「バリカタ」を注文していてこれは正に文化の違い、私はどうやらお呼びでなかったようです。開店5分前に並んだ私は10数組目(二巡目)だったのですが、店を出たときには50人ではとてもきかない人数が並んでいて驚きました。日曜日だとしてもすごい。

 ラーメンというよりは時間を食ったという感想、店を出たら既に開始時刻十数分前だったので、博多駅まで全速力で走ってタクシー乗り場に並び、中洲川端の映画館まで飛ばしてもらいました。席は空いていたので良い場所を確保できましたが、上映会場に入った時には開始前の予告映像がほとんど終わっていました。正にギリギリセーフ。
 目的の映画は三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』。先天的に聴覚をもたない女子プロボクサーの日常を描いた静かなる激作でした。音楽は(特殊な使われ方をした極々一部を除いて)無し、そのためにクリアに響く全ての物音が主人公だけには聞こえていない、という事実を終始突きつけられてきます。岸井ゆきのという女優は顔も知らなかったのですが、試合中の眼力がとにかく圧倒的で、台詞ほぼ無しの所作と表情とだけで主人公の複雑且つ「正直」(←ここ重要なので括弧で協調)な為人を演じきって見事。他の役柄を演じているところを一度も観たことがなかったのは幸運だったのかな、と。
 行きは(急いでいたので)エレベーターで上映会場までのぼり、帰りは階段を使って地上までおりるのが「中洲大洋」の味わい方。階段の途中の壁に、懐かしの映画会社のロゴを並べたクイズ(?)コーナーがあるのです。

 ホテルに戻ってチェックイン、入浴後に着替えて出発。博多泊のメインは国際会議場にて清水ミチコさんのリサイタルです。
 何故かクリスマスに福岡公演を選ぶみっちゃん(救済なのか煽りなのか、聖夜が寂しかったことがないです)、サンタさんからの今年のプレゼントはA列(つまり最前席)のチケットでした。今年のツアー、副題は「カニカマの夕べ」。自らを「カニカマ」に喩えるこのタイトルだけからも天才の仕事だと分かりますし、裏テーマに持ってきたユーミン50周年とカニカマ開発50周年とが偶然被るという運をお持ちだという点も素晴らしいと思います。今年のステージは、ラストで2回「陳腐陳腐」と繰り返す歌詞で某国を巧みに皮肉るなど、時事ネタに良作がふんだん。加藤登紀子も態々電話してきて絶賛したという「百万本のバラ」はYouTubeで公開されています。

 終演後はタクシーで赤坂へ。目的地は寿司割烹「いでの上料理店」。10月に63回生Iくんと初訪問した時に、その場で次をと本日の予約を入れておいたのです。その時に「すみません、聖夜に辛気臭い一人客で」と詫びる四十過ぎにお店は優しかった。
 お店に許可を取って、お料理の写真とメモ帳へのメモをとりながらの独酌。メモは使われている食材だけを書いています。例えば最初のお皿なら「カナトフグ・蕪・山葵菜・雲丹」、次の茶碗蒸しは「鱈白子・有明海苔・カマンベール・米」といった風(私、白子は多分もう大丈夫な人間になりました)。お寿司の直前には地鶏と九条葱とを水炊き風にしたお椀が出て福岡っぽく。お寿司は11貫(鰆・槍烏賊・縞鯵・本鮪・子持ち昆布・車海老・海老塩辛・鯖・雲丹・鰻・稲荷)で、その後で卵と煮麺とがついてきました。
 ビールを2杯飲んだ後で日本酒へ以降。「産土」~「鍋島」~「瀧自慢」~「ちえびじん」。

 赤坂から博多まではバスで移動、ホテルに戻って健康的に入眠。明日からは4泊5日の東京旅行。